ボツリヌスA型毒素製剤は,2012年11月に重度原発性腋窩多汗症が適応追加され,日常生活で著しくQOLが障害される局所多汗症患者への保険診療が可能となってきた.本書は,日本皮膚科学会の治療ガイドラインを反映し,腋窩多汗症ほか,手掌,頭部顔面などのボツリヌス毒素治療を解説.製剤の取扱い方から,多汗症の病態,治療方針,個別治療の方法についてわかりやすく紹介した.多汗症診療に携わる医師必携の書
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
総監修の言葉 / 梶 龍兒
編集にあたって /玉田康彦,大嶋雄一郎
執筆者一覧
総 論
第1章 ボツリヌス治療とは
/目崎高広
1.ボツリヌス毒素
2.ボツリヌス治療
第2章 ボツリヌス製剤の取扱い
/目崎高広
1.ボトックスⓇ使用までの流れ
2.ボトックスⓇの調製
3.ボトックスⓇの失活・廃棄
第3章 多汗症とは
/藤本智子
1.疾患概念
2.分 類
3.疫 学
4.臨床症状
5.診 断
6.各種治療法
第4章 多汗症におけるボツリヌス治療の位置づけ
/横関博雄
1.原発性局所多汗症の治療法
2.多汗症の診療アルゴリズムにおけるボツリヌス療法の位置づけ
各 論
第1章 腋窩多汗症
/大嶋雄一郎
1.疾患の概略
2.A型ボツリヌス毒素(BT-A)局注療法の位置づけ
3.治療手技
4.治療成績
5.BT-A(ボトックスⓇ)局注療法の有効性および患者治療満足度の検討
6.考 察
第2章 手掌多汗症―ボツリヌス治療を中心に―
/伊東慶子,玉田康彦
1.患者適応
2.治療の実際
3.おわりに
第3章 胸腔鏡下胸部交感神経遮断術後の代償性発汗
/柳下武士
1.代償性発汗の発症機序
2.代償性発汗の臨床症状
3.代償性発汗の治療
第4章 頭部・顔面多汗症
/玉田康彦
1.頭部・顔面多汗症のA型ボツリヌス毒素(BT-A)の局所投与
付 録
多汗症のボツリヌス治療情報サイト /大嶋雄一郎
索 引
ページの先頭へ戻る
序文
総監修の言葉
わが国でのボツリヌス毒素療法は,1980年代後半から臨床試験が始まり,1996年に眼瞼痙攣に対しての治療が認可されて以来,2000年に片側顔面痙攣,2001年に痙性斜頸,2009年に小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足,2010年に上肢痙縮・下肢痙縮,2012年に重度原発性腋窩多汗症に対して適応が拡大されてきた.使用に関してはいまだ厳しい制限が課せられているものの,海外では本治療法に関する研究は進歩を続けて治療効果をあげている.
こういった時代背景を鑑み,近年,わが国でもボツリヌス毒素療法に対する保険適用疾患が拡大されつつあり,著効例も多く報告されるようになってきた.
しかし,治療を受ける患者側のニーズも高まっているなかで,事故事例なども報告されており,治療を施す医師は正しい知識と手技を身に付け,安全かつ適正に実施しなければならない.さらに,ボツリヌス毒素療法は様々な診療科において実施されているため,それぞれの領域での専門知識の習得も必要不可欠である.
そこで,ボツリヌス毒素療法を診療科ごとに取り上げ,手技・コツ・禁忌事項などを盛り込むとともに,写真・イラストを用いて多数の症例をわかりやすく解説したシリーズを企画するに至った.総監修者としては,まずシリーズ構成を決定し,各巻診療科別にその領域の第一人者の先生方に編集をお願いした.
今回発刊された『多汗症のボツリヌス治療』はその第八弾である.
本書が有効に活用され,ボツリヌス毒素療法の発展に寄与することを心より祈願している.
2015年5月
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座
臨床神経科学分野(神経内科)
教授 梶 龍兒
編集にあたって
1989年,米国食品医薬品局(FDA)によりA型ボツリヌス毒素製剤の斜視,眼瞼痙攣への適応が認められた.わが国では,1996年眼瞼痙攣に対してBOTOXⓇが薬事承認され,その後,2000年片側顔面痙攣,2001年痙性斜頸などと神経疾患に対する適応症が拡大された.そして2012年11月には重度原発性腋窩多汗症においても追加効能が承認され,保険適応となった.私達がA型ボツリヌス毒素製剤と関わりをもったのは,重度腋窩多汗症に対するA型ボツリヌス毒素療法の治験に参加させていただいたのがきっかけであり,わが国でも保険適応になったことを大変うれしく感じている.
局所多汗症は,エクリン汗腺の分布密度が高い手掌,足底,腋窩に生じることが多い.患者は日常生活において「手がつなげない,握手できない」,「腋汗の目立つ服が着られない」というように,日常生活に制限があるばかりでなく,その制限に対する精神的負担も強い.さらに「書類が手汗で破れるのではないか」,「自分の腋汗を相手にみられているのではないか」というように強く不安を持ちながら生活を送っており,著しくQOLが障害されている.国内における疫学調査で,原発性局所多汗症の有病率は12.8%,日常生活に影響がある手掌多汗症患者は約231万人,足底多汗症患者は約164万人,腋窩多汗症患者は約249万人存在すると推定されている.しかしながら,日頃の外来患者のなかで,局所多汗症で受診する患者数は少ない.したがって,局所多汗症患者は,1人で病気に悩んでおり,大多数は医療機関で治療を受けていない可能性が考えられる.今回,「多汗症のボツリヌス治療」の編集にあたり,このような患者が1人でも多く医療機関を受診し,適切な治療を受けていただく1つの手助けになればと思う.そして本書が皮膚科の専門家のみならず,関連各診療科の皆様の日常臨床に少しでも参考になることを期待して止まない.
現在さまざまな多汗症疾患にA型ボツリヌス毒素製剤が使用されている.本書には,A型ボツリヌス毒素製剤の基本的な知識,多汗症について,そしてさまざまな多汗症へのA型ボツリヌス毒素療法の方法などを臨床経験豊富な先生方に執筆していただいているが,厚生労働省の薬事承認が得られている製剤はグラクソ・スミスクライン株式会社のボトックスⓇのみであり,適応症も重度原発性腋窩多汗症に限られていることをお断りしておく.
2015年5月
愛知医科大学医学部皮膚科学講座 玉田康彦,大嶋雄一郎