NASH/NAFLD診療の最新情報を網羅した実践的実用書.第1章「総論―疫学,病態,診断,治療」ではNASH/NAFLDの病態および診療をわかりやすく概説.第2章「各論―臨床で役立つ症例32」では日常遭遇する多様な臨床症状や合併症の典型例を提示.本症への理解の促進と診療における応用力を養うことを主眼としている.現時点で考えられるNASH/NAFLD診療の集大成ともいえる書.治療アルゴリズムは必携.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
巻頭カラー
NASH/NAFLDの治療アルゴリズム2012 /江口有一郎,米田正人,角田圭雄
NASH/NAFLDの病能・治療法マップ /江口有一郎,米田正人,角田圭雄
監修の序 /岡上 武
編集の序 /角田圭雄
監修・編集・執筆者一覧
目 次
第1章 総論――疫学,病態,診断,治療
A NASH/NAFLDの疫学 /小野正文,西原利治
B NASH/NAFLDの病態 /中島 淳,今城健人,米田正人
C NASH/NAFLDの診断
1 診断概論 /米田正人,新倉利啓,中島 淳,前山史朗
2 各種診断法
a 肝生検の限界と課題 /角田圭雄,鈴木康秋,江口有一郎
b 非侵襲的診断法 /角田圭雄,藤井英樹,米田正人
c 画像診断 /米田正人,今城健人,中島 淳
3 診断の進めかたと鑑別診断 /角田圭雄,兵庫秀幸,小野正文
D NASH/NAFLDの治療
1 治療概論I――食事療法,運動療法,行動療法
a 総論――チームNAFLD /江口有一郎,江口尚久,藤本一眞
b 食事療法 /平川(後川)美智子,宮原貴士,桑代卓也,江口有一郎
c 運動療法 /堀江弘子,田代貴也,江口有一郎
d 行動療法 /堀江弘子,岩本英里,古賀さやか,白濱美樹,江口有一郎
2 治療概論II――薬物療法 /兵庫秀幸,茶山一彰
3 治療概論III――外科的治療 /増田 崇,太田正之,北野正剛
第2章 各論――臨床で役立つ症例32
A 症例に学ぶNASH/NAFLDの検査・診断
症例1 健診で脂肪肝を指摘され,NASHと診断された症例
/河島圭吾,永瀬 肇,河島菜々子
症例2 肝臓専門医以外が遭遇した症例 /西村寛子,和泉賢一,蘆田健二,安西慶三
症例3 肥満歴のない症例 /河口康典,江口有一郎
症例4 HCV感染を伴うNASHと診断された症例 /中下俊哉,高橋宏和,水田敏彦
症例5 inactive HBV陽性+NASH合併肝機能異常 /岡田倫明,小野尚文,江口尚久
症例6 膵頭十二指腸切除術(PD)後の膵外分泌酵素低下で著明な脂肪肝をきたし,消化酵素投与で改善した症例 /米田正人,今城健人,中島 淳
症例7 乳癌のホルモン療法中に発症した症例 /角田圭雄,徳川奉樹,小山拡史
症例8 神経性無食欲症(AN)に合併した症例 /坂田道教,藤田善幸
症例9 睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併した症例 /小野正文,増田弘誠,西原利治
B 症例に学ぶNASH/NAFLDの治療
症例10 食事療法の有効例 /大座紀子,有尾啓介,古賀満明
症例11 運動療法の有効例 /川口 巧,前田貴司,志波直人,佐田通夫 129
症例12 ピオグリタゾンの有効例 /櫻井伸也,松本昌美
症例13 メトホルミンと瀉血が有効だった症例 /是永匡紹,是永圭子,日野啓輔,溝上雅史
症例14 エゼチミブの有効例 /米田正人,馬渡弘典,中島 淳
症例15 DPP‐4阻害薬の有効例 /岩崎知之,日暮琢磨
症例16 速効型インスリン分泌促進薬の有効例 /森田恭代,上野隆登
症例17 タモキシフェン誘発性NASHに対するフィブラート系薬剤の有効例 /小野正文,増田弘誠,西原利治
症例18 α‐グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)の有効例 /桑代卓也,小野尚文,江口尚久
症例19 アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の有効例 /横浜吏郎,米田政志
症例20 GLP‐1受容体作動薬の有効例 /髙木聡子,髙木佑介,磯田広史,安西慶三
症例21 HMG‐CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の有効例 /中原隆志,兵庫秀幸,茶山一彰
症例22 成人成長ホルモン分泌不全症合併NASHに成長ホルモン(GH)補充療法が有効だった症例 /髙橋 裕
症例23 除鉄療法(瀉血+鉄制限食)の有効例 /藤田尚己,原なぎさ,岩田加壽子,岩佐元雄,竹井謙之
症例24 ビタミンEの有効例 /川中美和
症例25 外科治療の有効例 /関 洋介,笠間和典,柿崎 暁,橋爪洋明
症例26 肝移植ドナーがNASHの場合 /福島真典,市川辰樹,中尾一彦
症例27 肝移植後のNASH再発例 /市川辰樹,福島真典,中尾一彦
