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クリニカルクエスチョン

てんかん診療のクリニカルクエスチョン200 改訂第2版診断と治療社 | 書籍詳細:てんかん診療のクリニカルクエスチョン200 改訂第2版

東京医科歯科大学大学院生命機能情報解析学分野教授

松浦 雅人 (まつうら まさと) 編集

原クリニック

原 恵子 (はら けいこ) 編集

改訂第2版 B5正寸 アジロ 並製 2色刷り 348頁 2013年11月10日発行

ISBN9784787820679

定価:6,820円(本体価格6,200円+税)
  

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てんかん診療の現場で日頃気になる点や疑問点を200のクエスチョンにまとめ,エキスパートが詳しく回答・解説した決定版.①概念,②症状,③脳波検査,④その他の検査,⑤診断,⑥薬物療法,⑦抗てんかん薬の副作用,⑧てんかん外科,その他の治療,⑨日常生活の9つの大枠に分けて掲載し,付録には読んでおくべき書籍や論文を紹介.前版よりクエスチョンを増やし,新規薬剤やガイドラインなど,最新知見を網羅した必読の一冊.

関連書籍

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目次

Contents

てんかん診療のクリニカルクエスチョン200〔改訂第2版〕

改訂第2版の序
初版の序
執筆者一覧

Chapter 1 てんかんの概念

Q001 てんかんの定義は?
Q002 てんかんの有病率と発症率は?
Q003 てんかんの原因は?
Q004 てんかんの予後は?
Q005 てんかんは遺伝する?
Q006 てんかん発作の種類は? てんかん症候群が特定できる発作型は?
Q007 てんかん症候群とは? 現在国際的に用いられている分類は?
Q008 睡眠関連てんかんとは?
Q009 難治てんかんとは?
Q010 てんかん重積とは?
Q011 破滅型てんかん(catastrophic epilepsy)とは?
Q012 てんかん発作で死亡することはある? てんかん患者の突然死とは?
Q013 発作を繰り返すとてんかんは治りにくくなる?
Q014 発作を繰り返すと知能が低下する?
Q015 成人してからてんかんのために脳機能が悪化することがある?
Q016 てんかん発作が抑制されると脳機能は回復する?
Q017 熱性けいれんは将来てんかんになる? 
    熱性けいれんを繰り返す例は治療する?
Q018 新生児期・乳児期に発症するてんかんの特徴は?
Q019 幼児期・学童期に発症するてんかんの特徴は?
Q020 思春期に発症するてんかんの特徴は?
Q021 30歳代以降発症のてんかんは珍しい?
Q022 高齢期に発症するてんかんの特徴は?
Q023 高齢になるとてんかんは軽くなる?
Q024 てんかんガイドラインとは?

Chapter 2 てんかんの症状

Q025 初診時の発作症状の聴取のコツは?
Q026 家族への発作観察の指導のコツは?
Q027 家族歴の聴取のポイントは?
Q028 てんかんのフォロー中に発作が起こったときの対応のポイントは?
Q029 前兆とは? 前駆症状とは?
Q030 自動症とは?
Q031 側方性を示す発作症状は?
Q032 発作後の麻痺(Toddの麻痺)とは?
Q033 単純部分発作と複雑部分発作の違いは?
Q034 二次性全般化発作とは? 全般性強直間代発作との区別は?
Q035 強直間代発作,強直発作,間代発作の違いは?
Q036 定型欠神と非定型欠神発作の違いは? 複雑部分発作との違いは?
Q037 ミオクロニー発作とてんかん性れん縮の違いは?
Q038 脱力発作と失立発作の違いは?
Q039 発作型は年齢とともに変わる? 発作型が変わると治療も変わる?
Q040 発作の起こりやすい誘因とは? 自己誘発発作とは?
Q041 心理的ストレスで発作は増える?
Q042 発熱時に発作は増える? 発熱時の治療は?
Q043 発作の起こりやすい時間帯はある?
Q044 月経,妊娠,産後に関連して発作は増える?
Q045 てんかんと精神遅滞の関連は?
Q046 精神発達遅滞のない症候性全般てんかんはある?
Q047 てんかんと自閉症との関連は?
Q048 てんかん児には多動症状がある?
Q049 てんかんをもつ人に精神病は多くみられる?
Q050 てんかんに特有な性格傾向はある?
Q051 てんかんをもつ人は攻撃性や暴力傾向がある?

