専門家が日常診療で用いるさじ加減や使いわけの極意を箇条書きにまとめ、方剤別にわかりやすく解説.多種多様な症状を訴える患者に応じた漢方治療の手助けとなる一冊.好評同姉妹書『疾患・症状別 はじめての漢方治療』への参照項目リンクも充実の『“治せる”医師をめざす』シリーズ第3弾,登場!
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目次
序 文 後山尚久
執筆者一覧
本書の使い方
第Ⅰ部 最頻用漢方方剤20
1 安中散 藤原祥子
2 温経湯 後山尚久
3 黄連解毒湯 山川淳一
4 葛根湯 菊地和彦
5 加味逍遙散 後山尚久
6 桂枝湯 平崎能郎
7 桂枝茯苓丸 後山尚久
8 牛車腎気丸 小川由英,香野友帆
9 五苓散 福富 悌
10 十全大補湯 千葉庸夫
11 小柴胡湯 元雄良治
12 小青竜湯 木村英夫
13 大建中湯 千福貞博
14 当帰芍薬散 加藤育民
15 八味地黄丸(腎気丸) 加藤育民
16 半夏瀉心湯 南澤 潔
17 防風通聖散 宇野智子,佐藤祐造
18 補中益気湯 堤 英雄
19 抑肝散 向井 誠,正山 勝,蔡 曉明
20 六君子湯 西田清一郎
第Ⅱ部 頻用漢方方剤30
21 温清飲 後山尚久
22 帰脾湯 千葉庸夫
23 きゅう帰調血飲 後山尚久
24 荊芥連翹湯 小林裕美
25 桂枝加芍薬湯 堤 英雄
26 桂枝加竜骨牡蠣湯 山川淳一
27 香蘇散 小暮敏明
28 五積散 河野恵子
29 柴胡加竜骨牡蠣湯 平岡尚子
30 柴苓湯 横山浩一
31 四逆散 日笠久美
32 十味敗毒湯 小林裕美
33 小建中湯 松岡尚則
34 真武湯 古賀実芳
35 清上防風湯 小林裕美
36 清肺湯 加藤士郎
37 大黄甘草湯 横山浩一
38 大柴胡湯 元雄良治
39 釣藤散 植田圭吾,並木隆雄
40 桃核承気湯 佐藤泰昌
41 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 佐藤泰昌
42 女神散 佐藤泰昌
43 人参養栄湯 南澤 潔
44 麦門冬湯 内藤真礼生
45 半夏厚朴湯 内藤真礼生
46 平胃散 藤原祥子
47 防已黄耆湯 宇野智子,佐藤祐造
48 麻黄湯 梁 哲成
49 抑肝散加陳皮半夏 向井 誠,正山 勝,蔡 曉明
50 苓桂朮甘湯 栁堀 厚
第Ⅲ部 知っておきたいその他の漢方方剤50
51 茵ちん蒿湯 堤 英雄
52 葛根湯加川きゅう辛夷 加藤士郎
53 加味帰脾湯 加藤育民
54 甘麦大棗湯 向井 誠,正山 勝,蔡 曉明
55 桔梗湯 山口孝二郎
56 きゅう帰膠艾湯 後山尚久
57 桂枝加芍薬大黄湯 堤 英雄
58 桂枝加朮附湯 木村英夫
59 五虎湯 松岡尚則
60 呉茱萸湯 西村公宏
61 五淋散 小川由英,香野友帆
62 柴胡桂枝乾姜湯(柴胡桂姜湯,柴胡姜桂湯,姜桂湯) 平岡尚子
63 柴胡桂枝湯 喜多敏明
64 柴朴湯 小暮敏明
65 三黄瀉心湯 竹内健二,山川淳一
66 滋陰降火湯 竹内健二,山川淳一
67 四君子湯 松岡尚則
68 七物降下湯 西田清一郎
69 四物湯 栁堀 厚
70 芍薬甘草湯 河野恵子
71 潤腸湯 西田愼二
72 小半夏加茯苓湯 横山浩一
73 消風散 前田 学
74 参蘇飲 菊地和彦
75 神秘湯 千葉庸夫
76 清心蓮子飲 日笠久美
77 川きゅう茶調散 木村英夫
78 疎経活血湯 古賀実芳
79 大黄牡丹皮湯 西田愼二
80 大承気湯 木村英夫
81 大防風湯 小暮敏明
82 竹じょ温胆湯 木村英夫
83 治頭瘡一方 小林裕美
84 治打撲一方 古賀実芳
85 調胃承気湯 堤 英雄
86 猪苓湯 小川由英,香野友帆
87 通導散 千福貞博
88 当帰飲子 前田 学
89 人参湯(理中丸,理中湯) 平岡尚子
90 排膿散及湯 前田 学
91 半夏白朮天麻湯 守屋純二
92 白虎加人参湯 向坂直哉
93 茯苓飲 横山浩一
94 麻黄附子細辛湯 梁 哲成
95 麻杏甘石湯 梁 哲成
96 麻子仁丸 千福貞博
97 よく苡仁湯 古賀実芳
98 竜胆瀉肝湯 小川由英,香野友帆
99 苓姜朮甘湯 西田清一郎
100 六味丸(六味地黄丸) 加藤士郎
漢方方剤索引
用語索引
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序文
序 文
名だたる複数の医師の診察後に,いまだ去らない心身不調を持って受診され,漢方の処方2週間後に笑顔で診察室に入ってきた病者と心地よい会話を交わすことほど日頃の疲れを癒してくれるものはない.幸せの瞬間だ.一番幸せなのは健康を回復しつつある病者であることに異論は挟まないが,私たち医師はそれと同等ぐらい幸福感に包まれる.苦労して漢方を勉強していてよかったと安堵する一瞬でもある.
