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チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS
改訂第2版診断と治療社 | 書籍詳細:チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS <br>改訂第2版
―緩和ケアの成果とケアの質を客観的に評価するために―

さくさべ坂通り診療所

大岩 孝司(オオイワ タカシ) 著

さくさべ坂通り診療所

鈴木 喜代子(スズキ キヨコ) 著

改訂第2版 B5判 並製 144頁 2018年06月20日発行

ISBN9784787823700

定価:本体2,800円+税
  

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がん終末期患者を包括的に受けとめ、患者視点に立ってケアの質を評価するスコアリングツールが「STAS」である。トータルペインに対する全人的ケア、特に多職種が関わるチームケアにおいて,なぜSTAS(STAS-J,STAS-O)が有効なのか、活用の仕方やポイントを、症例をあげてわかりやすく解説.第2版では患者家族との会話例を追加し、コミュニケーションの実践的テキストとしても充実させた。

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目次


はじめに
1章 STASについての概説
1 トータルペインと全人的ケア―患者と総合的に向き合うということ
2 患者の主観に近づくということ
3 トータルペインとSTAS
4 他者評価ということ―STASの特徴
5 STAS-Jは,患者と家族の状況を評価する9項目で構成されている
6 STAS originalは,環境要因を含む16項目で構成されている
7 クリニカル・オーディットとしての役割をもつ  

2章 STAS-Jとそのスコアリング
1 STAS1 痛みが患者に及ぼす影響
2 STAS2 痛み以外の症状が患者に及ぼす影響
3 STAS3 患者の不安が及ぼす影響
4 STAS4 家族の不安
5 STAS5 患者の病状認識
6 STAS6 家族の病状認識
7 STAS7 患者と家族とのコミュニケーション
8 STAS8 職種間のコミュニケーション
9 STAS9 患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーション   

3章 STAS-Oとそのスコアリング
1 STAS10 計画
2 STAS11 実質的支援
3 STAS12 経済的支援
4 STAS13 時間の浪費
*マイケアプラン  
5 STAS14 スピリチュアル
6 STAS15 医療スタッフの不安
7 STAS16 スタッフへの助言・指導

4章 STASの実践と活用
1 スコアリング(ケアの評価)の根拠を明確にする
2 スコアリングの根拠は,患者が語った言葉(ナラティブ)に基づく
3 生活に支障をきたしているかどうかの視点でスコアリングする
4 記録はSOAP形式を採用し,STASと連動させる
5 スコアリングは,チームミーティングでの話し合いをもとに行う
*STASに出会って変わったこと  

5章 症例でみるスコアリングの実際
1 Sデータ 患者の語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ Sデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
3 アセスメント スコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
4 プラン 患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 提供したケアの結果を評価する 第5段階  

6章 スコアリング集―4つの症例から―
症例1 身動きができず3日間,水も飲めずにいた患者Bさん
1 Sデータ Bさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ BさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
3 アセスメント Bさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
4 プラン Bさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Bさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階

症例2 残された時間が短い状況で退院した一人暮らしの患者Cさん
1 Sデータ Cさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ CさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
3 アセスメント Cさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階  
4 プラン Cさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Cさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階

症例3 高齢者施設で暮らす患者Dさん
1 Sデータ Dさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ DさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
3 アセスメント Dさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
4 プラン Dさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Dさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階

症例4 痛みのスコアリングができない患者Eさん
1 Sデータ Eさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ EさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
3 アセスメント Eさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
4 プラン Eさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Eさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階

