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正しい被曝医療 Q&A 50診断と治療社 | 書籍詳細:正しい被曝医療 Q&A 50

国際医療福祉大学クリニック院長

鈴木 元(すずき げん) 編著

放射線医療総合研究所

神田 玲子(かんだ れいこ) 著

初版 B5判 並製 132頁 2012年10月25日発行

ISBN9784787819765

定価:2,640円(本体価格2,400円+税)
  

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東日本大震災に伴う福島第一原発事故以降,医学的根拠に疑問が残る情報も一部に流布されていると聞く.こうしたなか,本書では被曝医療に関する「正しい」情報・知識を医療従事者(医師・看護師・保健師等)へ提供する.生物学・疫学のエビデンスに基づく総論と,医療スタッフが一般の方から受ける質問を想定したQ&A形式・50問の各論で構成.放射線の人体影響から日常生活時・除染作業時の注意点まで,幅広く解説する.

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目次

目次
はじめに…鈴木 元
総 論 放射線生物学・放射線疫学概論
1.疫学調査と因果関係の証明
2.疫学調査デザインによる科学的証拠力の違い
3.原爆被爆者の疫学調査
4.原爆被爆生存者「寿命調査」にみる放射線癌リスクの大きさ
5.放射線による発癌のメカニズム
6.瞬間的な原爆被爆リスクから低線量,低線量率被曝リスクへの外挿
7.原爆被爆生存者で観察された放射線癌リスクの大きさは,他の疫学集団の
  観察結果と整合性があるか?
8.放射線非癌影響――心臓脳血管,免疫,白内障
9.原爆被爆者における胎児影響,二世影響
10.チェルノブイリ事故後に奇形が増加?
11.チェルノブイリ事故後の心身症の増加
12.まとめ
各 論 Q&A50
第1章 放射線の基礎
Q1 放射線と放射能は何が違いますか?
Q2 ベクレルとシーベルトの違いは? ①ベクレルとグレイの関係
Q3 ベクレルとシーベルトの違いは? ②ベクレルとシーベルトの関係
Q4 内部被曝と外部被曝の違いは何ですか?
Q5 内部被曝と外部被曝とでは,どちらが癌になりやすいですか?
Q6 測定法,測定器について教えてください
Q7 自然放射線からの被曝はどの程度ですか?
Q8 年間被曝限度って何ですか?
Q9 私の町はホットスポットっていわれましたが,何に気をつければよいでしょうか?
第2章 放射線人体影響
Q10 福島原発事故で放出された放射性物質の量を教えてください
Q11 被曝したとわかる症状はありますか?
Q12 放射線癌リスクはどの程度の大きさですか?
Q13 被曝で循環器疾患などの癌以外の疾患も増えると聞きましたが,本当ですか?
Q14 チェルノブイリ原発事故後の健康影響の実態を教えてください
Q15 核実験による放射性降下物と福島原発事故の降下物の違いは何ですか?
Q16 国際的な放射線防護基準の仕組みを教えてください
Q17 低線量のほうが危険だといわれているようですが,本当ですか?
Q18 「ただちに健康に影響はない」とは,「長期的には危険」ということでしょうか?
第3章 小児の放射線影響
Q19 福島原発事故後の小児甲状腺癌の増加が心配です
Q20 チェルノブイリ原発事故後,奇形が増加したと聞きましたが本当ですか?
Q21 原発周辺で白血病が増えていると聞きましたが本当ですか?
Q22 子孫への影響はあるのですか?
Q23 妊婦の被曝影響を避けるため気をつけるべきこととは?
Q24 子どもが将来,癌にならないか心配です
Q25 近隣で高い放射線量が出たら,子どもを外で遊ばせないほうがいいですか?
Q26 子どもの被曝線量を知りたいので,尿検査について教えてください
Q27 放射線の影響で妊娠しにくくなりますか?
第4章 日常生活
Q28 どうすれば被曝を避けることができますか? ①
Q29 どうすれば被曝を避けることができますか? ②
Q30 被曝の影響を検査する健康診断ってありますか?
Q31 福島で被曝した私は,航空機に乗っても大丈夫でしょうか?
Q32 空間線量率が下がってきましたが,洗濯物を外干ししてもよいでしょうか?
Q33 雨に濡れても大丈夫でしょうか?
Q34 各地の自治体で瓦礫処理をしたら,放射性物質が拡散するのではないでしょうか?
第5章 飲料水・食品,農業,漁業
Q35 水道の水は安全でしょうか?
Q36 大量に海に流れ込んだ放射性物質はどうなりますか?
Q37 湖や川の魚は大丈夫でしょうか?
Q38 赤ちゃんに母乳をあげても大丈夫でしょうか?
Q39 子どもの食事は大人より気をつける必要がありますか?
Q40 農産物によって,放射能汚染されやすさが違いますか?
Q41 魚の種類によって,放射能汚染されやすいものがありますか?
Q42 除染した農地なら作付けしても大丈夫でしょうか?
Q43 食品の放射性物質量を減少させる調理法はありますか?
Q44 取り込んでしまった放射性物質を取り除くことはできますか?
Q45 日本の飲料水・食品の規制レベルは世界的にみて緩いですか?
第6章 除 染
Q46 除染で放射性物質は落とせるのですか?
Q47 昨年行った除染はいつまで有効ですか?
Q48 除染するときに被曝しませんか?
Q49 水を使って屋根の除染をしましたが,その水で汚染が広がりませんか?
Q50 除染したあと気をつけることはありますか?
文 献
索 引
著者略歴

