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書籍詳細

再生医療シリーズ

脳神経系の再生医学診断と治療社 | 書籍詳細:脳神経系の再生医学
発生と再生の融合的新展開

公益財団法人先端医療振興財団理事長/京都大学名誉教授

井村 裕夫(いむら ひろお) 監修

京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門教授

高橋 淳(たかはし じゅん) 監修

金沢大学医薬保健研究域医学系脳細胞遺伝子学講座 脳・肝インターフェースメディシン研究センター教授

河﨑 洋志(かわさき ひろし) 編集

初版 B5判 2色(口絵あり) 188頁 2015年01月05日発行

ISBN9784787821324

定価:本体5,500円+税
  

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近年,iPS細胞を用いた再生医学が飛躍的に発展し,臨床応用への期待が高まっている.果たして,臨床応用へ向けた研究はどこまで進んでいるのか.発生と再生をキーワードに最新の知見と将来展望を盛り込んだ期待の一冊.再生医療の研究者のみならず,神経科学に興味をもっている研究者にとっても必読の書.

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目次

監修の序   井村裕夫,高橋淳 
編集の序   河﨑洋志 

第1章 多能性幹細胞とその維持機構
 1 未分化性の維持機構   赤木紀之,横田 崇   
 2 ヒトES細胞の多能性   末盛博文   
 3 iPS細胞   升井伸治,山中伸弥  
 4 生体内多能性幹細胞:Muse細胞   出澤真理  

 第2章 細胞と回路の形成制御
1 神経幹細胞の分化制御機構①
─細胞外来性シグナルと細胞内在性プログラムによる分化制御
  備前典久,鹿川哲史,田賀哲也  
 2 神経幹細胞の分化制御機構②
─WntシグナルとNotchシグナルについて   國屋敬章,河合宏紀  
 3 神経幹細胞におけるPax6の機能   大隅典子,吉川貴子  
 4 神経幹細胞における遺伝子発現の動的制御   影山龍一郎  
 5 神経幹細胞の集団的な核移動   宮田卓樹  
 6 神経回路形成機構   豊田峻輔,八木 健  
 7 大脳皮質の層形成機構   仲嶋一範  
 8 神経活動依存的な神経回路形成   山本亘彦  
 9 神経回路の形成機構
─哺乳類大脳皮質神経回路の生後発達   岩里琢治,水野秀信  

第3章 細胞と回路の再生医学
 1 中枢神経回路の修復現象とそのメカニズム   山下俊英  
 2 軸索再生阻害因子の制御による神経回路形成と神経再生   竹居光太郎  
 3 神経再生メカニズム
─複合組織としての脳の再生を再生動物から学ぶ   井上 武  
 4 内在性神経幹細胞による神経再生   荻野 崇,澤本和延  
 5 角膜の再生医療   辻川元一,西田幸二 
 6 Parkinson病の再生医学   土井大輔,高橋 淳 
 7 網膜疾患の再生医学   森永千佳子,高橋政代 
 8 内耳疾患の再生医学   伊藤壽一 
 9 脊髄損傷に対する再生医療   尾崎正大,岡野栄之 
10 神経幹細胞分化制御の脊髄損傷移植治療への応用   上薗直弘,中島欽一 


第4章 発生・再生研究を支える基盤技術
 1 トランスジェニック・マーモセット   佐々木えりか 
 2 フェレットを用いた高等哺乳動物の脳神経解析   河﨑洋志 
 3 iPS細胞を用いた
神経変性疾患病態解析   森井芙貴子,水野敏樹,中川正法,井上治久 
 4 新しいゲノム編集技術
(TALENおよびCRISPR/Cas9システム)とその可能性   北畠康司 
 5 核移植とクローン動物   加藤容子

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序文

監修の序

 人体は病気や外傷によって大きな損傷を受けることがある.人を含めて哺乳動物では,多くの組織の再生能は限定されたもので,いったん損傷が起こると後遺症を残すのが一般的な現象であった.とくに神経細胞はかつては成長した個体では再生することはないと考えられてきたので,その障害に対してはリハビリテーションを中心とした医療以外には,ほとんど手段がない状態であった.しかし近年神経幹細胞に関する研究の進歩によって,正常成人の脳でも一部で神経細胞の新生が起こることが明らかとなり,神経系の再生医療に期待が持たれるようになった.
 神経系の疾患や外傷には,再生医療が必要なものが多い.例えば罹患率が高い脳血管障害では後遺症を残す頻度が高く,寝たきりになり介護を必要とする最も重要な疾患である.また高齢者の増加とともに,アルツハイマー病,パーキンソン病などの神経変性疾患が増加しているが,これら疾患に対しては原因療法がなく,再生医療に期待が寄せられている.また外傷による中枢神経系の障害も多く,なかでも交通外傷などによる脊髄損傷は重篤な後遺症を残して生活の質(QOL)を悪くするので,再生医療への期待はとくに高い.
 神経系の再生医療を実現するためには,神経系の発生,分化,神経回路の形成などの基礎的な知識のみでなく,胚性幹細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞への理解が必要である.というのも体性神経幹細胞を得ることは容易ではないので,再生医療には多能性幹細胞を利用する場合が多いと考えられるからである.本書はそうした視点に立って,神経系の発生・再生を総合的に俯瞰することを目的として編纂された.
 一般財団法人代謝異常治療研究基金では,再生医療を特定課題として公募によって研究課題を選ぶとともに,終了時に研究の現状をまとめた総説を一冊の書籍として刊行することとしている.本書の編者河﨑洋志教授は新進の神経科学者で,この分野の進歩の現状を的確にまとめて頂いたと評価している.本書が再生医療の研究者のみでなく.神経科学に興味を持つ方々に広く利用されることを期待している.

