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研修ノート

精神科研修ノート 改訂第2版診断と治療社 | 書籍詳細:精神科研修ノート 改訂第2版

自治医科大学学長

永井 良三 (ながい りょうぞう ) シリーズ総監修

東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 教授

笠井 清登 (かさい きよと) 編集

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 教授

三村 將 (みむら まさる) 編集

京都大学大学院医学研究科精神医学 教授

村井 俊哉 (むらい としや) 編集

広島大学大学院医歯薬保健学研究院精神神経医科学 准教授

岡本 泰昌 (おかもと やすまさ) 編集

東京大学医学部附属病院精神神経科 特任講師

近藤 伸介 (こんどう しんすけ) 編集

東京大学学生相談ネットワーク本部精神保健支援室 講師

大島 紀人(おおしま のりひと) 編集

改訂第2版 A5判 並製ソフトカバー,2色刷 640頁 2016年04月25日発行

ISBN9784787821904

定価:本体7,500円+税
  

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研修医をはじめ,若手医師,心理・精神保健福祉士,薬剤師,看護師など,精神科医療に関わる人が身につけるべき臨床知を網羅した解説書.心構えからコミュニケーション,症候学,診断,治療,各種法律・制度や書類の書き方まで,有用な知識を網羅した.また,精神疾患を患った当事者や家族,仲間,臨床実習を経験した医学生がそれぞれの視点からケアラー学を語った項目も設けられ“患者に学ぶ”が身につく画期的なガイド本である.

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目次

第1章  精神科研修へのアドバイス
A精神科医を志す研修医・学生諸君へ
 1.  価値精神医学とは何か−「人はどう生きるか」の科学 笠井清登
 2.  精神科医を目指す君たちへ 熊倉陽介,近藤伸介
 3.  若手精神科医へのメッセージ
精神療法医から−こころを理解するということ− 石川義博
 4.  若手精神科医へのメッセージ
「陰性症状」を再考しよう 岡崎祐士
 5.  若手精神科医へのメッセージ
罪を背負って生きる加害少年と向き合って 青島多津子
 6.  若手精神科医へのメッセージ
家族・当事者・精神科医の「トライアスロン」の経験から 夏苅郁子
 7.  若手精神科医へのメッセージ
統合失調症になっても大丈夫な社会を願って 岡田久実子
 8.  若手精神科医へのメッセージ
仲間の立場から 松本キック
 9.  若手精神科医へのメッセージ
当事者の声を聴こう 武原信正
B基本的素養
 1.  意思決定支援 熊倉陽介
 2.  リカバリーとは何か 宮本有紀
 3.  生活機能の評価 池淵恵美
 4.  ケアラーの支援 市橋香代
C研修の概要
 1.  後期研修施設の選びかた 神出誠一郎
 2.  後期研修医のライフスタイル 水谷俊介
 3.  精神保健指定医取得・専門医取得に向けて 渡邉義文
 4.  総合病院精神科での研修の重要性 明智龍男
D様々なサブスペシャリティ   
 1.  司法精神医学一般(鑑定・矯正医療)  岡田幸之
 2.  アディクション 佐久間寛之,樋口 進
 3.  てんかん 谷口 豪
 4.  がん(メディカルオンコロジー) 内富庸介
 5.  災害精神医療 加藤 寛
 6. 精神科救急 橋本 聡
E勉強のしかた
 1.  研修医の到達目標 神出誠一郎
 2.  教科書・参考書の選びかた 川上慎太郎,小池進介
 3.  カンファレンスの聞きかた・発表のしかた 岡村 毅
 4.  精神科医にとって研究とは何か 加藤忠史
 5.  研究倫理 尾崎紀夫,飯島祥彦
 6.  大学院・医学博士・海外留学 牧之段 学
 7.  学会での症例報告の準備と発表のしかた 田宗秀隆
 8.  医学論文の読みかた・書きかた 小池進介,西村幸香
 9.  英文論文執筆のコツ 笠井清登
 10.  留学のすすめ 高橋 努
 11.  家庭・子育てとの両立 菊地紗耶
F医療現場でのコミュニケーション   
 1.  医療コミュニケーションの基本 藤山直樹
 2.  精神科におけるコミュニケーションの重要性 内海 健
 3.  患者・家族とのコミュニケーション 垣内千尋
 4.  当事者・家族団体など地域保健福祉でのコミュニケーション 樋端佑樹
 5.  リエゾンにおける精神科 中嶋義文
 6. 救急医療における精神科 高野 晶
 7.  移植医療における精神科 野間俊一
 8.  精神科における臨床心理士の役割 津川律子
 9.  精神科における精神保健福祉士の役割と連携 向谷地生良
 10.  精神科における看護師の役割 宮本有紀
 11.  精神科における作業療法士の役割 髙橋章郎
 12.  精神科における薬剤師の役割 築地茉莉子
 13.  教育現場との連携 大島紀人,大沼久実子
 14.  職場との連携 梅景 正
 15.  多職種連携 渡邉博幸

