外傷外科手術の知識・技術を網羅し,豊富なイラスト・写真とともに要点を分かりやすく解説.国内外の最新情報を基にしながらも、エキスパートによる自験例から、わが国特有の受傷機転や好発外傷部位なども併記し、先達の経験を織り交ぜた実地的な内容とした.解剖学的特徴と発生機序,診断法から、アプローチ法(切開・視野確保),手術の実際(手技・縫合閉鎖)まで,体幹外傷の診断と治療に焦点をあてた外傷外科学の集大成である.
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目次
カラー口絵
執筆者一覧
序 文
第1章 総 論
1 外傷患者の観察と評価 北井勇也
A primary surveyと蘇生
B secondary survey
C FIXES
2 外傷患者の気道管理 中山惠美子
A 外傷時の呼吸生理学異常
B 気道確保困難例に対する気道確保法
3 外傷患者の呼吸管理 中山惠美子
A 酸素化障害
B 換気障害
4 ショック 小谷穣治
A ショックの定義
B ショックのステージ
C ショックに対する全身反応
D 外傷性ショックに対する各臓器における反応
5 凝固異常 中谷壽男
A 機序の多様性
B 病 態
C 予防と治療
6 ダメージコントロールとdeadly triad 永嶋 太,阪本雄一郎
A ダメージコントロール
B deadly triad
C indications for damage control
D ダメージコントロール・レサシテーション
E ダメージコントロールの実際
F conclusions
7 腹部コンパートメント症候群の診断と治療 久志本成樹
A 腹部コンパートメント症候群の認識から病態定義へ
B intra-abdominal hypertensionと腹部コンパートメント症候群
C 腹部コンパートメント症候群の病態生理
D 腹部コンパートメント症候群の基礎疾患,発症因子と腹腔内圧測定の適応
E intra-abdominal hypertensionと腹部コンパートメント症候群に対する治療
8 多発外傷 林田和之,松本 尚
A 重症度評価と登録制度の必要性
B おもな外傷重症度評価法
C 治療の優先順位
D 致命的な多発外傷を救命するために
第2章 診断に必要な画像の撮り方と評価
1 体幹外傷に必要な画像診断
A 各種画像診断の検査手順
1)単純X線撮影 伊藤憲佐
2)超音波検査 北浦幸一
3)CT 伊藤憲佐
4)血管造影 伊藤憲佐
B 各種画像診断の評価と治療
1)動脈塞栓術,ステントグラフト内挿術 伊藤憲佐
第3章 各 論
1 頸部損傷 葛西 猛
A 頸部損傷に対するアプローチ
B 咽頭食道損傷(pharyngoesophageal injury)
C 喉頭気管損傷(laryngotracheal injury)
D 頸部上縦隔血管損傷(cervico-upper mediastinum vascular injuries)
2 胸部損傷
A 胸部損傷に対するアプローチ 葛西 猛
B 胸部食道損傷(thoracic esophageal injury) 葛西 猛
C 肺損傷(pulmonary injury) 葛西 猛
D 胸郭損傷(chest wall injury) 葛西 猛
E 気管・気管支損傷(tracheobronchial injury) 平 泰彦
F 心損傷(cardiac injury) 本竹秀光
G 心囊破裂と心ヘルニア(pericardial rupture and cardiac hernia) 本竹秀光
H 胸部大血管損傷(thoracic great vessel injury) 本竹秀光
I 横隔膜損傷(diaphragmatic injury) 葛西 猛
J 外傷性乳糜胸(traumatic chylothorax) 葛西 猛
3 腹部損傷
A 腹部損傷に対するアプローチ 葛西 猛
B 胃損傷(gastric injury) 葛西 猛
C 十二指腸損傷(duodenal injury) 小林陽介,北野光秀
D 小腸腸間膜損傷(small bowel and mesenteric injury) 葛西 猛