2014年12月

公益財団法人 先端医療振興財団理事長,京都大学名誉教授
井村裕夫
京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門教授
高橋 淳



編集の序

 近年,iPS細胞を用いた再生医学が飛躍的に発展し,臨床応用への期待が高まっている.加齢黄斑変性症やParkinson病など従来,根治が困難であった疾患への新たな治療法の可能性が提示されているからである.加齢黄斑変性症に対するiPS細胞の臨床研究は始まりつつあり,Parkinson病の臨床研究も現実味を帯びてきている.脊髄損傷などその他の疾患に対する治療に向けた研究も着実に進展している.もちろん,実際に臨床応用され一般に普及するためには,高度な安全性の確保,細胞バンクの樹立と品質管理,大量生産とコスト削減,前臨床研究などさらに克服すべき問題点は残されているものの,これまで以上に着実に実用化に向けて研究が進むことは確実だと思われる.
 これらの飛躍的発展は,iPS細胞の樹立はもちろんのこと,過去に非常に多くの基礎的もしくは臨床的な研究成果の蓄積があったからこそ初めて可能となったことは論を俟たない.1981年にはマウスES細胞(embryonic stem cell:胚性幹細胞)が,1998年にはヒトES細胞が樹立された.万能細胞ともよばれるES細胞は遺伝子改変マウスの作製に非常に有用であるとともに,試験管内でES細胞から様々な細胞へと分化誘導させる技術の発展とともに再生医学に必須な存在となった.さらにES細胞が未分化状態を維持するための分子機構も解析され,Oct3/4などといった研究成果がiPS細胞の樹立に貢献している.最終的にはOct3/4, c-myc, Klf4, Sox2という4因子を体細胞に組み込むことで未分化なiPS細胞を作製できることが山中伸弥先生より報告されたことは記憶に新しい.これにより,ES細胞を用いた再生医療であげられていた二つの問題点,即ち初期胚から細胞を取り出すことに対する倫理的問題,および他人由来細胞の移植による拒絶反応の問題が克服されることとなった.
 未分化性の維持機構やiPS細胞の樹立とともに,ES細胞やiPS細胞から様々な有用細胞を試験管内で作製する技術も再生医学の実現には重要であった.最も初期の研究ではES細胞の集合体である胚様体(embryoid body)を作製し,ある程度ランダムに分化させることにより多様な有用細胞の作製が行われた.さらにPA6細胞という特殊な細胞をフィーダーとしてES細胞と共培養することによりES細胞を選択的に神経細胞へと分化誘導することが可能となり,このSDIA法を用いることにより試験管内でドーパミン作動性神経細胞,網膜色素上皮細胞,運動神経細胞,感覚神経細胞などをつくることが可能となった.個々の細胞への分化誘導が成功すると,次には組織の分化誘導が焦点となった.浮遊培養法を基盤とすることにより大脳皮質や網膜などといった立体的な構造をもつ組織の一部を試験管内で再現できることが報告された.このように様々な神経細胞や神経組織がES細胞やiPS細胞を用いて試験管内で作製することが可能となった背景には,過去の正常発生過程における神経細胞の運命制御機構の研究や組織形成過程の研究成果が基盤となり,これらを試験管内で再現することが手がかりとなってきた.またES細胞やiPS細胞を用いた再生医学を契機としてさらに新しい研究が幅広く展開されている.様々な疾患の患者さんからのiPS細胞を用いた病態解析などはその典型例といえる.動物などを用いた実験技術的な発展も再生医療発展の重要な基盤となっている.
 このように多彩かつ地道な研究成果の積み重ねとその有機的な相互作用が重要と考えられる.このような背景から新たな有機的な相互作用が生じることを期待し,発生・再生をキーワードとした第一線の研究者の方々に様々な異なる視点からの最新の知見をご紹介頂くこととなった.是非本書全体を通読することをお勧めしたい.何らかの新たな視点が得られるのではないかと思う.私も本企画のなかから未来につながる新しい発想を得たいと思っている.
 なお本原稿を準備中に,この研究分野を牽引してこられた笹井芳樹先生の訃報が入った.言葉にならない.ご冥福をお祈り申し上げます.

2014年12月

金沢大学医薬保健研究域医学系脳細胞遺伝子学講座
脳・肝インターフェースメディシン研究センター教授
河㟢洋志