症例28 歯科治療の有効例 /米田正人,加藤真吾,中島 淳
C 症例に学ぶNASH/NAFLDの予後,経過
症例29 非肝疾患クリティカルイベントを発症した症例 /川合弘一,須田剛士,野本 実,青柳 豊
症例30 Plt低下にて紹介され,NASH肝硬変と診断した症例 /角田圭雄,大野智彦,酒井恭子,金政和之
症例31 肝細胞癌(HCC)を合併した症例 /安居幸一郎,光吉博則,伊藤義人,岡上 武
症例32 若年で発症した症例 /結束貴臣,坂口 隆
D NASH/NAFLDの治療アルゴリズム2012 /江口有一郎,米田正人,角田圭雄
編集後記 /中島 淳
和文索引
欧文―数字索引
Column
喫煙とNASH/NAFLD /宇都浩文,濵邊絢香,坪内博仁
運動療法の指標としてのCTを用いた骨格筋脂肪化定量法 /北島陽一郎
簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ) /佐々木 敏
抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性の症例 /堂原彰敏,角田圭雄,中沼安二
ページの先頭へ戻る
序文
監修の序
先進国では非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者が年々増加している.NAFLDは数ある肝疾患のなかでも最も頻度が高く,そのうちの20%前後は予後不良な非アルコール性脂肪肝炎(NASH)となり,さらにその一部は肝硬変や肝癌に進展する.したがって,NASH/NAFLDを正しく診断し,適切な治療を施すことは実地臨床上極めて重要である.
わが国では7~8年前まで肝癌患者が年々増加していたが,その9割近くはC型(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)持続感染によるもので,肝炎ウイルスマーカー陰性のいわゆる非B非C(NBNC)肝癌は全体の10%強であった.しかし現在では,ウイルス肝炎に対する治療が進歩し,C型肝炎の6割以上が抗ウイルス療法で完治しており,肝硬変への進展や肝癌の発症は有意に抑制されている.したがって,今後は治療の進歩により肝炎ウイルス起因の肝硬変・肝癌死亡者は確実に減少する.
一方,15年ほど前からNBNC肝癌は増加し,最近では肝癌の20%前後がNBNC肝癌となっている.NBNC肝癌のなかではアルコール性肝障害起因の肝癌が最も多かったが,この15年間,わが国では国民1人当たりの飲酒量は有意に増加しておらず,NBNC肝癌の増加分の多くにNASH肝癌が関与していると考えられる.
NASH/NAFLDの多くは,肥満,糖尿病,高血圧,脂質異常症などの生活習慣病をベースにしており,生活習慣病患者の増加に比例してNASH/NAFLD患者が増加してきた.このような事実を背景として,10年ほど前からわが国でもNASH/NAFLDが肝臓の臨床の場で注目されるようになり,遅ればせながら全国的な厚労省研究班「非アルコール性脂肪性肝疾患の病態解明と診断法,治療法の開発に関する研究」が2008年4月に設立された.欧米に比べて研究体制の出遅れは否定できないが,筆者を代表者とするこの研究班には本書の編集者の1人である角田圭雄 先生も参加し,糖尿病患者の肝障害の実態解明,単純性脂肪肝とNASHの血液生化学的鑑別法,ゲノムワイド関連解析(GWAS)によるNASH発症・進展の遺伝的素因の解析,NASH肝癌の背景因子の解析などが行なわれ,わが国のNASH/NAFLD研究を急速に進展させた.
この度,横浜市立大学附属病院消化器内科の中島 淳 教授を中心に,市立奈良病院消化器肝臓病センター 角田圭雄 先生,佐賀大学肝疾患医療支援学講座 江口有一郎 先生,横浜市大消化器内科 米田正人 先生により,『症例に学ぶNASH/NAFLDの診断と治療――臨床に役立つ症例32』が上梓された.執筆者の多くは40歳代前半の若手研究者であり,現在のわが国のNASH/NAFLD臨床・研究の牽引者でもある.彼らは数年前に“Japan Study Group of NAFLD”(JSG‐NAFLD)を立ち上げ,NASH/NAFLDの臨床・研究を精力的に行っている.
本書の内容は,NASH/NAFLD臨床・研究の最新のデータを網羅し,さらに日々の臨床で遭遇した貴重なNASH/NAFLD症例を多数取り上げた大変ユニークなものとなっている.最新の情報と専門医が経験した多数の興味ある症例が取り上げられていることから,肝臓専門医のみならず,糖尿病,循環器,腎疾患診療に従事する先生方,さらには一般臨床に携わるすべての先生方にぜひ読んでいただきたい書である.
わが国のNASH/NAFLDの臨床・研究の進歩のさらなる発展を祈念し,本書の監修の序とさせていただく.
2012年3月
大阪府済生会吹田病院 院長
岡上 武
編集の序
MayoクリニックのLudwigがNASHの概念を提唱してから30年が経過した.
