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老年期うつ病ハンドブック診断と治療社 | 書籍詳細:老年期うつ病ハンドブック

昭和大学医学部精神医学教室准教授

三村 將(みむら まさる) 編集

名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学臨床教授

仲秋 秀太郎(なかあき しゅうたろう) 編集

慶応義塾大学医学部精神神経科学教室専任講師

古茶 大樹(こちゃ ひろき) 編集

初版 B5判 並製 348頁 2009年06月20日発行

ISBN9784787816283

定価:本体7,500円+税
  

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以下の三つのメッセージが本書の特長である.①総論では操作的診断技法やエビデンスに基づく知識を踏まえたうえでさらに症候論的分類や心因論的理解などを重視した総合的アプローチの試みを,②症例呈示の各論では各症例への考え方や対処法を詳述し類似症例に遭遇した際の診療指針を,③全体としては精神科医療の方向性を知るうえでも極めて重要である生物-心理-社会的(bio-psycho-social)な総合的アプローチの重要性を示した.

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目次

老年期うつ病ハンドブック

Contents


執筆者一覧
序に代えて
 ………………………………………三村 將

A 老年期うつ病総論――疾患理解のためのオリエンテーション
 1 疾患概念総論I――疫学,危険因子,病因論
 ………………………………仲秋秀太郎/三村 將/古茶大樹
  Topics 1 高齢者のストレス
 ………………………………………落合結介/笠原洋勇
  Mini Lecture 1 ライフステージと老年期うつ病
 ………………………………………繁田雅弘
  Mini Lecture 2 うつ病と視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能異常
 ………………………………………尾鷲登志美
  Mini Lecture 3 うつ病と甲状腺
 ………………………………………尾鷲登志美
 2 疾患概念総論II――老年期うつ病の臨床的症候学的分類
 ………………………………古茶大樹/三村 將/仲秋秀太郎
  Mini Lecture 4 うつ病とアパシー
 ………………………………………大東祥孝
  Mini Lecture 5 退行期メランコリーと妄想性うつ病
 ………………………………………古野毅彦/古茶大樹
 3 評価尺度
 ………………………………………大坪天平
 4 検査所見
  a 形態画像検査(頭部CT,頭部MRI)
 ………………………………………萬谷昭夫/藤川徳美
   Topics 2 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)
 ………………………………………萬谷昭夫/岡田 剛/
岡本泰昌/高見 浩/山脇成人
  b 脳機能検査(脳血流SPECT,PET)
 ………………………………………下田健吾/木村真人
   Topics 3 近赤外線スペクトロスコピィ(NIRS)
 ………………………………………福田正人/亀山正樹
  d 心理検査
 ………………………………………萩原徹也/天野直二
  e 神経心理学的検査
 ………………………………………馬場 元
   Topics 4 前頭葉機能検査
 ………………………………………船山道隆
 5 うつ病と他疾患(鑑別・併存)
 ………………………………………山田武史
   Topics 5 Lewy小体型認知症と老年期うつ病
 ………………………………………水上勝義
   Topics 6 Parkinson病におけるうつ病
 ………………………………………真田健史/三村 將
   Mini Lecture 6 遅発緊張病
 ………………………………………古茶大樹
   Mini Lecture 7 双極性障害
 ………………………………………坂元 薫
 6 薬物療法
 ………………………………………中島振一郎/渡邊衡一郎
  Topics 7 新しい抗うつ薬
 ………………………………………久住一郎/小山 司
  Mini Lecture 8 増強療法の実際
 ………………………………………鈴木健文
  Mini Lecture 9 睡眠薬の使い方
 ………………………………………岡島由佳
 7 非薬物的生物療法
 ………………………………………安田和幸/本橋伸高
  Topics 8 磁気刺激療法
 ………………………………寺尾 岳/森永克彦/藤木 稔
 8 精神療法
 ………………………………………中川敦夫
  Mini Lecture 10 認知行動療法の実際
 ………………………………………陳 峻
  Topics 9 対人関係療法
 ………………………………………水島広子
 9 うつ病と社会
 ………………………………………忽滑谷和孝
  Mini Lecture 11 高齢者の希死念慮に対する対応
 ………………………………………玄 東和/張 賢徳
  Mini Lecture 12 いつ入院治療を考えるか
 ………………………………………高塩 理
  Mini Lecture 13 老年期うつ病と事件
 ………………………………………工藤行夫
  Mini Lecture 14 成年後見制度
 ………………………………………村松太郎
 10 予  後
 ………………………………………陳 峻/仲秋秀太郎
  Mini Lecture 15 老年期うつ病と自殺
 ………………………………………大塚耕太郎/酒井明夫
  Topics 10 難治性うつ病
 ………………………………………井上 猛/小山 司