7章 緩和ケアチームにおけるSTASの活用
Q1 クリニカル・オーディットは,STASの大事な役割とのことですが,
  具体的にはどのように行うのでしょうか。
Q2 チーム全体のケアの質の評価は,STASをどのように活用していますか?
Q3 STAS1とSTAS2のスコアが<1>以下ということは
  薬を増量していないということですか?
Q4 死亡前日にスコアリングができるということは,
Q5 コミュニケーションがとれているということですか?
  緩和ケアの質を評価するために,STASの他に何か方法はありますか?
8章 明日からの実践に生かすために
1 スコアリングを習慣づけることから始めましょう
2 症状コントロールは“薬物治療だけではない”と思うこと
3 患者を“主語”にしたミーティングを心がけましょう
4 自律支援を基本に考えましょう
5 多職種連携ではSTAS-Oを意識しましょう
6 スコアリングができない時は,スコア<7>でよいのです

文 献
付 録
おわりに
索 引

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序文


はじめに
 がん終末期に限らず死を現実のものと実感したときに,人はそれまでになく生を,生きることを強く意識し,渇望します。
 がんと診断されると,病気と向き合いながら,生きていくことを余儀なくされます。治療中も,治療をしていなくても,患者は自身の病状・治療の内容を理解していなければ,生活の予定も人生設計も立てられません。
 多くの患者・家族は治療方針や治療計画は医師が立てて,医療者に言われた通りにしていれば問題ないと医療を信頼し,医療者に任せて病気の治療を受けています。ところが,がん終末期では治療の選択は医療的な問題だけではなく,患者自身の価値観に大きくかかわることから,患者が医師から治療の選択を求められる事態が起こります。医療を信頼し医療者の判断に委ねていた患者はそれまでに経験したことのない状況に戸惑います。“「どうしたいですか?」と医師から聞かれても,『わからないです』”と話される患者は少なくありません。病状理解が不足していると,患者は自分で決めるために必要な情報を整理できません。“知りたいことを医師に聞けない”,“医師から受けた説明の意味がわからない”と大切な場面で,医師とうまく話ができずに困ってしまうようです。

緩和ケアとは
 緩和ケアにおける医師・看護師の役割は,大切な時間をその人らしく生き抜くための支援です。患者・家族の“気がかり”に耳を傾け,抱えている問題の解決に向けて,がん治療あるいはがん治療後の意思決定を支援し,様々な苦痛の緩和を図ります。がん治療の終了を告げられた時にも,その人の意思を尊重したケア,家族へのケアを提供するためには,多職種間の調整を含めたチームケアが必要です。緩和ケアチームは患者・家族が最善の選択をできるために,患者・家族の自律を支援します。
 緩和ケアは,全人的ケアという表現で共通理解されています。その内容は基本的なあり方として“患者と家族に寄り添う”,“患者の意思を尊重する”,“その人らしい生き方を支える”などと表現されています。しかし,実践の場ではどのようなケアが提供されているでしょうか。それぞれの緩和ケアチームがそれぞれのやり方で実践し,それぞれに評価しているのが実情ではないでしょうか。全人的ケアを実践する具体的な手順が明確にされていないからです。具体的な手順の共有がなければ緩和ケアのフレームが定まらず,緩和ケアの質の評価・向上は困難です。この問題を解決しなければ,緩和ケアを医療・ケアとして一定の水準を維持しながら定着,普及することはできません。

