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書籍詳細

筋学を築き上げた人々診断と治療社 | 書籍詳細:筋学を築き上げた人々

東京女子医科大学 名誉教授

岩田 誠(いわた まこと) 総監訳

国立精神・神経医療研究センター神経研究所 名誉所長

武田 伸一(たけだ しんいち) 監訳

東京女子医科大学医学部小児科

石垣 景子(いしがき けいこ) 編集

東京都立神経病院脳神経内科

漆葉 章典(うるは あきのり) 編集

箕面市立病院神経内科

穀内 洋介(こくない ようすけ) 編集

東京女子医科大学医学部小児科

七字 美延(しちじ みのぶ) 編集

東京女子医科大学医学部小児科

竹下 暁子(たけした あきこ) 編集

国立病院機構熊本再春医療センター脳神経内科

俵 望(たわら のぞむ) 編集

初版 B5判 並製 200頁 2021年12月31日発行

ISBN9784787825353

定価:5,280円(本体価格4,800円+税)
  

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フランス筋学の先駆者ミシェル・ファルドーによる名著L'Homme de Chairの翻訳版.本書では,筋学の歴史をたどり,筋肉に潜む数々の謎に挑戦した人々と,それらの謎がどのように解明されてきたのかについて,著者が学んだすべてが述べられている.今回,日仏交流で著者と親交の深い監訳者らの努力により,本翻訳版の発刊が実現した.筋疾患を診療している臨床医,医学生にぜひ読んでいただきたい一冊.

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目次

翻訳版の刊行に寄せて
翻訳者一覧
監訳者序文
原著者序文
序章
第1章 「身」から筋肉へ
 事の始め
 レオナルドとアンドレアス
 かつての解剖学
 死んだ解剖学と生きた解剖学
 放射線画像技術の登場
第2章 筋肉から分子へ
 チーズから線維へ
 横紋の誕生
 横紋の逆転
 化学の登場とミオシンの誕生
 ロシアとハンガリーの戦時中の紆余曲折
 筋収縮における第三のタンパク質の出現
 どこで,ついにすべてが単純になったのか
 ミオシン,アクチン,トロポミオシンを,それぞれどこに配置したらよいのか
 さらなる構成要素
第3章 「身」は動く
 静寂
 神経インパルスの登場
 神経と筋肉の間の化学的媒介へ
 ユニヴァーシティ・カレッジを迂回して
 いくつかの点での紛糾
 脱分極電位の波の誕生
 受容体の誕生
 興奮と収縮のカプリング
 カルシウムの登場
 ここでちょっと筋原線維の構造に戻ろう
第4章 「身」は呼吸する
 初期の論証
 生物化学の台頭
 フォスファゲンそして待望のATPの登場
 チトクロム,そしてミトコンドリアの登場
 今日・・・
第5章 これも筋肉,あれも筋肉
 牡蠣とハエ
 事象を単純化する見方に対抗して
 赤筋と白筋
 ヒトの筋病理学へちょっと寄り道
 多様性への賛辞
 新たな複雑さへ
第6章 収縮から動作へ
 私は歩く・・・
 序列について少し述べよう
 筋肉はまた他の事態を引き起こす・・・
 非常に速い反射運動についての,いくつかの見解
 ドアを開けて
 意識にのぼる「筋肉」の感覚?
 優美さと過剰
第7章 「身」が動かなくなるとき
 「身」は過ちを犯す
 中枢神経支配が侵されるとき
 運動ニューロンが消えたとき
 脊髄と末梢神経もとても脆い
 神経と筋肉の間の伝達が滞る
 筋線維の働きが悪くなるとき
 筋線維そのものがもはや従わないとき
 こむら返り,いつも足がつる
 疲労と心肥大
第8章 「身」がもう働かないとき
 1843年~:サルペトリエール病院
 進行性筋萎縮症
 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの誕生
 進行性筋萎縮症への回帰とジャン=マルタン・シャルコー
 進行性筋萎縮症への二度目の回帰――ランドゥジーとデジェリーヌ
 ハイデルベルグのほうへ
 筋病理学の黄金時代と暗黒時代
第9章 説明のとき
 1950年代半ば:夜明け
 伏兵と困難
 1987年:突破口
 チュニジアとアイオワシティの回り道
 ピトン・ドゥ・ラ・フルネーズ火山の坂道で
 さらなる回り道,今度はアーミッシュへ
 少しずつ
 解明された,または解明を待つその他の謎
 動物も同様に
第10章 「身」ができるまで
 概観その一:類似点と相違点
 ペトリ皿の中に見えるもの
 筋肉が作られる場所
 胚では,少しの精密さと・・・
 そして少しの計画性
 未だ完全に解明できていない組織化について
 では心臓は?
 筋線維の増殖と分化
 筋節の組織化
 筋原線維の成り立ち:多様性への新たな賛辞
 この多様性の由来とは?
第11章 「身」がよみがえるとき
 破壊から自然修復へ
 筋の再生
 責任者を発見:筋衛星細胞
 細胞培養への回帰:最初の移植
 筋芽細胞の導入:最初の実験的応用
 筋芽細胞の導入:最初のヒトへの応用
 遺伝子治療への望み
 私たちは,まだ少しイモリ的なのだろうか?
 出発点に戻る?
 反乱の成果
エピローグ 「身」から心へ
Notes(注釈)
参考文献
人名索引
用語索引

