HOME > 書籍詳細

書籍詳細

糖尿病学2010診断と治療社 | 書籍詳細:糖尿病学2010

東北大学大学院医学系研究科分子代謝病態学(糖尿病代謝科)教授

岡 芳知(おか よしとも) 編集

山口大学大学院医学系研究科病態制御内科学 教授

谷澤 幸生(たにざわ ゆきお) 

初版 B5判 並製 168頁 2010年05月25日発行

ISBN9784787817730

定価:本体9,500円+税

最新の糖尿病の研究成果を収録したイヤーブックの2010年版。糖尿病研究者のみならず、一般臨床医にとっても必読の書。

関連書籍

ページの先頭へ戻る

目次

糖尿病学 2010


口絵 
序文 
執筆者一覧 
 
基礎研究
  
1.肥満の脂肪組織における Angiopoietin-like protein 2 の役割
[田畑光久,門松 毅,尾池雄一]
■はじめに 
■Angptl2 と炎症性血管形成 
■肥満における Angptl2 の役割 
■動脈硬化における Angptl2 の役割 
■おわりに 

2.生体分子イメージングにより明らかになる  肥満脂肪組織における慢性炎症と CD8 陽性 T 細胞のかかわり
[西村 智,長崎実佳]
■なぜ生体分子イメージングなのか 
■肥満と慢性炎症―生体分子イメージングでみる肥満脂肪組織― 
■次世代のイメージング―深部を照らす機能イメージング― 
■おわりに 

3.脂肪組織におけるマクロファージ・フェノタイプとインスリン抵抗性
[薄井 勲,藤坂志帆,戸邉一之] 
■マクロファージには M1 と M2 という極性がある 
■脂肪組織のマクロファージ(ATM)にも M1,M2 という呼称が用いられた 
■脂肪組織 M1,M2 マクロファージマーカーの変化:
  高脂肪食およびチアゾリジン薬の影響 
■脂肪組織 M1,M2 マクロファージの遺伝子マーカー:
  CD206 は M2 マクロファージのすぐれたマーカーである 
■高脂肪食とチアゾリジン薬が脂肪組織 M1,M2 マクロファージ数に与える影響:
  M1,M2 マクロファージの組織内分布と kinetics の違い 
■チアゾリジン薬が脂肪組織 M1,M2 マクロファージの質に与える影響 
■代謝,インスリン感受性と ATM の関係 
■おわりに 

4.視床下部オレキシンによる骨格筋でのグルコース利用促進機構  ―動機づけ摂食行動との連関―
[志内哲也,箕越靖彦] 
■はじめに 
■オレキシンによるグルコース利用促進作用 
■オレキシンによる交感神経の組織選択的活性化 
■骨格筋におけるβ2アドレナリン受容体の役割 
■オレキシンによるグルコースの取り込み促進作用と VMH 
■オレキシンによるインスリン感受性増強作用 
■インスリン感受性増強作用におけるβ2受容体の重要性 
■動機づけされた摂食行動とオレキシンニューロン
■骨格筋グルコース代謝に及ぼす視床下部オレキシンの生理学的役割 
■おわりに 

5.ネスファチン-1 による leptin 非依存性食欲抑制機構
[清水弘行,前島裕子,矢田俊彦,森 昌朋] 
■はじめに 
■ネスファチン/NUCB2 と摂食行動
■ネスファチン-1 の同定
■ネスファチン-1 の末●梢●投与効果とその効果発現部位の同定 
■ネスファチン-1 による摂食抑制機構へのオキシトシン作動神経の関与
■ネスファチン-1 経鼻投与の可能性
■おわりに 

6.cAMP とスルホニル尿素薬の標的としての Epac2
[柴崎忠雄,張 長亮,清野 進]
■はじめに 
■Epac2 を介するインスリン分泌増強機構 
■SU 薬による Epac2FRET 反応の変化 
■SU 薬と Epac2 の結合と SU 薬による Rap1 の活性化 
■SU 薬によるインスリン分泌と血糖降下作用
■おわりに 

7.膵β細胞に発現する甘味受容体とインスリン分泌
[小島 至,中川祐子]
■はじめに 
■β細胞のもつグルコース応答性の分子機構 
■グルコレセプター説 
■グルコレセプター説復権の兆し 
■β細胞に発現する甘味受容体 
■今後の課題 

8.膵β細胞における phogrin/IA-2 の役割
[鳥居征司,竹内利行] 
■はじめに 
■Phogrin/IA-2 は受容体型チロシン脱リン酸化酵素ファミリーの 1 つである 
■Phogrin/IA-2 は神経内分泌細胞の分泌顆粒に局在する 
■Phogrin/IA-2 遺伝子欠損マウスの解析 
■膵β細胞株を用いたインスリン分泌機能の解析 
■Phogrin/IA-2 によるβ細胞増殖の調節 
■おわりに 

