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書籍詳細

「なぜそうすべきか」がわかる!
目的別車椅子シーティングのススメ診断と治療社 | 書籍詳細:目的別車椅子シーティングのススメ

川崎医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科

小原 謙一(こばら けんいち) 編集,執筆

川崎医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科

藤田 大介(ふじた だいすけ) 編集,執筆

川崎医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科

黒住 千春(くろずみ ちはる) 執筆

川崎医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科

髙橋 尚(たかはし ひさし) 執筆

川崎医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科

永田 裕恒(ながた やすゆき) 執筆

川崎医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科

平田 淳也(ひらた じゅんや) 執筆

初版 B5判 並製 120頁 2021年07月05日発行

ISBN9784787824578

定価:4,180円(本体価格3,800円+税) 電子書籍はこちら

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「生活場面や目的にあわせたシーティングとは一体どんなものか?」「食事のときはどういったシーティングが適切なのか?」など医療職種・介護職種が知っておきたい知識と実践方法を網羅.イラストによる詳細な解説により,基礎知識からスキルアップまで様々なレベルに対応.日々の臨床業務や生活支援に役立つ,実践的な1冊です.

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目次

推薦の序 椿原彰夫

序 小原謙一

執筆者一覧

1章 シーティングのための基礎知識
A 座ることの基礎
 1 そもそも「座る」とは 小原謙一
 2 座位を理解するための力学の基礎知識 小原謙一
 コラム 力学と運動学を踏まえて座位の負担を考える 小原謙一
 コラム 圧力分布測定器の活用 小原謙一

B 車椅子の基礎
 1 車椅子の種類と各部位 藤田大介
 2 車椅子用座クッション 藤田大介
 3 モジュラー式車椅子 藤田大介
 コラム ティルト・リクライニング式車椅子はなぜよいのか 小原謙一

2章 座って安楽に過ごすときの目的別シーティング
A 安楽な座位姿勢を維持るためのシーティング
 1 安楽な座位姿勢とは 永田裕恒  
 2 座位姿勢を保持することによる安定性と快適性 永田裕恒  
 3 安楽な座位姿勢を維持するためのポイント 永田裕恒 
 コラム  座位姿勢の快適性を評価するには自律神経活動指標が有効 永田裕恒 

 ちょっと待って!考えてみよう 姿勢保持編 永田裕恒
 
B 安楽な呼吸のためのシーティング 
 1 呼吸の基礎知識 髙橋 尚  
 2 安楽な呼吸を維持するためのポイント 髙橋 尚 
 コラム  リクライニング操作の繰り返しは安楽な呼吸の邪魔になるか 髙橋 尚
 
 ちょっと待って!考えてみよう 安楽な呼吸編 髙橋 尚
 
C 褥瘡を予防するためのシーティング  
 1 知っておきたい褥瘡の基礎知識 小原謙一 
 2 車椅子座位で発生する外力を減少させる 小原謙一  
 3 臀部への外力増大を防ぎながらティルト・リクライニング式車椅子を活用する 小原謙一  
 コラム  摩擦力を駆使してリクライニング中の臀部へのずれ力変動を抑制する 小原謙一
 
 ちょっと待って!考えてみよう 褥瘡予防編 小原謙一 

3章 生活場面に合わせた目的別シーティング
A 机上で活動するときのシーティング  
 1 机上活動における姿勢の重要性 平田淳也  
 2 机上活動における不良姿勢の影響 平田淳也  
 3 効率のよい机上活動のためのポイント 平田淳也 
 コラム  運動麻痺のある対象者のリーチ動作時の上肢と体幹 平田淳也
 
 ちょっと待って!考えてみよう 机上活動編 平田淳也
 
B 食事のときのシーティング  
 1 食事に必要な機能 黒住千春  
 2 椅子に座っての食事 黒住千春  
 3 車椅子に座っての食事 黒住千春
 コラム  身体に合う車椅子を用意できない場合 黒住千春
 