第2章  精神科研修でマスターすべきこと
A精神疾患の疫学
 ■  精神疾患の疫学 西田淳志,安藤俊太郎
B脳科学からのアプローチ
 ■  脳のはたらき 高橋英彦
C面接・評価方法
 1.  面接の技法・マナー 宮岡佳子,宮岡 等
 2.  予診のとりかた 高橋 恵
 3.  精神科診断学入門 大野 裕
 4.  カルテの書きかた 亀山正樹,高嶺朋三
 5.  病 識 池淵恵美
 6.  小児の診かた 青木省三
 7.  症状評価 成本 迅
 8.  身体疾患のスクリーニング 和田 健
 9.  入院適応の決定 山田了士
 10.  行動制限 佐藤創一郎
 11.  入院治療のリスク管理(転倒・血栓・自殺・自傷行為・暴力行為) 熊倉陽介
D検査法
 1.  神経心理学的検査 村松太郎
 2.  心理検査①−投映法− 中原睦美
 3.  心理検査②−質問紙法− 濱田純子
 4.  精神疾患のための臨床脳波学 福田正人,平岡敏明
 5.  精神科で必要なCT/MRIの見かた 山下英尚
 6.  精神科で必要な核医学検査 松田博史
 7.  光トポグラフィー 里村嘉弘
E治療法
 1.  治療の説明と同意 仙波純一
 2.  薬物療法  
  1) 総 論 大森哲郎
  2) 睡眠薬,抗不安薬 橋爪祐二,内村直尚
  3) 抗うつ薬 竹林 実
  4) 抗精神病薬 久住一郎
  5) 抗てんかん薬 佐藤 靖, 古郡規雄
  6) 気分安定薬 寺尾 岳
  7) 小児における向精神薬の使用 宇佐美政英
  8) 高齢者における向精神薬の使用 岡村 毅
  9) 向精神薬と妊娠 山下 洋
  10) 向精神薬のリスク 尾関祐二, 下田和孝
  11)薬物療法の適正化 市橋香代
 3.  精神療法
  1) 支持的精神療法 堀越 勝
  2) 精神分析的精神療法 池田暁史
  3)認知行動療法 藤澤大介
 4.  電気けいれん療法(ECT) 金野倫子
 5.  精神科リハビリテーション 大久保 亮
 6. リワークプログラム 有馬秀晃,秋山 剛
 7.  治療目標の設定とそのモニタリング 石郷岡 純
 8.  患者や家族へのわかりやすい心理教育 市橋香代

第3章  症候からみる状態像
A症候からみる状態像
 1.  精神症候の診かた 和田 央
 2.  意識障害(意識混濁,意識変容) 孫 樹洛
 3.  知的機能の障害 幸田有史
 4.  記憶障害 上田敬太
 5.  幻覚・妄想 井上和洋,飯野 龍
 6.  感情・気分の障害 牧 隆平
 7.  興奮・暴力 枌 祐二
 8.  自傷行為 松河理子
 9.  自殺企図 三野浩也
 10.  食行動の異常 香月 晶
 11.  小児・思春期患者への対応 華園 力