B 老年期うつ病各論――症例から学ぶ診療ノウハウ
 1 発症要因
  a 遷延する死別体験が契機となった“うつ病”症例
 ………………………………………墨岡卓子
  b 身体疾患(直腸癌術後)にうつ病を併発した症例
 ………………………………………高畑圭輔
  c 脳卒中後うつ病症例
 ………………………………………下田健吾/木村真人
  d 神経疾患(Parkinson病)を有するうつ病症例
 ………………………………………加治芳明/平田幸一
 2 診断,症状
  a 不安焦燥感の強い“うつ病”症例
 ………………………………………櫛野宣久
  b 退行期メランコリー症例
 ………………………………………古野毅彦/古茶大樹
  c 慢性疼痛を主症状とするうつ病症例
 ………………………………………赤石 怜
  d 身体的不調を主症状とする仮面うつ病症例
 ………………………………………古茶大樹
  e 治療抵抗性の疼痛性障害(舌痛症)に抑うつ状態が併発した症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  f 治療抵抗性のCotard症候群を伴ううつ病症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  g Alzheimer病との鑑別が困難であった老年期うつ病症例
 ………………………………………山縣 文/三村 將
  h アルコール依存症を併存するうつ病症例
 ………………………………………田 亮介
 3 治  療
  a ミルナシプラン投与後に抑うつ状態と前頭葉機能が改善したAlzheimer病症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  b 漢方治療が有効であった症例
 ………………………………………幸田るみ子
  c 認知行動療法が有効であった症例
 ………………………………………衛藤理砂
  d 心理社会的支援が有効であった症例
 ………………………………………平島奈津子
 4 経  過
  a 意欲低下と倦怠感が一定期間持続する反復性の難治性うつ病症例
 ………………………………………渡邉有希
  b 抑うつ気分・意欲低下・悲観的思考・身体症状が遷延した治療抵抗性のうつ病症例
 ………………………………………樋山光教
  c 典型的な老年期うつ病からAlzheimer病に至った症例
 ………………………………………馬場 元
  d 喪失体験が誘因でうつ病となり,その後うつが軽快したにもかかわらず,自殺した症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  e 血管性うつ病から脳梗塞後躁病に至った症例
 ………………………………………石渡康宏/三村 將
 5 失敗から学ぶ
  a 炭酸リチウムが甲状腺機能に影響し,せん妄を誘発した症例
 ………………………………………市村公一
  b 長期にわたりFTD(Pick病)と誤診されていたうつ病症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  c うつ病と誤診され,抗精神病薬の投与により,意識障害に至ったLewy小体型認知症の症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  d 前頭葉の脳梗塞に伴い顕著なアパシーを認めた症例
 ………………………………………仲秋秀太郎
  C 索  引
和文索引
欧文索引

