HOME > 書籍詳細

書籍詳細

発達障害医学の進歩 27診断と治療社 | 書籍詳細:発達障害医学の進歩 27
震災と子どものメンタルヘルス

福島大学大学院人間発達文化研究科学校臨床心理専攻

内山 登紀夫 (うちやま ときお) 編集

日本発達障害連盟 (にほんはったつしょうがいれんめい) 企画

日本発達障害学会(にほんはったつしょうがいがっかい) 企画

初版 B5判 並製 80頁 2015年04月15日発行

ISBN9784787821782

定価:本体3,500円+税
  

ご覧になるためにはAdobe Flash Player® が必要です  


本書は「震災と子どものメンタルヘルス」というテーマで企画された.東日本大震災による地震被害,津波被害,原子力災害とその風評被害は,地域住民のメンタルヘルスを悪化させ,社会的弱者である子どもや発達障害者へ大きな影響を与え続けている.本書では震災による子どもや発達障害者への心理学的影響と,様々な支援活動・治療の取り組みについて,東北地方で長期間にわたって支援を続けてきた専門家が,実体験と調査・分析を基に多角的に論じている.

関連書籍

ページの先頭へ戻る

目次

■福島の乳幼児のメンタルヘルス 内山登紀夫・川島慶子・鈴木さとみ
 福島の特殊性
 メルトダウンの心理的影響
 A市の乳幼児健診の結果からみる子育ての状況と乳幼児の変化
 1歳半健診から
 3歳半健診から
 健診のまとめ
 発達障害の子どもの支援から
 成人のメンタルヘルスニーズの変化
 おわりに

■震災と非行―発達障害を中心に 桝屋二郎
 はじめに
 東日本大震災の被災県における少年非行の現況と展望
 発達障害者と犯罪・非行の疫学
 発達障害は犯罪や非行のリスクファクターなのか?
 二次障害としての非行や犯罪
 攻撃性や非行・犯罪化の危険因子と保護因子
 被災地の発達障害を抱える子どもたちを取り巻く現状
 おわりに

■震災と虐待 堀江まゆみ
 はじめに
 全国および福島県児童相談所における児童虐待相談の状況
 震災時の発達障害と子ども虐待
 震災後の虐待と発達障害との関連―福島県県南地区と浜通りからの避難事例
 発達障害の子どもと家族の問題が震災後に虐待事例化するということ
 震災時の発達障害の子どもの行動と親のストレス反応―3つの虐待リスク
 おわりに―虐待リスクを抱えた発達障害の子どもと家族を支援するために

■外部からの支援―発達障害支援の立場から 安達 潤
 はじめに
 震災が障害のある人たちとその家族にもたらすもの
 外部からの支援に求められることとは
 JDDnet被災地専門家派遣チーム第2陣の外部支援を振り返る
 おわりに

■福島における原子力災害が引き起こした心理学的問題 筒井雄二
 はじめに
 原子力災害の被災地で必要なこころのケアとは何か?
 低線量被ばく環境下の福島で暮らす子どもと母親の心理学的問題
 原子力災害が心理学的影響を引き起こすメカニズム
 原子力災害が子どもの心理学的発達を阻害する
 まとめにかえて

■子どものメンタルヘルス支援事業推進室の活動から 野村昂樹
 はじめに
 設立の経緯
 活動内容
 心の教育プログラム
 巡回相談
 ペアレント・プログラム
 ペアレント・プログラムの効果
 今後の課題

■トラウマの治療 八木淳子
 子どもの発達とトラウマ
 東日本大震災と子どものトラウマ
 災害後の子どもの状態の評価と介入
 災害によるトラウマ体験をもつ子どもの治療
 おわりに

■震災後の発達障害への行政対応 熊坂和美
 はじめに
 震災発生直後の状況
 被災地での巡回支援と地域の状況
 地域と外部からの支援のマッチング
 支援活動の実際
 震災後の支援から見えたこと
 おわりに

ページの先頭へ戻る

序文

 東日本大震災から4年以上が経過しました.震災直後と比較して震災の影響について語られることがずいぶん減ったように感じています.4年を経て震災直後の混乱期は脱したといえるでしょうが,東北地方では震災の影響がまだまだ随所に残っています.例えば,地元の福島県では県外への避難者はまだ約46,000人,県内避難者は約78,000人です(平成26年9月).平成26年4月時点で約26,000人の子ども(18歳未満)が避難を強いられています.つまり本来住み慣れた場所ではないところでの不自然な生活が長期間続いている子どもが26,000人もいるのです.その中には当然発達障害の子どもも大勢います.避難していない子どもでも周囲の環境が大きく変わったままで,実際には住み慣れた環境とはいえない状況で暮らしている子どもたちはもっと沢山います.もちろん発達障害の成人も同様の苦難に直面しています.

 今まで多くの支援がなされてきましたが,実際に発達障害の子どもや成人の支援に関わると,多くの問題が未解決のままになっていることを痛感します.本書は2015年2月に福島で行われたセミナーの内容を基礎にし,各執筆者が発災直後から4年間にわたって行ってきた支援や調査の中間報告です.内容は多岐にわたっていますが,すべて東北地方で長期間にわたって支援を続けてこられた専門家の方たちで,「現場」で何が起きたか,今何が起きているか,これから何が必要かを肌で感じています.

 震災・津波・放射能・風評被害の組み合わせは人類未曾有の事態で,今後,子どもと成人のメンタルヘルスのニーズがどのように変化していくのかを予想するのは難しく,誰にも明確な答えは出せないと思います.

 震災後4年以上を経ても,放射能の問題は解決せず現在も福島県内では除染作業が行われています.2015年の2月には東京電力福島第一原子力発電所2号機で,原子炉建屋の屋上にたまった比較的高い濃度の汚染水が排水路を通って海に流れ出していたことが明らかになりました.東京電力はこの事実を2014年4月から把握していましたが,十分な対策を取らず,公表もしていませんでした.このような「予想外のこと」がいつまで続くのか住民は不安にかられます.そして,このようなことが明らかになるたびに住民の不信感は高まり大人のメンタルヘルスは悪化します.それが当然,子どもにも影響を与えます.特に発達障害の子どものような脆弱性のある子どもは影響を受けやすいでしょう.

 これまで多くの調査が東北地方を中心に行われましたが,多くは今なおメンタル面の支援が必要な人々が大勢いることを示しています.大震災・大津波に続く原発事故という人類未曾有の特殊な状況で,今可能な支援を行いつつ,どのような支援がいつまで必要なのかの検討が必要です.本書がそのための参考になることを願っています.

     2015年3月

 福島大学大学院人間発達文化研究科学校臨床心理専攻 内山登紀夫