 ちょっと待って!考えてみよう 食事編 黒住千春 
 
C 車椅子で移動するときのシーティング  
 1 車椅子駆動の基礎知識 藤田大介 
 2 上肢駆動  藤田大介   
 3 下肢駆動  藤田大介  

 ちょっと待って!考えてみよう 車椅子での移動編 藤田大介 


索引

編集者・執筆者紹介

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序文

推薦の序
 

わが国では,高齢者人口の増加と少子化によって,家庭での介護力の減少がますます加速されています.これは介護現場においても同様であり,介護サービスを利用する多くの利用者さんの介護に,少数のスタッフが奮闘している姿を目の当たりにします.それらの利用者さんのなかには,不適切な姿勢で車椅子に座っている方が見受けられ,このことが多くの問題を引き起こしていると知られています.
利用者さんにとって,無造作に座るだけで放置されてしまっている「座らせきり」の状態が苦痛であることは,容易に推測できます.「座る」ことは,そのこと自体が目的なのではなく,何らかの目的を達成するための手段です.社会生活では目的によって服装や靴,道具を選ぶように,座ることも目的によって,その方法や姿勢を変化させなければなりません.しかし,高齢者にとっては,目的に応じて姿勢を自分で変化させることは,困難な場合が少なくはありません.これらの問題を解決する手法の1つとして,「シーティング」という技術があります.
シーティングは,2017 年から疾患別リハビリテーション料のなかに取り入れられ,食事動作などの日常生活活動が低下している方々に身体機能を向上する適切な姿勢を取ったり,褥瘡を予防するために体圧分散できるクッションや付属品の選定や調整を行うと算定可能となりました.さらに,2021年の介護報酬改定でも,シーティングをリハビリテーションの実施時間に含めることが可能と明記されました.このように,医療現場だけでなく介護現場においても,シーティングを実践することの重要性についての理解が深まっている状況にあります.ただし,「何を,どうしたらよいのかわからない」といった声が,利用者さんの介護に当たっているスタッフやご家族から聞かれることも事実です. 
本書は,このような介護現場での切実な声に応えるべく発刊されました.目的別に座り方を変化させることを重視し,「目的別車椅子シーティング」を提案していることは,これまでの教科書に類を見ない斬新なものであります.目的とする動作を行うために必要な身体に関する基礎知識や,実際にどうすべきかの具体的な方法について,目的別にわかりやすく解説されています.目的別の車椅子シーティングについて,これから学ぼうとされている看護師,介護福祉士,理学療法士,作業療法士等の専門職や学生さんはもちろんのこと,ご自宅で介護に当たっているご家族にも大いに役立つ内容となっています. 
本書によって,具体的なシーティングについての理解が深まり,正しい方法が広く普及されることを期待いたします.また,それによって,介護現場でのスタッフやご家族の負担が軽減され,利用者さんの苦痛が和らぐことを願っております.長年にわたってシーティングの研究と教育に取り組んでこられた2人の先生方の熱い思いに敬意を表するとともに,本書による学習を多くの方々に強く推薦申し上げる次第です.

2021年6月
川崎医療福祉大学学長椿原彰夫







 
いわゆる「寝たきり,寝かせきり」に至ることを防ぐために,高齢者を積極的に座らせるべきとの考えが1990年代から広まっています(Trefler, et al., 1993).この「座らせることがよい」という考えが強すぎて,身体に適合していない既存の普通型車椅子に長時間ただ座ることを強いられ,苦痛に顔をゆがめている対象者を見かけることがあります.このいわゆる「座りきり,座らせきり」の状態が,新たな弊害を生むことも指摘されています. 
「寝かせきり」,「座らせきり」の弊害を引き起こさずに効果的に安楽に座ることを実現するために,「シーティング」という手法があります.『「シーティング」とは,椅子・車椅子を利用して生活する人を対象に,座位に関する評価と対応(機器の選定,調整,マネジメントなどを含む)を行うことです.シーティングの目的は,対象者等と共有した目標を達成できる適切な座位姿勢を実現することにより,二次的障害の予防,活動と参加の促進,心身機能・構造の改善を促すこと』とされています(日本シーティング・コンサルタント協会).このように,ただ「座る」だけではなく,そこには目標,目的が存在しています.そして,目的によって適切な座位は異なります.目的別に車椅子を調整し,座位を適切に修正する「目的別シーティング」をすべての対象者に実施することが可能になれば,対象者の生活がより活動的なものに変わります. 
2017年(平成29年)に厚生労働省から発出された診療報酬算定方法の疑義解釈通知のなかで,理学療法士等が車椅子などの上での姿勢保持や褥瘡予防のために「シーティング」を実施した場合は,「疾患別リハビリテーション料」を算定できることが明記されました.このように,「シーティング」の効果,重要性は広く認められてきていますが,依然としてただ座らされている対象者が多いのも事実です.このような状態を払拭するためには,多職種で取り組む必要があります.しかしながら,車椅子の適合,調整を行う理学療法士や作業療法士,そして,生活,療養の場で車椅子の操作や対象者の姿勢を修正する機会の多い看護師や介護福祉士が,「シーティング」について「何をどうするべきかわからない」状態では「座らせきり」の問題を払拭することは困難です. 
本書は,「なぜそうすべきなのか」を知って目的を達成するための基礎と,その基礎を用いた「シーティング」のポイント,さらに,これまでありがちだった誤った「シーティング」について,初学者にもわかりやすく,イラストを用いて解説しています.本書によって,車椅子を使用している対象者にかかわる多職種の「目的別シーティング」に対する理解が進み,「座らせきり」の問題が払拭されることを願っています.

2021年6月
編集を代表して川崎医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科教授
小原謙一