STASとは
 筆者はがんのホームドクターとして診療するなかで,患者・家族から様々な問題を突きつけられてもきました。一つひとつの問題を何とかして解決したい,解決の道筋を見つけたいと,考えてきました。そうしたなかでSTAS(Support Team Assessment Schedule)に出会い,一定の水準を保ちながら緩和ケアを実践する具体的な手順を確立する可能性を強く感じてきました。
 われわれは2005年からSTAS?Jを導入していますが,チームの共通言語として定着するとともにその成果は想定を超える形で現れました。まず看護師・医師を含めたケアスタッフのアセスメント力が向上したことがあげられます。さらに,STASという共通言語を用いることでチーム内での患者・家族の状況を共有することに役立ち,認識のズレが少なくなりました。
 STASは緩和ケアを実際に提供するツールとして,日本緩和医療学会でも推奨しています。日本語版としてはSTAS?J(STAS日本語版)スコアリングマニュアル1)があり,項目として「痛みのコントロール」「痛み以外の症状コントロール」「患者の不安」「家族の不安」「患者の病状認識」「家族の病状認識」「患者と家族とのコミュニケーション」「職種間のコミュニケーション」「患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーション」の9項目からなります。
 STASの開発者であるHigginsonが提示した原型(以下STAS original版)2)は全部で16項目あり,STAS?Jはそのうちの上記9項目を採用していて,残りの7項目はSTAS?Jでは活用(翻訳)されていません。7項目の内容は,「計画」「実質的支援」「経済的支援」「時間の浪費」「スピリチュアル」「医療スタッフの不安」「スタッフへの助言・指導」(以上筆者による日本語訳)です。
 STAS original版では各項目に番号をつけていませんが,本書ではSTAS?Jで活用(翻訳)されていない7項目についてはSTAS?Jに引き続いてSTAS10~16と番号をつけ,この部分を独自にSTAS?Oと表現しています。STAS?Oはその内容を確認した時に,筆者らが作成し以前から活用していた在宅緩和ケアの基準とほぼ一致していることに気づきました。
 緩和ケアにおけるチームケアをより充実させるために,STAS?Oの活用を加えることは有意義であると高く評価し,2010年からSTAS?Jの9項目とSTAS?Oの7項目を合わせたSTAS original版全体の活用を始めました。したがって本書では,STAS?JだけでなくSTAS?Oを加えた16項目が活用できるように,STAS originalのすべての項目について述べることとしました。

 本書でのSTAS?Jの日本語訳は「STAS?J(STAS日本語版)スコアリングマニュアル1)」に従い,STAS?Oの日本語訳は筆者によるものです。STAS?Oについては,付録の英語原文を参照してください。


STASを活用するために
 1 実際の活用はこれら16の項目をそれぞれ評価して,その結果を数字で表現します。この数字で表現することをスコアリングといいますが,筆者はスコアリングおよびその結果の活用に独自の工夫をしています。
 工夫の第一は患者・家族にかかわる項目をスコアリングする際の根拠を,ケア側の価値観が影響しないように徹底して患者・家族の話した言葉にしたことです。
 これはNBM(Narrative Base Medicine)3),4)の基盤の確立につながり,STASが他者評価であることの弱点を補います。患者の語りのなかにある主観的な情報を批判せずに聞くことで,患者が体験している患者にとっての事実がわかります。患者が“気分が悪い”と言ったときに“吐き気がある”など患者の言葉を専門用語に置き換えずに記録します。専門用語に置き換えることで,患者の物語ではなくケア提供者の物語になってしまうからです。患者本人が感じることは,ケア提供者が代わって表現することはできません。患者が自身の言葉で表現しない限り誰にもわかりません。その意味で緩和ケアは本質的にNBMなのです。
 2 第二の工夫は,多くの職種の記録方式として広く使われているSOAP(S:Subject,O:Object,A:Assessment,P:Plan)と連動させたことです。まず,SOAPのSデータに着目します。患者本人と話をすることは,緩和ケアの基本の“き”であり,STASを活用するための第一歩です。Sデータは,患者が表現した生の言葉で記録する(逐語記録)ので,患者本人と話をしなければ記録は書けません。次にSデータに関連するOデータを抽出します。緩和ケアではSデータと無関係にケア側が客観的な評価(Oデータ)をしても,患者が体験している患者にとっての事実を知ることはできません。
 3 第三の工夫は,身体的および精神的な問題をOデータからアセスメントするだけではなく,STASのそれぞれの項目の関連性に注目して,アセスメントすることです。
 スコアの高い項目はケアが不足しているという評価で,何らかの対応が必要です。しかしスコアの高い項目ごとに対応するのではなく,相互の項目の因果関係に注目して,原因となっている項目のスコアを下げるケアを提供します。その判断が適切であれば全体のスコアが下がります。