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序文

はじめに

 原子力発電所の過酷事故は,あってはならない事故である.1,000年に一度の巨大地震と巨大津波とはいえ,過去に同じような規模の地震・津波災害が発生していたことが近年発表されており,政府も東京電力もその情報に接していたという.情報がありながらそれを有効な過酷事故防止策に結びつけてこられなかったことに強い怒りを感ずるとともに,被曝医療分野で長年活動してきた一個人として,万が一過酷事故が起きてしまった場合の被曝医療体制が不十分であったことを福島県民の皆様にお詫びしたい.
 福島原発事故の検証作業は,今後も様々な分野で続けていく必要がある.一方で,私たち国民は,福島第一原発事故により放出された放射性物質と今後長年にわたって付き合っていかなければならない.その際に重要なことは,放射線被曝のリスクを正しく理解し,放射性物質汚染を過剰に恐れることなく,適切に除染と放射線防護を実行していくことである.あるかないかわからないほど小さな放射線被曝リスクを恐れ過ぎるあまり,バランスの悪い食生活や生活習慣に陥ってしまったり,心身の健康を損ねたりするのでは,被曝のリスク以上に他の健康リスクを増やすことになりかねない.しかし,事故後,様々なメディアを通じて垂れ流された情報のなかには,微量の放射性物質汚染であっても危険であるといった極端な主張も見受けられ,流通業界や生産者団体のなかには独自に国の基準よりもさらに厳しい食品汚染レベルを設定する動きもみられる.また,極微量の放射性セシウム汚染を理由に瓦礫の広域処理に関して国論が割れる状況となっている.国民にとって何を基準に放射線のリスクを判断すればよいのか迷ってしまう状況が続いている.

 本書は,被曝医療に興味をもつ医療関係者を対象として書かれている.前半は,少々専門的になるが,原子放射線の影響に関する国連委員会(United Nations Scientific Committee on theEffects of Atomic Radiation:UNSCEAR)や国際放射線防護委員会(International Commission onRadiological Protection:ICRP)などの国際機関が依拠する放射線生物学の知見や放射線疫学研究の知見を概説し,放射線リスクの大きさを説明する.後半は,Q & A形式で,様々な疑問に対してわかりやすく解説をしていくこととする.

 医療関係者は,日常診療のなかで患者さんから放射線健康影響に関する質問を受ける機会が増えると思われる.その際の医療関係者の対応は極めて重要である.かつてチェルノブイリ事故後,旧ソ連邦や欧州諸国において,胎児被曝のレベルが奇形リスクを増加させるしきい線量の1/100以下にもかかわらず,堕胎が増加した.また,汚染地区では,チェルノブイリ原発事故後のストレスが住民をして「病気行動」(illness behavior)に駆り立て,診療した医師が「放射線の影響かもしれない」と曖昧な返事をしたために,心身症が増加したといわれている*.また,アルコール依存症や自殺も増加した.福島原発事故後の低線量放射線リスクに関して科学的エビデンスに基づかない興味本位な記事や情報が氾濫する状況では,とりわけ医療関係者の責任が重い.医療関係者が放射線の健康影響を正しく住民に伝えられなかったばかりに,住民の間に不安を広げ,ひいては堕胎や心身症の増加をもたらすような過ちを日本で繰り返してはいけないと願うものである.

儘書信、則不如無書  孟子
ことごとく書を信ずるならば、
それすなわち、書無きにしからず

すべての本の内容を信ずるのであれば,それは本を読まなかったことと変わりはない.批判的に文献を読むことの重要性を述べている.

2012年9月
国際医療福祉大学クリニック院長
鈴木 元

*オランダユトレヒト大学のHavenaar 教授は,その著書のなかで「病気行動」(illness behavior)の説明として「(住民は)身体的愁訴に症状というラベルを貼り,症状に疾患というラベルを貼り,そして医療機関の受診を増やしていった」と述べている.