Chapter 3 てんかんの脳波検査

Q052 初回の脳波検査時に注意すべきことは?
Q053 閃光刺激を行うときの注意点は?
Q054 過呼吸賦活を行うときの注意点は?
Q055 眠らない子ども,成人,高齢者で睡眠脳波を記録するコツは?
Q056 脳波に異常が出ないてんかんはある?
Q057 てんかん性異常波があってもてんかんでない場合がある?
Q058 脳波判読は症例についての情報を知らないまま行う?
Q059 てんかん性異常波と誤りやすい波形は?
Q060 脳波所見からてんかんの重症度が予測できる?
Q061 全般てんかんで局在性の異常波が出現することがある? 
    部分てんかんで全般性の異常波が出現することがある?
Q062 広範性異常波の振幅に部位差や左右差があるとき,局在性所見とみなす?
Q063 部分てんかんで広範性異常波だけのことはある?
Q064 抗てんかん薬は脳波を変化させる?
Q065 抗てんかん薬を変更したら脳波検査をする? 
    薬物変更後にどれくらい時間が経過してから検査をする?
Q066 発作終了後に脳波検査をしたほうがよい?
Q067 外来通院中はどれくらいの間隔で脳波検査を行う?
Q068 脳波所見と臨床症状が合わないことがある? 
    合わないときはどちらを優先して診断する?
Q069 発作の観察とビデオ脳波モニタリングの注意点は?
Q070 ビデオ・脳波同時記録による心因性非てんかん性発作(PNES)の診断の注意点は?

Chapter 4 てんかんのその他の検査

Q071 てんかん初診例に行う検査は?
Q072 救急車で来院した例に行うべき救急検査は?
Q073 頭部CT検査とMRI検査はどのように使い分ける?
Q074 てんかんに行うMRI検査の撮影条件は?
Q075 以前にMRIを撮影した例に再度撮影を勧めるのはどんなとき?
Q076 内側側頭葉てんかん疑い例に行うMRIは?
Q077 笑い発作をもつ例に行うMRI検査の撮影条件は?
Q078 脳波検査と脳磁図検査の違いは?
Q079 頭部SPECT検査はどんなときに行う? 
    発作間欠期,および発作時SPECTの意義と限界は?
Q080 頭部PET検査はどんなときに行う? 発作間欠期PETの意義と限界は?
Q081 外来通院中の血液検査はどのくらいの頻度で行う?
Q082 通院患者の採血の時間はいつがよい?
Q083 発作時プロラクチン上昇が心因性非てんかん性発作(PNES)の鑑別に役立つ?
Q084 てんかんにどんな神経心理検査が必要?
Q085 側頭葉の機能評価に有用な心理検査は?
Q086 前頭葉の機能評価に有用な心理検査は?
Q087 頭頂葉の機能評価に有用な心理検査は?
Q088 側頭葉てんかんで前頭葉機能が低下することはある?

Chapter 5 てんかんの診断

Q089 失神との鑑別法は?
Q090 片頭痛との鑑別法は?
Q091 心因性非てんかん性発作(PNES)との鑑別法は?
Q092 パニック発作との鑑別法は?
Q093 ナルコレプシーや睡眠時随伴症との鑑別法は?
Q094 泣き入りひきつけとの鑑別法は?
Q095 急性脳炎・脳症との鑑別法は?
Q096 自己免疫性脳炎関連てんかんとは?
Q097 認知症と一過性てんかん性健忘の鑑別法は?
Q098 頭部外傷後のてんかんとは?
Q099 脳血管障害後のてんかんとは?
Q100 脳外科手術後のてんかんとは?
Q101 アルコールによるてんかん発作との鑑別法は?
Q102 薬物惹起性けいれん発作とは?