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序文

監訳者序文
 2006年5月,私が東京で開催した第47回日本神経学会総会に,旧友,かつサルペトリエール病院の大先輩であるミシェル・ファルドー先生をお招きして,“Historical review on the Researches on Muscular Dystrophies”という題での教育講演をしていただいた.そのとき,来日されたファルドー先生からいただいたのが,本書L'Homme de chairだった.その中表紙には,
「親愛なる友よ,これは,僕が,筋学の歴史をたどり,われわれのこの貧弱な筋肉,この貧弱な『身』に潜む数々の謎に挑戦した人々について語ろうと試みた本だ.筋学の進歩と,いくつかの逸話に興味をもっていただければと思っている.
親愛の情を込めて   ミシェル・ファルドー」
という先生からの献辞が,サインとともに書かれていた.
 これを読んだ私は,1972~73年,私がサルペトリエール病院にいた頃,ファルドー先生が,筋学の研究に打ち込んでおられた姿を思い浮かべながら,先生に「不破留同」という名前を差し上げたことを思い出した.この漢字名前で,その頃は,神経科学の中では未だ開拓途上にあった筋肉とその病気の研究に打ち込んでおられるファルドー先生に,「負けることなくこの道を突き進んでください」という私からのエールをお送りしたつもりだった.
 この本の中には,私の耳に親しい人々の名前が散りばめられている.歴史で出会った人々の名前とともに,個人的にも懐かしい,あるいは親しい方々の名前,Tomé先生,Ben Hamida先生,Mademoiselle Besse,江橋節郎先生,福山幸夫先生,小澤鍈二郎先生,そして戸田達史先生などの名前が出てくるたび,私は,この本を日本語に翻訳して,筋学に興味をもつ日本人の研究者の方々や,筋疾患を診療している臨床医の方々に,広く読んでもらいたいと思うようになっていった.しかし,独力で本書を訳出する勇気が出ないでいたとき,サルペトリエールでファルドー先生とともに研究しておられた畏友武田伸一先生にこの本の翻訳のことを話したところ,彼は,早速サルペトリエールの筋学研究所に留学していた方々の協力の下,翻訳作業を始めてくれたのだが,石垣景子先生が,その翻訳作業のまとめ役になってくれるということを知り,時間の輪がメビウス・リングのように戻ってきたと感じた.今から四半世紀以上前に私が東京女子医大に赴任した頃,五年生の学生五名と医学部教授一名とが,食事をしながら懇談する学生懇談会というのがあり,私のグループの学生の一人としてその会に参加していたのが,当時医学生だった石垣景子さんだったのである.卒後小児筋病学の研究者となられ,ファルドー先生の下に留学されていたこともある彼女が,この翻訳作業の指揮を執ってくれることになったことについて,私は巡りくる時間を生み出してくれた女神フォルトゥナに感謝した.
 多くの方々に,筋学の面白さを知っていただきたいと願いつつ・・・.
 