第4章  疾患ごとの診断と治療
A統合失調症
 1.  統合失調症 井上秀之,笠井清登
 2.  統合失調症の早期介入 根本隆洋
 3.  生活臨床 井上新平
 4.  非定型精神病 須賀英道
 5.  遅発緊張病 古茶大樹
【Case Study】人生行路と支援 近藤伸介
B気分障害
 1.  うつ病 中川敦夫
 2.  身体疾患とうつ病 谷 将之
 3.  認知症とうつ病 布村明彦
 4.  双極性障害 坂元 薫
【Case Study】薬剤最適化までの6年の経過 近藤伸介
C神経症性障害
 1.  社交不安症/社交不安障害(社交恐怖) 柳川和音,大坪天平
 2.  パニック症/パニック障害 高塩 理
 3.  全般不安症/全般性不安障害 田島 治
 4.  強迫症/強迫性障害 多賀千明
Dストレス関連障害
 1.  心的外傷後ストレス障害 松岡 豊
 2.  適応障害 岡島由佳
E解離症/解離性障害
 ■  解離症群/解離性障害群 柴山雅俊
F身体表現性障害
 ■  身体表現性障害 山田和男
Gパーソナリティ障害
 1.  パーソナリティ障害群 白波瀬丈一郎
 2.  境界性パーソナリティ障害 平島奈津子
H摂食障害
 1.  神経性やせ症/神経性無食欲症 西園マーハ文
 2.  神経性過食症/神経性大食症 林 公輔
I睡眠障害
 1.  不眠症 内山 真
 2.  睡眠随伴症(レム睡眠行動障害,レストレスレッグス症候群)
作田慶輔,高江洲義和,井上雄一
 3.  睡眠時無呼吸症候群 相良雄一郎,山田尚登
 4.  ナルコレプシー 山寺 亘
J物質関連障害および嗜癖障害
 1.  薬物依存
  1) 医療で用いる薬物 宮里勝政
  2) 不法薬物 宮里勝政
 2.  アルコール依存症 中山秀紀
 3.  行動嗜癖 佐久間寛之,樋口 進
K器質性精神障害
 1.  Alzheimer病 仲秋秀太郎
 2.  血管性認知症 佐藤正之,冨本秀和
 3.  前頭側頭葉変性症 橋本 衛
 4.  Lewy小体型認知症 田渕 肇
 5. その他の認知症 数井裕光
 6.  せん妄 松島英介
 7.  てんかん 西田拓司
 8.  症状性精神障害(器質性を含む) 八田耕太郎
 9.  薬剤による精神症状 平野仁一,渡邊衡一郎
 10.  神経疾患と精神症状 柏原健一
L幼・小児,青年期に発症する障害
 1.  自閉スペクトラム症 太田晴久,三村 將
 2.  精神遅滞(知的能力障害/知的発達障害) 加賀佳美,稲垣真澄
 3.  注意欠如・多動症 宮尾益知
 4.  チック症候群 金生由紀子
M性別違和
 ■  性別違和 塚田 攻
N作為症/虚偽性障害
 ■  作為症/虚偽性障害 杉山登志郎

第5章  知っておくべき法律・制度,書類の書きかた
A知っておくべき法律・制度,書類の書きかた
 1.  守秘義務 五十嵐禎人
 2.  精神保健福祉法 岩永英之
 3.  知的障害者福祉法 宮㟢央桂
 4.  発達障害者支援法 桑原 斉
 5.  障害者差別解消法 桑原 斉
 6.  障害者自立支援法と自立支援医療 管 心
 7.  障害年金制度 石浦朋子
 8.  介護保険制度 古田 光
 9.  成年後見制度 岡村 毅
 10.  心神喪失者等医療観察法 八木 深
 11.  物質乱用,依存関連の法律 村上 優
 12.  精神障害者に係る欠格条項(運転免許を中心として) 河上真人
 13.  保険診療,診療報酬 吉住 昭
 14.  精神科における診断書 谷井久志
 15.  紹介状とその返事 堀 有伸
 16.  処方箋 上瀬大樹
 17.  入院診療計画書,説明・同意書 三井信幸
 18.  退院サマリー 綿貫俊夫
 19.  英文紹介状の書きかた 近藤伸介