私自身が更年期女性のややこしい不定愁訴の治療に漢方を導入して手ごたえを覚えるようになったのは,漢方専門医になって2?3年経過した頃だ.それまでは,症状に合う漢方薬を選んだり,暫定的に診断をつけて病名を頼りに漢方医療を行っていた.漢方への歩み出しの時期は誰でも経験する“症状漢方”や“病名漢方”であり,そのプロセスを経ることを私は否定しない.むしろ将来の“治せる医師”への飛躍のためにはそういう漢方治療を一度体験しておくべきと考える.
症状や病名に直結する漢方薬を選択する,いわゆるガイドライン的,マニュアル的漢方医療を経験した後で,本物の教科書である目の前の病者の多彩な症状の分析と四診による舌証,脉証,腹証の情報などから気血水や五臓六腑の病態診断ができる力の涵養が望ましい.それに加えてどの病態にどの領域の漢方薬が適当なのかということを多方向から学んでほしい.漢方薬の効果を知るために,その生薬構成の意味や方意を学ぶことにじっくりと時間をかけてほしい.
漢方医学の理論は実に難しい.誰もがそう感じるものである.私は,医師として仕事を始めて15年程経った頃,最初に漢方医学の基礎理論の講義を聴講した際,ヴィトゲンシュタインやマラルメの哲学理論を理解するよりも難解だと感じた.根底に「陰陽五行論」がある.まずこれに同意することに抵抗を覚えた.実を言うと今でもまだ抵抗がある.世の事象のすべてに「光と影」があるのはわかるが,男女同権で,働く機会も均等に与えられる現代社会に,あえて男を「陽」,女を「陰」としてとらえるような思考や理解を無理やりするわけだから.しかし,人の病気の姿や病態を考えると,いかにもそうだと思える部分があるのも事実である.父性と母性の違いは,学理的証明はないが,感覚的には絶対に存在すると思える.これを「陰陽」という概念で,想像もつかない昔から規定して,こころのありかたや,身体の不調への説明に用いていたのであるから,人の感性というのは科学を超えるものがある.また,「五臓六腑論」や「気血水概念」が漢方理論にはあるのだが,脳という臓器が担っている役割を五臓に割り当てている理論の理解に困難を覚えるし,?血が残って内熱に変化して不快な精神症状や身体症状を作りだすというような病態説明が,どうも私にはストンと入ってこない.このようないくつかの受け入れ難い部分を認識しながらも,そして科学的に何も解明されてはいないものの,「陰陽五行論」や「五臓六腑論」「気血水概念」を基底とした漢方理論を少しでも肯定できる材料を探しながら,臨床体験を理論から考察したり,理論から病者の病態を構築して処方の組み立てを続けてきた.その成果があったかどうかは別として,試行錯誤しながらも最近になって漢方医療の全体像が自分なりに少しずつ掴めてきたように感じる.そのプロセスから,難しい漢方病態への洞察を後回しにして病者が最も苦しい症状に焦点を合わせた処方選び(症状・病名からの漢方処方)もあれば,処方の生薬構成や作用ベクトルの特徴を前面に出した治療の試み(処方の作用特徴を生かした病者の治療)も成功することがあることを知った.病者の苦しみを除くためにはさまざまな方向からの臨床アプローチによって漢方医の臨床感覚にヒットした箇所や入り口から治療のスタートを切ることができるのが漢方治療のメリットであるともいえる.
本書は,漢方医学入門の1方策として,実際に病者に処方する漢方薬の基礎的な解説を通じて,その処方の特質をしっかりと理解していただくことを目的とする.一人ひとりに合わせた完全な個別医療を行うために私たちが勉強しておかなければならない漢方薬の種類は数えられないほど多いが,紙面の都合上医療用エキス100剤を選ばせていただいた.本書を上手に利用して,一人でも多くの医師が漢方医学を理解し,正しく実践できるように応援したい.そして,苦しみをかかえながら今の医療に満足できず,不安で過ごしている病者を救うことができる本物の「臨床力」を有した“治せる”医師が誕生することを心から希望する.
秋の爽風を感じて
大阪医科大学健康科学クリニック 所長
未病科学・健康生成医学寄附講座 教授
後山尚久