 それぞれの項目の関係性から患者・家族の状況をアセスメントすると,患者の全体像(“丸ごとみる”/トータルペイン)を捉えることができます。STASはトータルペインを受け止め,全人的ケアを実践する具体的な道筋を明確にするツールとして,とても優れていることがわかります。
 著者のチームは,2005年にSTAS?J1)を導入し独自の工夫を積み重ね,患者のあらゆる問題を“丸ごとみる”という考え方で緩和ケアを実践しています。

本書の構成と使い方
 本書は,実践に役立つことを目指しているのでSTAS(STAS?J,STAS?O)の活用を現場での実践に即した形で記述しています。スコアリングまでのプロセスを大切にするために,患者・家族の話を引き出すためのコミュニケーション(会話)やカウンセリングの実際を具体的な会話の形で記述しています。
 今回の改訂にあたって,課題に則した会話録をさらに付け加え,コミュニケーションの実践的なテキストとしての活用ができることを目指しました。
 また,STASを活用している看護師から患者さんとのコミュニケーションが変わったという話が多く聞かれましたので,今回の改訂では看護師の体験談(p.72)として追加しています。
 そしてSTASについて基本的な理解をしてもらうために,概説(1章)およびSTAS?J(2章),STAS?O(3章)の順に述べ,次にSTASの実際の活用のしかた(4章)を解説しました。5章・6章では,症例を通して,患者とのコミュニケーション,STASのスコアリングの実際を理解してもらえるような構成にしました。
 使い方としては,本書を順序通り読み進めていただかなくてもよいです。たとえば5章の症例から読んでSTASのスコアリングの実際を体験したのち,なぜ緩和ケアにSTASが有効かという理論について1~3章を読んでいただいても,十分にご理解いただけると思います。
 さらに,7章でSTASのクリニカル・オーディットとしての役割の実際について,8章でSTASを導入し実践に活かすためのポイントについて述べています。
 本書を読むにあたって,すでにSTASを活用されて基本的な理解をされているのであれば,5章・6章の症例を通してのスコアリングの実際から読みはじめてもかまいません。
 STASについての理解を深めるなかで,あらためて緩和ケアの概念の再整理を行い,深化していただくことも本書の大きな目的です。

最後に
 用いる用語についての確認をしておきます。緩和ケアは,ホスピスケア,ホスピス・緩和ケア,緩和医療など様々な表現がありますが,本書ではケアという言葉は「求めに応じてその人にかかわること」という意味に捉えて医療をも包含していると位置づけ,医療の側面を強調したい場合を除いて“緩和ケア”に統一をしました。
 なお本書の書籍化にあたり,STAS?Jについては日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団に,STASについてはI. J. Higginson教授に了解をいただいています。
 では,STAS(STAS?J,STAS?O)が緩和ケアにおける共通の言語として広がることに少しでも貢献できることを願って,本書の扉を開けることにいたします。

2018年5月  大岩孝司,鈴木喜代子

文 献
1)STASワーキング・グループ・編:STAS?J(STAS日本語版)スコアリングマニュアル 第3版.日本ホスピス・緩和ケア研究財団,2007〔http://plaza.umin.ac.jp/stas/〕(2016年1月閲覧)
2)SUPPORT TEAM ASSESSMENT SCHEDULE DEFINITIONS AND RATINGS. 〔http://www.kcl.ac.uk/lsm/research/divi
sions/cicelysaunders/attachments/Tools?STAS?Support?Team?Assessment?Schedule.pdf〕(2016年1月閲覧)
3)Trisha Greenhalgh:Narrative based medicine in an evidence based world. BMJ 318:323?325, 1999〔http://www.bmj.com/content/318/7179/323.1〕(2018年3月閲覧)
4)齋藤清二:医療におけるナラティブとエビデンス?対立から調和へ.遠見書房,2012