付 録

略語一覧 森田 進
索 引
 和文索引
 欧文索引


◆Column

素話
初心者の気持ちをもちながら,ベテランになる
50円のサバイバル
「フツーの感覚」を身につけよう
刑事責任能力を決めるのは誰?
失敗談
精神科救急の怖さ
他領域の学会への参加のすすめ
英文論文執筆における行動科学的考察
私の経験から
了解と説明
クレームにあったら
ゴーサンニの法則
CLSの依頼例:あなたならどうしますか?
一般病院連携精神医学専門医
自殺未遂対応がニーズの筆頭
術前診察におけるドナーおよびレシピエントの精神障害
15歳未満の脳死ドナーからの臓器提供
「治療」から「リカバリー」へ
チームの一員として
養護教諭の声
グループダイナミクス
トランスモデル多職種連携−千葉大学医学部附属病院多職種せん妄ケアチーム−
社会脳
臨床医だからできる“逆”橋渡し研究のすすめ
相手が感情的に不安定になったとき
問題志向型診療記録(problem oriented medical records;POMR)
急性に発症した認知症
行動制限中の診察
Rorschach結果に特徴が出なかったワケ
末期がん患者にコラージュ・ボックス法を導入した例
脳波と心電図の比較
抗コリン作用に注意!
リチウム中毒
健康教育
胸に一物
ECTの様々な効果,様々な経過
デイケア研修の思い出
感情への対応と評価
“パニック”と“パニック発作”
不都合な感情?
怖い話
子どもを診る経験
「週間行動記録表」のすすめ
患者・家族への説明
完全寛解期の再発予防の重要性
類型概念と疾患単位
Pick病との鑑別
DSMの使いかた
前頭側頭型認知症とうつ病
双極性障害の治療者の使命とは
飲む認知行動療法:ジャマイカ作用に注意!
楽観バイアスをもたせる指導が有効!
強迫症を症候群と考えよう
レジリエンスについて
カルテと処方箋から,身体表現性障害の治療に精通している医師かどうかが見抜ける
BPD患者の家族に対する対応
パーソナリティ障害と「うつ病」を自称する若者たち
「やせようと思ってやっている」行動なのか?
入院後に体重が増えない状況
江戸時代の症例
健康なこころと手を結ぶということ
行動起因性睡眠不足症候群
薬物依存関連用語
嗜好品依存
脱法ドラッグ,違法ドラッグ,危険ドラッグ
アルコール依存症患者の「迷いの気持ち」
「主訴」の記載方法
ちょっとした工夫
こころに残った患者さん
研修医時代に研究を手伝った経験から
研修の心得
成人期の自閉スペクトラム症
子どもの他者に負わせる作為症(子どもの代理によるMünchausen症候群)
医師が秘密漏示罪で刑事責任を問われた事例−“僕はパパを殺すことに決めた”事件−
退院したいと言われたときの対応は慎重に!
一度支給決定が降りればずっと障害年金はもらえる?
社会のありかたと成年後見制度
本人の言葉による注意サインの抽出
レセプト作成のポイント
電話で直接話すことの重要性
優れたサマリーを書く医師は優れた医師?
クワイエットルームへようこそ−カナダでの臨床経験より−

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序文

シリーズ総監修の序
 

「研修ノート」は,かつての「研修医ノート」シリーズを全面的に刷新し,新シリーズとして刊行するものである.
 旧シリーズ「研修医ノート」は内科研修医のためのテキストとして1993年に出版された.その後,循環器,産婦人科,小児科,呼吸器,消化器,皮膚科など,診療科別に「研修医ノート」が相次いで刊行された.いずれも一般のマニュアルとは異なり,「基礎的な手技」だけではなく「医師としての心得」や「患者とのコミュニケーション」などの基本,あるいは「書類の書き方」,「保険制度」など,重要ながら平素は学ぶ機会の少ない事項を取り上げ,卒後間もない若手医師のための指導書として好評を博してきた.
 しかしながら,時代の変化により研修医に要求される内容は大きく変化した.地域医療の確保が社会問題化するなかで,研修教育の充実はますます重要となった.さらに医療への信頼回復や医療安全のためには,患者やスタッフとのコミュニケーションの改善も必須である.
 このような状況に鑑み,「研修医ノート」シリーズのあり方を再検討し,「研修ノート」の名のもとに,新シリーズとして刊行することとした.読者対象は後期研修医とし,専門分野の決定後に直面するさまざまな問題に対する考え方と対応を示すことにより,医師として歩んでいくうえでの“道標”となることを目的としている.
 本シリーズでは,全人的教育に必要な「医の基本」を記述すること,最新の知見を十分に反映し,若い読者向けに視覚的情報を増やしながらも分量はコンパクトとすることに留意した.編集・執筆に当たっては,後期研修医の実態に即して,必要かつ不可欠な内容を盛り込んでいただくようお願いした.“全国の若手医師の必読書”として,本シリーズが,長く読み継がれることを願っている.
 終わりにご執筆頂いた諸先生に心より感謝を申し上げます.