Chapter 6 てんかんの薬物治療

Q103 1回だけのてんかん発作は治療しない? 
    次回受診の有無も含め,どのように指導する?
Q104 数年に1回程度の発作の治療は?
Q105 てんかんの薬物治療の原則は? 
    服薬回数は? 処方日数は? 食前の服用でもよい?
Q106 抗てんかん薬処方に禁忌はある?
Q107 抗てんかん薬のジェネリック医薬品はどう扱う?
Q108 発作型やてんかん症候群と有効な薬剤との関連は?
Q109 部分てんかんか,全般てんかんか不明なときの治療は?
Q110 新規抗てんかん薬の使い方は?
Q111 抗てんかん薬を増量するときの注意は?(増やす速度は? 副作用が出るまで
    増やす? 最大有効血中濃度まで増やす?)
Q112 抗てんかん薬を減量するときの注意は?(一度に減らしてよい?)
Q113 抗てんかん薬は耐性が生じる?(効果が減弱したときの対応は?)
Q114 有効な抗てんかん薬を減量するとすぐに発作が増える?
    (時間がたってから増える?)
Q115 抗てんかん薬を中止する基準は?
Q116 1回分の服薬を忘れてしまったときの対処法は?
Q117 間違えて1日分を1回で服用してしまったときの対処法は?
Q118 服薬後に嘔吐してしまったときの対処法は?
Q119 抗てんかん薬の併用療法の原則は?
    (併用を考慮する時期は? 作用機序の異なる薬物を併用する?)
Q120 抗てんかん薬同士の相互作用は? 血中濃度の変化は?
Q121 抗てんかん薬と市販薬を併用するときの注意は?(血中濃度の変化は?)
Q122 バルプロ酸とその徐放剤はどのように使い分ける?
Q123 べンゾジアゼピン系抗てんかん薬とバルビツール酸系抗てんかん薬の使い方は?
Q124 フェニトインを使用する際の注意点は?
Q125 急性身体疾患が生じたときに抗てんかん薬は中止する?
Q126 透析中の抗てんかん薬投与の注意点は? 
    腎不全・透析が抗てんかん薬に与える影響について
Q127 血中濃度測定の意義は? 有効血中濃度とは?
Q128 薬を飲みたがらない子どもへの対処法は?
Q129 シロップの使い方のポイントとコツは?
Q130 坐薬の使い方のポイントとコツは?
Q131 治療を拒否する成人患者への対応は?
Q132 てんかんと不安症状をあわせもつ患者への治療は?
Q133 ジアゼパムが処方されているてんかん例で,不安発作がみられたときには
    別の抗不安薬を用いる?
Q134 てんかんと抑うつ状態をあわせもつ例の治療は? 
    抗うつ薬を併用する際の注意点は?
Q135 てんかんと精神病症状をあわせもつ例の治療は? 
    抗精神病薬を併用する際の注意点は?
Q136 ゾテピンとてんかん発作(てんかん例にゾテピンは禁忌か?)
    ──精神病をもつ人のてんかん発作例とてんかんをもつ人の精神病例
Q137 てんかん例における重篤な精神症状に電気けいれん療法を行う?

Chapter 7 抗てんかん薬の副作用

Q138 抗てんかん薬による致死的副作用はある?
Q139 抗てんかん薬投与後早期に出現する副作用は?
Q140 抗てんかん薬の慢性投与による副作用は?
Q141 原因薬剤を中止しても軽快しない副作用はある?
Q142 抗てんかん薬が発作を増悪させることはある? 
    抗てんかん薬を減量して発作が減ることはある?
Q143 腎機能や電解質への影響は? 
    低ナトリウム血症はどの程度の数値まで経過観察でよい?
Q144 血液・造血器への影響は? 
    血球減少症はどの程度の数値まで経過観察でよい?
Q145 肝機能への影響は? (バルプロ酸でアンモニアが上昇する機序は?)
Q146 抗てんかん薬による皮疹の特徴は? 発現時期,症状,治療,予後,予防は?
Q147 副作用として生じる眼症状は?
Q148 妊娠を希望する患者へのアドバイスは?
    薬物の調整は? 葉酸の使用法は?
Q149 服薬中に妊娠してしまったら?
Q150 出産時のアドバイスは? ビタミンKの使用法は?
Q151 授乳は大丈夫? 人工乳とする判断基準は?
Q152 避妊を希望する女性において考慮することは?
Q153 美容上の問題となる副作用はある?
Q154 女性ホルモンへの影響は?
Q155 抗てんかん薬による眠気にどう対処する?
Q156 抗てんかん薬の精神面への有害作用は?