9.膵α細胞におけるインスリンシグナルとグルカゴン分泌調節
[河盛 段,Rohit N. Kulkarni]
■グルカゴンと糖尿病 
■膵α細胞 
■グルカゴン分泌の調節 
■インスリンシグナルによるグルカゴン分泌調節 
■グルカゴン分泌調節におけるグルコースとインスリンの関係 
■α細胞インスリンシグナルと糖尿病病態生理 
■おわりに 

10.再生膵β細胞ソースとしての膵外分泌細胞の有用性
[南 幸太郎,清野 進]
■はじめに
■膵臓の発生
■膵β細胞の再生
■分化転換による膵β細胞の再生誘導 
■膵腺房細胞からインスリン分泌細胞への分化転換 
■膵腺房細胞分化転換のメカニズム 
■おわりに 

11.膵β細胞における mTORC1 pathway の役割
[原 賢太,●濱●田水鈴,横野浩一]
■はじめに 
■膵β細胞特異的 Rheb 発現マウスの作製と mTORC1 経路の活性化
■膵β細胞における mTORC1 経路の活性化は良好なインスリン分泌をもたらす 
■mTORC1 経路の活性化は膵β細胞の成長を促進する 
■膵β細胞における mTORC1 経路の活性化は糖尿病発症を抑制する 
■まとめと問題点

12.日本人 2 型糖尿病疾患感受性遺伝子  ―どこまでわかったか―
[前田士郎] 
■はじめに
■2 型糖尿病感受性遺伝子研究 
■糖尿病腎症感受性遺伝子研究 
■おわりに 


展開研究 

13.HbA1c の国際標準化
[柏木厚典,西尾善彦] 
■はじめに 
■HbA1c の定義 
■HbA1c の測定法
■HbA1c の臨床的意義と限界 
■わが国における HbA1c 標準化の経緯と問題点 
■HbA1c 測定の国際標準化に関する 4 学会合同コンセンサス・ステートメント 
■日本糖尿病学会の HbA1c 国際標準化への取り組み
■JDS 値,IFCC 値,NGSP 値の換算式
■HbA1c の解釈としての HbA1c 換算平均血糖(ADAG)値
■HbA1c の糖尿病診断への応用 
■HbA1c(NGSP)値を糖尿病の診断基準に使用する際の問題点とわが国の対応 
■HbA1c の新しい基準,NGSP 値の応用に関する啓発活動の重要性 

14.空腹時血糖値と HbA1c値による糖尿病の発症の予測  ―The Kansai Healthcare Study から―
[佐藤恭子,林 朝茂] 
■はじめに 
■研究対象 
■HbA1c値が空腹時血糖値と独立して 2 型糖尿病発症の危険因子かどうか 
■空腹時血糖値と HbA1c値を同時に測定することが
  2 型糖尿病の発症の予測に有用かどうか 
■過去の論文との対比 
■おわりに 

15.糖尿病疾患関連遺伝子解析による糖尿病発症予測の可能性
[三宅一彰] 
■はじめに 
■日本人における 2 型糖尿病予測 
■白人における 2 型糖尿病予測
■疾患関連遺伝子同定の次のステップ
■おわりに

16.α-グルコシダーゼ阻害薬,ボグリボースによる 2 型糖尿病発症予防―その臨床的意義は?―
[河盛隆造] 
■はじめに 
■わが国におけるα-グルコシダーゼ阻害薬,
  ボグリボースを用いた Randomised Clinical Trial 
■試験手順 
■統計解析および中間解析 
■結 果 
■α-グルコシダーゼ阻害薬による 2 型糖尿病への進展防止,この作用機序は?

17.2 型糖尿病食事療法における糖・脂質比が糖・脂質代謝指標に与える影響
[児玉 暁,曽根博仁]
■はじめに
■研究の概要 
■本研究結果の解釈
■本研究の結果に対する留意点
■おわりに

18.HLA からみた 1 型糖尿病サブタイプの成因
[川畑由美子,池上博司]
■はじめに 
■発症過程(速度)による 1 型糖尿病の分類とその特徴 
■1 型糖尿病の遺伝因子としての HLA 
■1 型糖尿病と HLA との関係 
■1 型糖尿病サブタイプと HLA との関連 
■おわりに

19.劇症 1 型糖尿病における膵β細胞の急速な破壊機序に関する解析  ―エンテロウイルス感染と CXCL10-CXCR3 を介した自己免疫反応―
[田中昌一郎,会田 薫,西田頼子,丸山太郎,島田 朗,小林哲郎]
■緒 言
■エンテロウイルスの膵臓への感染所見
■膵島炎所見,浸潤細胞のサブセット解析および膵組織での HLA 発現所見 
■膵島への CXCR3 陽性 T 細胞の浸潤,膵島細胞における CXCL10 および
  インターフェロンγの発現,血中 CXCL10 濃度の上昇 
■劇症 1 型糖尿病での膵β細胞破壊のメカニズムに関する考察 