2016年3月吉日 
自治医科大学学長 永井良三



改訂第2版への編集の序
 

 精神科研修ノート改訂第2版へようこそ.初版への序文を書いたのは,東日本大震災後のこころのケア活動の真っ最中でした.この5年間,精神科医としても,生活と人生を送る人としても,非常に濃密な経験をさせていただきました.そのことを,特に第1章Aに込めたつもりです.
 石川義博先生による,永山則夫の精神鑑定を通して学んだ精神療法の本質.罪を背負って生きる加害少年と向き合ってきた青島多津子先生の覚悟.当事者・家族・精神科医のトライアスロンを生きる夏苅郁子先生の目指す「精神医学のリカバリー」.家族会の岡田久実子さんの「人間にとって一番重要な医療だという誇りをもって」とのエール.他の出版社の社長さんがなんで執筆陣に!? そしてなんと,松本ハウスのキックさんにまでケアラー学を語っていただきました.学生さんのコラムも,精神医学とは何か,精神科医とはどんな存在かを改めて教えてくれ,身が引き締まります.
 本書を手に取った研修医・学生さんが,これらの原稿を読んで涙を流し,それが涸れたとき,精神科医を目指す覚悟が決まる,そんな「とんでも」教科書になっていればありがたいです.
 少々感傷的になりましたが,ノートという言葉のもつ手軽さと,その道の最高の専門家による正統かつ最新の内容とが見事に同居した,なんとも贅沢な教科書.これが本書の最大の特長です.本書の改訂を重ねながら,「精神医学のリカバリー」を実現していきたいと思っています.
 
 2016年4月吉日
 編集者を代表して
 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
 教授 笠井清登



初版への編集の序


 精神医学は,精神的不調に陥り,社会生活に困難をきたす個人に対し,生物―心理―社会的に包括的アセスメントを行い,生物―心理―社会的アプローチを組み合わせて,その人らしく幸福に生きることを支援する医学である.精神医学は医学のなかで最も社会との接点が多く,その役割は,個人のもつ精神疾患の治療にとどまらず,社会全体の精神的幸福の向上にも貢献しうる分野である.このたびの東日本大震災においても,こころのケアのニーズが緊急かつ重大であることを痛感した.
 本来医療の目標とは,個人の身体を生物学的に治癒に導くだけでなく,全人的な観点から,その人の主観的幸福の追求に寄り添うものであったはずである.身体疾患をもつ人においても,精神的不調の頻度は高く,それ自体が身体疾患の予後を左右することが知られている.精神医学は,医療の原点である全人的営みを思いださせてくれる,全ての医療人にとって必要な素養である.
 このような精神医学の重要性に鑑み,定評のある「研修ノート」シリーズの仲間として精神科を加えていただいたことは,画期的なことであると考えている.

 私自身,精神医学の道をがむしゃらに進んできて,社会からの高いニーズに気づき,人生を捧げるにふさわしい,かけがえのないプロフェッショナルであることを知ったのは,つい最近のことである.と同時に,社会のニーズに応えるためには,日本の精神医学教育のレベルを格段に高めなければならない,と胃が痛くなるような義務感にもかられてきた.
 したがって,この精神科研修ノートでは,その書名が醸し出すソフトで気軽なイメージと裏腹に,共同編者,執筆者の選定を極めて厳正に行わせていただいた.お気づきのように,共同編者は,私も含めて,まだ定番の教科書の編者等に名を連ねていない若手ではあるが,これからの日本の精神医学教育を長期的な視野に立ってリードしていく,またその責務を負っている人々である.執筆陣についても,医育機関や研修指定病院等で実際に研修医の指導にあたっており,かつ,信頼できる学術的バックグラウンドをもつプロフェッショナルを厳選した.実務的な本であるにもかかわらず,各社が発行している精神医学の学術書や辞典に勝るとも劣らない第一人者が快く執筆を引き受けてくださり,本書の教育的価値を高めて下さったことに感謝している.
 本書のコンテンツは,若手の編者らが,自分の研修時代を振り返り,「このようなノートがあったら」という理想像を描き,各研修施設で講義やクルズス等を通じて実践しているアイディアを持ち寄ることにより,構成されている.
 本書を用いる後期研修医の方々は,臨場感あふれる,その日その日に遭遇する症例にすぐ適用できる知識がコンパクトに書かれていることに,感動していただけるものと信じている.また,本書が後期研修医のみならず,初期研修医,医学生,ひいては心理,看護,精神保健福祉,作業療法,薬剤などの,精神科医と手に手を取り合う多職種のプロフェッショナルを目指す若手にとっても有用な本となることをひそかに期待している.
 最後に,多忙を極めるなか,本書のもつべき高い教育的意義に賛同し,これ以上なく細やかな編集作業をしていただいた共同編者の方々,編者らの意図を十二分にくみ取り的確な原稿をお寄せいただいた執筆者の方々,それらをユーザーフレンドリーに取りまとめて下さった診断と治療社の方々に厚く御礼申し上げる.

 2011年6月吉日
 編集者を代表して
 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
 教授 笠井清登