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序文

序に代えて

 本書は老年期うつ病に関する様々な視点からの知見を包括的にまとめたものである.今日,うつ病については一般的な関心の高まりもあり,多数の書籍が出版されているが,老年期うつ病に限定して,その診断と評価,治療の原則をまとめた書籍はごくわずかである.超高齢社会の現在,精神科診療に限らず,多種多様な医療場面で老年期うつ病の患者さんを目にする機会はますます増えてきており,老年期うつ病の診療について的確な指針を示した実践的な書籍が望まれている.本書はまず,臨床研修医や一般科の医師,コメディカルなどの初学者から,精神科・老年精神医学の専門医に至るまで,幅広い読者層に対して,老年期うつ病についての一般的な診療の手引きとなることを企図している.この分野についてもエビデンスが蓄積されてきているなかで,日常の診療技法,鑑別診断のポイント,治療アルゴリズムなど,手頃でかつ的確に要点を示した書籍は,日々の診療に苦慮している治療者にとって有用であろうと考えている.老年期うつ病の診療にあたっては,うつ病全般についての普遍的認識とともに,老年期ゆえの特殊性について知っておかなければならない.本書では,このような老年期うつ病の普遍性と特殊性とを配慮し,バランスのとれた診療を目指せる指針となるように心がけた.
 編者が研修医であった20数年前を思い起こしてみると,当時と今とで老年期うつ病の患者さんの病像に大きな違いがあるとは思えない.しかしながら,老年期うつ病に関する診断・評価技法や治療技術は大きな進展を遂げている.たとえば,老年期うつ病患者のなかで一定の割合を占めると考えられる血管性うつ病の概念は,頭部MRIや脳血流SPECTのような画像検査の発展によるところが大きい.また,2009年には,うつ状態の鑑別診断補助として,光トポグラフィー検査(近赤外線スペクトロスコピー〈NIRS〉)が精神科領域でははじめて先進医療技術として認可された.治療的側面で四半世紀前と最も大きく違う点は,おそらく新世代抗うつ薬の導入であろう.選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)とセロトニン-ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)はすでにうつ病の治療アルゴリズムにおいて第一選択であり,有害事象の出現に十分な注意が必要な高齢の患者さんにとって,これらSSRI・SNRIの登場は大きな福音である.その他,気分安定薬や非定型抗精神病薬を含めた薬物増強療法,認知行動療法や対人関係療法といった精神療法,修正型電気けいれん療法や経頭蓋磁気刺激療法といった非薬物的生物療法も比較的最近になって確立されてきた新しい介入技法である.本書では,これらの診断・評価技法,治療技術の要点について,その道のエキスパートにわかりやすく解説してもらった.
 しかしながら,老年期うつ病の診断・評価,治療に関しては,解明された点とともに,未解決の問題,あるいは新たに浮上してきた問題も数多くある.たとえば,診断に関してはうつ病性仮性認知症と認知症の区別があげられる.従来の教科書では,老年期うつ病はうつ状態の改善とともに認知障害も可逆的に消退する仮性痴呆(認知症)であるとされ,Alzheimer病のような本来の進行性認知症とは鑑別すべき対象であった.今日でも典型例では両者の鑑別に迷うことはないが,その一方で,両者を厳密に峻別することがむしろ容易ではないことは,臨床家なら誰しも経験するところである.少なくとも近年明らかになってきた知見として,・老年期うつ病患者の一定の割合がうつ病相から認知症に移行していく,・老年期うつ病が寛解しても残遺する認知機能障害があると認知症発症へと進展しやすい,・うつ病の既往があるとAlzheimer病に進展していくリスクが高まる,といった点が指摘されている.おそらく老年期うつ病のある種のタイプの人はAlzheimer病と共通した疾患形成因子を有していると推測されるが,この点はまだ今後の課題である.老年期うつ病と認知症の関係は,Lewy小体型認知症の疾患概念の確立によっても大きな変貌と遂げている.精神科で目にする治療抵抗性うつ病のかなりのパーセントが実際にはLewy小体型認知症である可能性があるが,この点もまだよくわかっていない.