20.B 型インスリン抵抗症と Helicobacter Pylori 感染
[今井淳太,山田哲也,岡 芳知,片桐秀樹] 
■はじめに 
■症 例 
■B 型インスリン抵抗症 
■B 型インスリン抵抗症と自己免疫疾患 
■HP の宿主免疫に対する影響 
■B 型インスリン抵抗症における HP 除菌療法 
■おわりに

ページの先頭へ戻る

序文

糖尿病学 2010

序 文

 1976 年にスタートした「糖尿病学」は,今年で 35 年目を迎える.主として日本で,日本人により行われた世界をリードする研究を中心に,研究者自身によって臨場感あふれる解説をしていただくことに主眼をおいている.
 「基礎研究」の最初の 3 本は脂肪細胞の炎症とインスリン抵抗性に関するものである.田畑論文では,血管新生因子として同定された Angptl2 が脂肪細胞での慢性炎症,インスリン抵抗性,さらには動脈硬化に関与することを報告している.脂肪細胞において炎症の引き金になるのは CD8 陽性 T 細胞らしい(西村論文).そして,組織マクロファージの浸潤を促進するが,マクロファージにも極性があり,M1 マクロファージが代謝面からは悪玉である(薄井論文).
 食欲,睡眠,覚醒などを調節するオレキシンは,視床下部を介して骨格筋での糖代謝を調節する(志内論文).清水博士には,ネスファチン-1 による食欲抑制機構についての新知見を解説していただいた.
 β細胞に関連しては,まず,柴崎博士に cAMP センサーである Epac2 が SU 薬の標的でもある可能性を論じていただいた.β細胞のグルコースセンシングは,「代謝説」が有力である.β細胞の甘み受容体の発見により,「レセプター説」がリバイバルするのか(小島論文)? phogrin/IA-2 は,1 型糖尿病の自己抗原である.鳥居博士にはこの分子のβ細胞における機能について,現在までの知見を紹介いただいた.インスリンシグナルは,α細胞においても重要である.2 型糖尿病患者でのグルカゴン分泌異常はα細胞でのインスリン抵抗性による可能性がある(河盛論文).1 型糖尿病治療の切り札は,β細胞再生療法である.南博士にはβ細胞ソースとしての膵外分泌細胞の可能性を紹介していただいている.原博士からは Rheb-TG マウスの解析から明らかになった mTORC1 pathway のβ細胞での意義を紹介いただいた.基礎研究の締めくくりには,前田博士により,日本人 2 型糖尿病疾患感受性遺伝子がどこまでわかったかを解説いただいた.
 「展開研究」の冒頭は,HbA1c の国際標準化についてである.HbA1c は血糖コントロール指標のゴールデンスタンダードで,診断にも積極的に用いられようとしている.従来から,国内での測定の標準化が図られてきたが,今回,国際的な標準化を図るための取り組みについて,柏木教授から詳述していただいた.続いて,佐藤論文では,空腹時血糖値と HbA1c 値の同時測定がそれぞれ単独より糖尿病発症予測に有用であることが述べられている.糖尿病疾患関連遺伝子解析により発症ハイリスク群の同定は可能だろうか.三宅博士にはこの点について論じていただいた.先頃,ボグリボースを用いた日本人での糖尿病発症予防研究の結果が報告された.河盛教授にはその結果と臨床的意義を解説いただいている.食事療法は糖尿病治療の基本であるが,3 大栄養素の至適比については一定の結論に達していない.この点についてのメタ解析によれば,糖・脂質比の低い食事が糖・脂質代謝指標の一部に好影響を与える(児玉論文).
 1 型糖尿病では,急性発症典型例,緩徐進行型,劇症型の 3 つのサブタイプ別に HLA と疾患感受性の関連を検討すると,劇症 1 型は HLA が他の病型と質的に異なり,緩徐進行型と急性発症では,量的相違があることを川畑博士らにより報告いただいた.田中論文では,劇症 1 型糖尿病では,エンテロウイルス感染が契機となり,膵島細胞で CXCL10 が発現,CXCR3 を介して自己反応性 T 細胞が活性化されることが急速なβ細胞破壊に繋がることが紹介されている.今井らは,B 型インスリン抵抗症に ITP を合併した患者に対して,ITP の治療目的でピロリ菌の除菌を行ったところ,B 型インスリン抵抗症も治癒した一例を経験した.興味深い報告である.
 今年もわが国において,糖尿病学の分野ですばらしい研究が展開されたことがこの一冊からうかがえる.糖尿病学の進歩を刻むマイルストーンの役割を果たしえたと感じている.躍動感を読者のみなさんと共有できれば幸いである.
 最後に,非常に短期間で執筆をいただいた著者の皆様,編集に協力いただいた山口大学福田尚文博士,ならびに診断と治療社の関係者に感謝申し上げる.
平成 22 年 4 月
 岡 芳知
 谷澤幸生