Chapter 8 てんかん外科,その他の治療

Q157 小児例でどのような場合に外科治療を考える? 乳幼児例では? 
    手術決定の判断基準は?
Q158 成人例でどのような場合に外科治療を考える? 高齢者例では? 
    手術決定の判断基準は?
Q159 手術前に行う検査は?
Q160 どんな手術法がある?
Q161 緩和手術とは?
Q162 左側と右側で内側側頭葉てんかんの手術は異なる?
Q163 手術中にも脳波検査を行う?
Q164 てんかんの外科治療の合併症は? 患者および家族への説明は?
Q165 外科治療前に服用していた抗てんかん薬は? 薬物が中止できる率は?
Q166 術後に出現することの多い精神症状は?
Q167 一般の脳外科手術後にも抗てんかん薬を使用する?
Q168 迷走神経刺激療法とは?
Q169 てんかんの磁気刺激療法とは?
Q170 てんかんの代替療法(バイオフィードバック療法)とは?
Q171 ACTH療法とは?
Q172 ケトン食療法とは?
Q173 てんかんに心因性非てんかん性発作をあわせもつ例の治療法は?
Q174 てんかん発作のときは救急車を呼んだほうがよい?
Q175 救急車で来院したときの入院適応は?
Q176 発作後のもうろう状態を速やかに終わらせる方法はある?
Q177 専門医にはいつ,どのように紹介すればよい?
Q178 てんかん専門看護師とはどのような資格?
Q179 てんかん臨床における心理士の役割とは?
Q180 日本と比べて,英国や欧州のてんかん治療の違いは?

Chapter 9 てんかんの日常生活

Q181 子どもへの病名告知はどうする
Q182 家族への心理教育のポイントとコツは?
Q183 学校の教員には病名を伝える?
Q184 発作が起こった日は学校を休ませる?
Q185 スポーツ活動への参加はどのように指導する?
Q186 食事中に発作を起こしたときの注意点は?
Q187 学校でのプール参加はどのように指導する? 海水浴やマリンスポーツは?
Q188 予防注射はどうする?
Q189 入浴時の注意点は?
Q190 テレビゲームは禁止すべき?
Q191 睡眠時間や生活リズムの指導のポイントとコツは?
Q192 発作や障害をもつ子どもの学校の選択はどう指導する?
Q193 転倒発作があるときはヘッドギアを着用させる?
Q194 てんかんのキャリーオーバー問題とは?
Q195 車の運転への指導のポイントとコツは?
Q196 飛行機に乗るときの注意点は?
Q197 海外旅行へ行くときのアドバイスは?
Q198 てんかん協会とはどのような団体?
Q199 てんかん患者が使える社会資源とは?
Q200 てんかんの診療ネットワークシステムとは?

付録
てんかん診療の初学者が読んでおくべき書籍や論文

索引
和文索引
欧文索引
数字索引

あとがき

【Mini Lecture】
●急性症候性発作とは?
●純粋睡眠てんかんとは?
●非けいれん性てんかん重積状態(non-convulsive status epileptics;NCSE)
●表現促進現象
●てんかん発作分類に関する変更(2010年)
●高密度脳波とは 88
●一般病院におけるミニマルな脳波ビデオモニタリングシステムと包括診療
●脳波ワークショップを開催しよう
●HFOとは? 128
●不適切運転への罰則が強化される?
●医薬品副作用被害救済制度とは?

【One Point Advice】
●“初発の全身けいれん”の患者が来たときのピットフォール
●大脳半球内側付近のてんかん原性焦点が左右どちらにあるかは注意を要する
●抗てんかん薬減量の匙加減――ちょっとしたコツ
●乳幼児の難治症例の発作根治のためには 