 治療に関しても,未解決の問題が山積している.SSRI・SNRIが広く用いられるようになり,確かに治療の幅が広がり,有害事象を示す高齢の患者さんは明らかに減った.しかしながら,いまだに三環系抗うつ薬より優れた抗うつ効果を示す薬剤は開発されていない.また,複数の抗うつ薬を使用しても,症状が残存する,いわゆる難治性うつ病の患者さんが少なくないことも判明している.さらに,本書の各項でも触れているアパシーについては,十分な効果を期待できる薬剤は見出されていないのが現状である.薬物療法のみに限定しても,このように多くの重要な問題が今後の課題として残されている.本書では全体を二部構成とし,前半をエキスパートによる総論的なオリエンテーション,後半を各論的な症例報告とした.老年期うつ病の診療にあたって,今日得られている知見やコンセンサス,ガイドラインについては主として前半の総論部分,問題点への理解の試み,新しい取り組みや残された疑問点などについてはおもに後半の各論部分に盛り込むようにした.
 以上,本書は老年期うつ病の臨床に携わる読者にとって,診療の指針を記した“教科書”として用いることができるようになっている.しかし,編者らは本書をそのような教科書的な役割に留まらず,むしろそれを超えたある種のメッセージ性を有する内容としたいと考えた.メッセージの第一は,老年期うつ病の全体像を理解するには,DSMやICDといった,いわゆる操作的診断技法や,エビデンスに基づく知識では不十分であるという点である.もちろんこれらの操作的診断やエビデンスは,初学者にとっての入門の第一歩としても,また専門医が同じ土俵で老年期うつ病を語る“共通言語”としても,必要不可欠なものではある.しかしながら,うつ病の多様な側面を理解するうえで,このような操作的診断やエビデンスに基づく診療のみでは不十分であり,そのことはことに老年期うつ病の臨床的問題に端的に示されることになると考えられる.すなわち,本書では,操作的診断技法やエビデンスに基づく知識を踏まえたうえで,さらに老年期うつ病についての症候論的分類や心因論的理解などを重視した総合的アプローチを試みようと企図した.そのエッセンスは編者らが執筆した「疾患概念総論I 疫学,危険因子,病因論」および「疾患概念総論II 老年期うつ病の臨床的症候学的分類」の項に集約されている.初学者にはやや難解な部分はあるかもしれないが,編者らは老年期うつ病の病因論,症候学的ないし精神病理学理解を深めていくことこそ,すべての議論の出発点であると確信している.
 本書の第二のメッセージは,第一の点とも関連するが,老年期うつ病の臨床像の多様性である.この点を重視し,本書では前述のごとく,一般的な総論,オリエンテーションのパートとともに,個別の症例を呈示する各論のパートを設けた.各論においては,具体的な問題点や特徴を示し,老年期うつ病の多様性が浮き彫りとなるように計画した.残念ながら,老年期うつ病は取り組みやすい,治りやすい疾患ではない.むしろ治療が難渋したり,思わぬ経過を辿ったり,失敗を生じることも少なくない.編者らはそれぞれの症例の示す多様性を踏まえ,その問題に真摯に向き合っていくことが何より大切であると痛感している.それぞれの症例についての考え方や対処法は,類似の症例を経験した読者にとって,必ずや有力な指針となると考える.
 本書の最後のメッセージは,老年期うつ病の問題が社会に及ぼすインパクトである.老年期うつ病は超高齢社会を映す鏡の一つであるともいえる.高齢者の自殺,介護者の関わり方や社会的サポート,後期高齢者の医療経済など,患者数も医療費も増大が予想される老年期うつ病の様々な問題を考えることは,日本の近未来的な精神科医療の方向性を知るうえでも極めて重要であるといえる.本書の複数の著者が述べているように,老年期うつ病と対峙するには,常に生物-心理-社会的(bio-psycho-social)なアプローチの意識が必要である.いずれの立場が欠けても片手落ちとなってしまう.このことは精神科医療に携わるものにとってはむしろ当たり前と映るかもしれない.しかし,多種・多様な精神科疾患のなかでも,老年期うつ病は特にこの視点が重要であり,生物-心理-社会的問題を統合的に解釈していくこと自体が個々の患者さんの治療プロセスであるといえる.

2009年5月
編者代表 昭和大学医学部精神医学教室准教授 三村 將