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書籍詳細

虐待を受けた子どものケア・治療診断と治療社 | 書籍詳細:虐待を受けた子どものケア・治療

国立成育医療研究センター心の診療部 部長

奥山 眞紀子(おくやま まきこ) 編集

山梨県立大学人間福祉学部福祉コミュニティ学科 教授

西澤 哲(にしざわ さとる) 編集

筑波大学大学院人間総合科学研究科 講師

森田 展彰(もりた のぶあき) 編集

初版 B5判 並製 264頁 2012年02月29日発行

ISBN9784787818621

定価:5,280円(本体価格4,800円+税)

被虐待児のケアと治療に前駆的に携わってきた専門家らが,その最前線についてまとめた指南書.虐待が子どもの心理的状態に及ぼす影響を理解し,それをどう評価し治療・ケアしていけばよいか,豊富な症例とともにわかりやすく解説.児童精神科医,小児神経科医をはじめ,心理士,ソーシャルワーカー,ケアワーカー等に広く読んでほしい一冊.

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目次

巻頭言 /奥山眞紀子
執筆者一覧

Ⅰ 子ども虐待と精神的問題
子ども虐待と精神的問題  /西澤 哲
コラム:脳機能への影響 /友田明美,増田将人 

Ⅱ 虐待による精神的影響の機序と
  それに基づく治療
1. トラウマを中心として /西澤 哲
コラム:EMDR /海野千畝子
2.アタッチメント /青木 豊 
3.解離 /田中 究

Ⅲ 虐待による精神症状とその治療
1.行動の問題(幼児・学童期を中心に) /大石 聡
2.行為の問題 /富田 拓
3.パーソナリティ障害および暴力 /森田展彰
4.アルコール・薬物の問題 /森田展彰
5.性的虐待による症状とその治療
1) 初期介入と治療  /奥山眞紀子
コラム:性的虐待を受けた子どもたちのためのグループ
      ―その可能性について―  /白川美也子 
2)長期的予後と治療  /石井朝子

Ⅳ 虐待傾向のある親の理解と対応
虐待傾向のある親の理解と対応  /笠原麻里 
コラム:グループケアとモチベーション・アプローチ
     /徳永雅子
コラム:コモンセンス・ペアレンティング  /野口啓示

Ⅴ 治療の場による介入
1.地域における治療・ケア /小野善郎
2.社会的養護における分離ケアと精神医学的支援・治療
     /星野崇啓
3.入院治療 /杉山登志郎,中嶋真由美,加藤明美

参考資料  
索引 

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序文

巻頭言

 子ども虐待に関する社会の関心は1990年代から高まり,その介入のための制度などは徐々に整えられてきている.しかし,子どもの時期に受けた虐待の影響はその後の人生に影を落とすことはいうまでもなく,精神障害に至るリスクも高いと考えられているにもかかわらず,虐待を受けた子どもにとって必要な精神的なケアや治療がなされて,他の子どもと同じように人生を楽しみ,世代間連鎖をなくして次世代に影響しないよう対策がなされているとは言い難い状況である.
 そこで,本書では先駆的にケアや治療に関わってきたメンタルヘルスの専門家に依頼して,現状で考えられる虐待を受けた子どもと親のケアと治療の最前線についてまとめた本を編集することとした.執筆をお願いしたのは,実際に虐待を受けた子どもやその思春期・青年期の問題への治療やケアを行っている臨床家である.海外で開発された治療法やプログラムの紹介にとどまるのではなく,肌で感じている問題を盛り込んでいただくことが実際の治療に重要であると考えたからである.
 虐待を受けた子どもへのケア・治療のスタートは子どもたちの心理的状態への理解から始まる.そこで,本書では,まず,虐待を受けた子どもを理解することに必要な心理的機序であるトラウマ,愛着,解離に関して,それぞれの専門家に,その理解,アセスメント,治療的アプローチに関して解説をお願いした.そして各論として,虐待によって起きることの多い表面に現れる精神症状とその治療に関して,行動の問題,行為の問題,人格の問題,依存の問題について取り上げ,それぞれの専門家に論じていただいた.また,これから発見が増加する可能性のある性的虐待に関して,初期の対応と長期的視野でのアプローチに分けて論じた.さらに親の治療に関しても,子どもにとって重要なケア・治療の一環と考えて一つの項目として扱った.また,本書の特徴として,心理的機序を裏づける脳機能への影響,および現在取り入れられている治療法やプログラムをコラムとして載せている.これらを総合して,現場でのケア・治療の参考にしてほしい.
 本書では扱いきれなかった問題も少なくない.虐待を受けた子どもへのケア・治療はまだまだ確立されているのではなく,試行錯誤が続いているからである.虐待を受けて適切なケアと治療を必要としている子どもは多い.虐待を受けた子どものケア・治療に当たる精神科医,心理士,ソーシャルワーカー,ケアワーカーなどの専門家が増加し,治療の方法が発展することを祈ってやまない.そしてその出発点として本書が役に立つことを念じている.
 なお,本書は昨年の春に発行予定であった.日々,臨床現場で忙しくしていることに加え,昨年3月11日に起きた東日本大震災への対応が加わり,執筆者や編集者の負担が急速に増加し,執筆や校正作業が大幅に遅れることとなった.そのようななか,忍耐強く脱稿を待ち,超特急の編集をしてくださった編集部の皆様および会社の皆様に感謝申し上げる.また,われわれ大人を信じて自分の心を見せてくれた多くの子どもたちに感謝し,彼らの幸せを祈りつつ,巻頭の言を閉じたい.

2012 年 2 月
国立成育医療研究センターこころの診療部 部長
奥山眞紀子