 2021年11月
 
『筋学を築き上げた人々』 総監訳
 岩田 誠




原著者序文
 筋学が目覚ましい進歩を遂げた今,その始まりから現在に至るまでに,私が経験した驚くべき発展の歴史を知ってもらいたい――それがこの本を書き始めた理由である.筋学の歴史の大部分は,生物学や医学の歴史と密接に関連している.これは筋収縮のメカニズムが古くから最も謎に包まれた現象の一つだったからである.私の科学者としての人生は細胞生物学の現代化とともにあり,ここ数十年の分子生物学の驚くべき発展を目の当たりにし,クロード・ベルナールの洞察がいかに正しかったのかを知り,そして筋病理の異常所見の観察が正常な筋肉の発生や機能を知るためにどれほど重要かを確かめられたという幸運に恵まれたものであった.
 私にとってこの本を書くことは容易ではなかった.これを書き上げるためにあらゆる分野の知識を総動員しなくてはならなかったが,そこで私自身の至らなさや限界を知らされ,また現代科学の進歩の速さについていけていないおそれもあった.私はこの本を百科事典のようなものではなく,私のこれまでの人生の軌跡を彩ってきた瞬間や,書物や人との出会い,目にしてきたものに重きを置いた,エッセイのような雰囲気にすることを選んだ.
 ルネ・クートー先生の下で始まった私の科学者としての歩み――彼の教養の深さ,特に文学や,科学の進歩とそれに関わった人々に関する鋭い分析には深い感銘を受けた.そしてレイモン・ガルサン先生の下で始まった私の医師としての歩み――彼からは,すべての臨床的あるいは病理学的な観察は科学的な厳格さをもっていなくてはならないことを学んだ.どちらの先生も,もうこの世にはいらっしゃらない.もし生きておられたら,このエッセイを先生方にお見せしていただろうか? もしお見せしたら,二人ともこの本の執筆によって私の研究と診療の時間が削られてしまったことを指摘されたかもしれない.
 この本は,多くの人たちの助けを得て完成した.ジャン=ピエール・シャンジューは出版社のOdile Jacobに私のことをそっと紹介しておいてくれていたようだ.Yves Laporteやフランソア・グロとは親しくさせてもらい,彼らしか入手できない貴重な資料を提供してくれた.King,Mike,Michaelは海を越えた所にいる本物の「兄弟」であり,Véronique,Martine,Huguette,Andrée,Michelle,Jaqueline,Geneviève,Anne-Françoise,Philippe,Bernardは私にとっては共同研究者や技術者という間柄を越えた存在である.サルペトリエール病院のリスレル(Risler)旧棟からFer à Moulin研究所,その後の筋学研究所まで同僚以上の存在で,真の友人であるFernando,Ketty,Pascale,Norma,Hala,Paule,Anne,Jeanine,Daniel,Bruno,Maurice,Jean,そして忘れてはならないのがRobert.いくつかの章を書くことに手を貸してくれたAnne,Élisabeth,Jean-Yves.そして私の周りに本物の「家族」としていてくれた他のすべての人たちのおかげで,この本は完成した.
 この本は,筋肉を侵す病気を乗り越えるためにともにあり,治療し,導くという私を長年,信頼してついてきてくれたDanielle,Christine,Sabine,Sébastienや,すべての人たちのおかげで完成した.不治の病と言われる病を前に毅然と戦ってみせたベルナール・バラトーをはじめとするすべての人たち.ガルサン先生がしばしばおっしゃっていたように,彼らは私の真の「師」であった.彼らとの友情,彼らの勇気,彼らからの信頼がなければ,この本は何の意味ももたなかっただろう.
 最後に,この本はこの二人のサポートなくしては日の目を見なかったであろう.一人は,私と同じ苗字とほぼ同じ名前をもつ女性(故Michelle Fardeau夫人).そしてもう一人は,私を心理的,文学的な面でサポートし,重要な役割を果たしてくれたGérard Joelandである.

L'Homme de chair著
ミシェル・ファルドー