E 大腸損傷(colon and rectal injury) 葛西 猛
F 肝損傷(liver injury) 葛西 猛
G 肝外胆道系損傷(extra-hepatic biliary system injury) 葛西 猛
H 脾損傷(splenic injury) 廣江成欧,北野光秀
I 膵損傷(pancreatic injury) 栗栖 茂
J 腎尿路系損傷(kidney and urinary tract injury) 金子直之
1)腎損傷
2)尿管損傷
3)膀胱損傷
4)尿道損傷
K 腹部動脈損傷(abdominal arterial injury)
1)脾動脈損傷 廣江成欧,北野光秀
2)腎動脈損傷 金子直之
3)上腸間膜動脈損傷 本竹秀光
4)総腸骨動脈損傷 本竹秀光
L 腹部静脈損傷(abdominal venous injury) 葛西 猛
4 骨盤骨折 峰原宏昌,松浦晃正,新藤正輝
A 骨盤骨折の解剖
B シーツラッピング
C 経カテーテル動脈塞栓術
D 後腹膜ガーゼパッキング
E 創外固定
索 引
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序文
近年,わが国の外傷外科学は緩やかな速度ではあるが,一歩一歩確実に進歩してきています.ここ数十年の間で,戦時医学の恩恵に浴してきた欧米の外傷外科に比肩できるレベルまで達してきています.私は40年ほど前に聖路加国際病院で頸部外科,内分泌外科,心大血管外科,呼吸器外科,食道外科,肝胆膵外科,末梢血管外科などを11年間にわたり修練し,外科医としてある程度の自信を得ることができました.その後,外傷外科学を志し,帝京大学救命救急センターの小林國男教授の傘下に加えていただきました.入局してまもなく,墜落による胸部貫通杙創と,オートバイ事故による右上葉破裂と右主気管支損傷例が立て続けに搬送されてきました.外科医としていささか自信はあったものの,死に直面している若い患者さんを目の前にして,今自分が何をなすべきかの判断に苦慮し,しばらくはただ呆然と立ちつくすのみでありました.幸いにして,2人の患者さんは何らの合併症もなく,救命することができました.当時は重症患者が次々と搬送されてきたこともあり,数年で多くの重症患者の手術を経験することができ,外傷外科医としての自信を得ることができました.ただし,重度の肝損傷(複雑型深在性損傷に右肝静脈あるいは肝後面下大静脈損傷合併例)を救命することは極めて難しく,このような損傷形態を救命することが,いつしか私のライフワークとなり,今日ではダメージコントロール(一期的手術としてガーゼ充填術,二期的手術としてatrio-caval shunt下肝切除後下大静脈修復術)にて重度の肝損傷の多くは救命できるようになりました(第3章3-F 肝損傷 参照).
今日,わが国において,診断部門では欧米より10年以上前から処置室において研修医や若い外傷専門医が超音波を用いて胸腔内・腹腔内の出血量をかなり正確に推測するのみならず,実質臓器の損傷形態の程度を診断することができるようになりました.また,CTスキャンを用いてより正確な損傷形態を診断することも可能になりました.加えて,hybrid IVR-CTを備える施設が増えたこともあり,手術を回避し,保存的に治療できる症例が増加してきています.手術に関しては,患者の生理学的重症度が高いとき(deadly triad)にはダメージコントロールサージェリー(damage control surgery:DCS)を適応することで重症患者の救命率は向上してきています.
本書は総論と各論から構成されています.私自身が外傷外科医であることから,救急医療に従事している若い研修医や,一般病院で外傷患者の診断と治療にあたる若い外科医の立場を考慮しながら,体幹外傷の診断と治療に焦点をあてて,本書を編集いたしました.本書により,1人でも多くの外傷患者が救命されることを願っております.
最後に,本書上梓にあたりご尽力いただいた診断と治療社の方々に心から感謝いたします.
2015年7月
亀田総合病院救命救急科部長 / 救命救急センター長
葛西 猛