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序文

改訂第2版の序

 2009年に『てんかん診療のクリニカルクエスチョン194』を発刊して以降,てんかんをめぐってさまざまな動きがありました.2010年にはレベチラセタムが発売されて4種類の新規抗てんかん薬が出揃い,日本もようやく欧米並になりました.さらに,2010年には迷走神経刺激療法が保険収載され,2012年にはホスフェニトイン注射液が発売され,2013年にはDravet症候群に対してスチリペントール,Lennox-Gastaut症候群に対してルフィナミドが発売されました.医療者にとっては治療の選択肢が広がり,患者にとってはこれらの治療薬や治療法の恩恵を受けた人も少なくないと考えます.日本のてんかん治療も新しい時代を迎えたとの印象を強くしました.
 一方,2011年以降てんかんのある人が関係した悲惨な交通死傷事故が相次いで報道されました.2012年には警察庁の有識者会議が病状の虚偽申告に対する罰則を整備し,不適正運転を続ける患者に対しては医師による届出制度を創設すべきなどの提言を行いました.これを受けて,2013年6月には改正道路交通法が可決・成立し,病状申告書への虚偽記載には1年以下の懲役又は30万円以下の罰金を課し,交通事故を起こす危険性が高いと認められる患者を診察した医師は,診断結果を公安委員会に届け出ることができる制度を設けることになりました.厳罰化に抑止効果があるかどうかは疑問ですが,医療,福祉,教育,雇用などを含めた総合的な交通事故対策が必要なように思われます.
 さらに,2013年6月に法務省は交通死傷事故に関連する刑罰をまとめて刑事法新法とする法律を国会に上程しました.病気や薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転して人を死傷させた場合には,過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の間に,懲役15年が上限の中間の刑罰を新設しようとするものです.同年5月に医薬品添付文書に記載されている運転禁止の患者説明を徹底するようにとの厚労省課長通達が出されたことと相俟って,現場の混乱が危惧されます.日本のてんかん患者をとりまく社会環境は大きくかわろうとしているようです.
 このような時期に『てんかん診療のクリニカルクエスチョン200 改訂第2版』を上梓することができました.新規薬剤や社会資源に関する箇所は大きく変更することになりましたが,その他にも各項目の著者が誠実な改訂をしてくださいました.最新のてんかん学の知見を盛り込んだ有益な書籍に出来上がったと自負しています.てんかん診療に従事する医師だけでなく,てんかん医療をささえる多くの医療者に役立つことを願っております.

2013年10月

東京医科歯科大学大学院生命機能情報解析学分野教授 松浦雅人



初版の序

 てんかんは神経疾患のなかでも最も頻度の高い疾患の一つであり,診断を誤ったり,不適切な治療が行われることの多い疾患でもあります.問診が不十分であったり,軽微な脳波所見を過剰に評価したりすると,非てんかん例をてんかんと誤って,不必要な治療が行われることがあります.てんかんの診断が妥当であっても,発作型やてんかん症候群を誤ると,不適切な抗てんかん薬が投与されることもあります.一般にてんかんは予後良好な疾患ですが,薬物選択が妥当であっても,投与量や投与期間が不十分であると,みかけの難治てんかんと誤ることもあります.適切な診断に基づいて適切な治療を行っても,発作が抑制されない真の難治てんかんには,外科手術の適応を考慮する時期を失しないようにしなければなりません.
 てんかんの治療は長期にわたることも特徴の一つです.小児期や思春期には学校生活,スポーツ活動,進路選択,職業選択,さらには免許や資格の取得,結婚,出産,育児など,その時々に応じた適切な助言や援助が必要となります.近年は高齢初発のてんかん例が増えていますが,身体合併症を有していることが多く,併用薬物や副作用に細心の注意が必要となります.それぞれの状況に応じて小児科,神経内科,精神科,脳外科,救急科などの各診療科の協力とともに,看護師,薬剤師,臨床心理士,臨床検査技師などのコメディカル,さらには教師や養護教諭などの教育者,地域の福祉関係者との連携も必要となります.てんかんの包括治療が強調される所以です.
 てんかんの診断と治療に関するすぐれた教科書は少なくありません.本書では実際にてんかん診療に関わっている研修医やレジデントから,日常診療で感じている様々なクリニカルクエスチョンをたくさん提出してもらいました.初心者の現場での率直な疑問に対して,経験豊富なてんかん専門医が簡潔に答えるという形式にしました.てんかん診療に関わると同様の疑問が生じるので,そのつど関連するクエスチョンの部分を読めばよいことになり,てんかん診療に関わって間もない医師やコメディカルにとって有用と考えています.てんかんに関する知識が増えるとともに,てんかん治療に習熟していくことを実感すると思います.
 また,本書はてんかん診療のエキスパートにも通読していただきたいと考えています.臨床の現場で研修医やレジデントが抱く単刀直入なクエスチョンには,いまだエビデンスが十分でない領域も少なくないため,専門医が苦労して答えを捻出している個所が少なくありません.エキスパートにとっても,目からうろことなる記述を発見できるのではないと考えています.
 本書がてんかん診療に関わる多くの医療従事者に利用され,日常診療に寄与できることを期待しています.

2009年1月

東京医科歯科大学大学院生命機能情報解析学分野教授 松浦雅人