わが国におけるNASH/NAFLD患者増加の背景には,欧米化した食生活や車社会の発達による運動不足などがある.近年のNASH研究の進歩は目覚ましく,その病態から遺伝子多型に至るまで,多くの研究成果が集積されてきたが,その反面,診断基準の曖昧さや自然経過の解明,治療法の確立など,残された課題も多い.
2009年,Colmanらは,アカゲザルを用いた20年にわたるカロリー制限(caloric restriction;CR)が,糖尿病,癌,心疾患,脳萎縮などを減少させ,長寿をもたらすことを『Science』で報告した.人類の歴史は飢餓との戦いの歴史でもある.飢餓に耐えるべく生体調節を行ってきた人類は,今その生体防御システムに逆に苦しめられることとなった.エコノミストRaj Patelの『肥満と飢餓――世界フード・ビジネスの不幸のシステム』によると,地球上の人口が70億人に達した現在,約10億人が肥満で苦しみ,肥満患者と同数の約10億人が飢餓に苦しんでいるという.その根本的な課題として,彼は“食糧供給産業”(フードシステム)をあげている.われわれ医療者はNASH/NAFLD患者を診た際に,CRのできない患者自身に責を求めることも多いが,実際には利益優先主義のフードシステムによって,人々は食糧選択の自由を奪われており,実は“肥らされている”ともいえる.フードシステムは,裕福な先進国における食糧売上を伸ばすことに精力を傾ける一方で,発展途上国の食糧不足を招き,飢餓を作り出している.すなわち,肥満問題の解決には飢餓の解消が必要であり,飢餓の解消には肥満問題の解消が必須なのである.一見,真逆にも思える肥満と飢餓の問題が,実は表裏一体の問題となっている.したがって,NASH/NAFLDの根本的な解決には,世界の食糧問題や食糧政策の観点から考慮していく必要性が示唆される.
肝臓専門医にとって,NASH/NAFLDから進展する肝硬変,肝癌が今後の最重要課題となることはすでに認識されつつある.2009年の第45回日本肝臓学会総会(会長:近畿大学 工藤正俊 教授)では,国内初のNASHのコンセンサスミーティングが開催された.また,2011年の日本消化器病学会ではNASH/NAFLD診療ガイドライン作成委員会(委員長:順天堂大学 渡辺純夫 教授)が組織され,2012年中にも国内初のガイドラインが発表される見込みである.
本書は,上記ガイドラインに先立って,大阪府済生会吹田病院 岡上 武 院長の監修のもと,横浜市立大学消化器内科の中島 淳 教授を中心に企画されたNASH/NAFLD診療に必要な最新情報を網羅した実用書である.「第1章 総論――疫学,病態,診断,治療」では国内外のNASH臨床研究の現状をまとめ,「第2章 各論――臨床で役立つ症例32」では代表的な32症例を提示し,経験豊富なエキスパートの先生方に解説していただいた.NASH/NAFLD診療に携わる肝臓専門医から一般臨床医まで,幅広い読者の臨床現場における実用的な書になったと確信している.本書の活用により,NASHによる肝疾患関連死の減少に繋がることを期待したい.
最後に,極めて多忙な診療や研究の時間を割いて原稿をお寄せくださった先生方,ならびに出版に際して御尽力いただいた診断と治療社編集部の相浦健一氏に,この場を借りて厚く御礼申し上げる.
2012年3月
編集者を代表して
市立奈良病院消化器肝臓病センター消化器科 部長
角田圭雄
編集後記
これまで,どうしてこんなNASHの本がなかったのだろうか!
これが本書を編集し終えたときの率直な感想である.まさに類書が見当たらないのである.本書は,大阪府済生会吹田病院の岡上 武先生監修のもと,まさに実地臨床で多くのNASH/NAFLD患者を診てきた若手編集者が知恵を出し合い,絞り合い,実際の患者を前にしたときに,どのような内容が役立つか,治療はどうしたらすっきりとマスターできるかなど,何回も何十回も討議と意見をすり合わせて制作したものである.
「第1章 総論―疫学,病態,診断,治療」は,入門者にとっても,ある程度のエキスパートにとっても十分な読み応えのある内容となっている.もちろん類書にない内容である.本書では,NAFLD診療において重要と理解しつつも,実際にどうしたらよいのかがわからない医師が多いと思われる食事療法や運動療法について特に重点を置いている.病院の栄養士もどうしたらよいのかがわからない栄養指導について,実地臨床ですぐに使えるものになっている.
「第2章 各論―臨床で役立つ症例32」では,“NASHの治療薬がない”現状において,臨床現場での経験が豊富な先生方に症例を御提示いただいた.これらの症例を読み解くことにより,ほぼすべてのNAFLDの診断と治療がマスターできるものと確信する.
本書が入門者から肝臓専門医まで広く診療において役立つことを期待している.
最後に,御忙しいなか原稿を御執筆くださった先生方,ならびに本書の編集に際して並々ならぬ御尽力をいただいた診断と治療社の相浦健一氏にこの場を借りて御礼申し上げたい.
2012年3月
編集者を代表して
横浜市立大学附属病院消化器内科教授
中島 淳