HOME > 書籍詳細

書籍詳細

これ一冊で大人の発達障害がわかる本診断と治療社 | 書籍詳細:これ一冊で大人の発達障害がわかる本

昭和大学医学部精神医学講座 主任教授

岩波 明(いわなみ あきら) 編集

初版 並製 B5判 184頁 2023年04月05日発行

ISBN9784787825582

正誤表はPDFファイルです.PDFファイルをご覧になるためにはAdobe Reader® が必要です  
定価:4,620円(本体価格4,200円+税)
  

ご覧になるためにはAdobe Flash Player® が必要です  


電子版はこちらからご購入いただけます.
※価格は書店により異なる場合がございます.


(外部サイトに移動します)

(外部サイトに移動します)

近年増加している「大人の発達障害」.
社会に出てから対人関係等の困りごとに直面し,不適応を生じて初めて病院を訪れる当事者の方も少なくありません.発達障害の方がその人らしい生活を送るためには,どのような治療や支援が必要なのでしょうか.
本書はASDおよびADHDを中心に,概念,症状,診断,治療,そして支援までを丁寧に解説しています.
「大人の発達障害」の診療・教育・就労支援などに携わるすべての方に贈る,現場で役立てていただける一冊です.

関連書籍

ページの先頭へ戻る

目次

編集・執筆者一覧
はじめに…岩波 明

第1章 大人の発達障害とは何か
A ASDの概念と臨床症状…岩波 明
 ASDの概念
 ASDの症状
 ASDの分類
B ADHDの概念と臨床症状…岩波 明
 ADHDの概念
 ADHDの症状
 ADHD症状の評価における注意点
 ADHDの分類
C 発達障害に関する誤解…花輪洋一,岩波 明
 養育の問題
 発症の時期
 疾患か,特性か
D ASDとADHD…林 若穂,岩波 明
 ASDとADHDの併存
 症状の共通性
E 小児から成人への変遷…林 若穂,岩波 明
 ASD
 ADHD
 ASD,ADHDと知的障害
F 発達障害と社会的問題…花輪洋一,岩波 明
 発達障害に対する誤解
 いじめと不登校
 就労
 家庭生活

第2章 診断と検査
A 診断基準…柏 淳,岩波 明
 DSM-5
 ICD-11
 診断の実際
B 症状評価スケールと構造化面接…柏 淳,岩波 明
 ASD
 ADHD
 その他
 おわりに
C 臨床検査…柏 淳,岩波 明
 心理検査
 脳画像検査
 生理検査
 その他の検査
D 鑑別診断…柏 淳,岩波 明
 ASDに関する誤診
 ADHDに関する誤診
 精神疾患との鑑別
E 併存障害…柏 淳,岩波 明
 成人期の発達障害の診療
 見逃される発達障害
 動的平衡と静的平衡
 ASDにおける併存障害
 ADHDにおける併存障害
 発達障害の可能性を考える
 Case 長年うつ病として通院していたなかでADHDと判明した一例
F 診断における留意点…柏 淳,岩波 明
 発達障害は苦手だから,と考えない
 神経多様性(Neurodiversity)の視点
 診断を急がない
 発達障害のメカニズム
 Note 当事者の言葉から

第3章 薬物療法
A ASD…松岡孝裕,横山富士男,岩波 明
 中核症状に対する薬物療法
 周辺症状に対する薬物療法
 Case 外資系企業への転職で見違えるように……
B ADHD…松岡孝裕,岩波 明,横山富士男
 中核症状に対する薬物療法
 周辺症状に対する薬物療法
 Case どうしてもパンを焦がしてしまって……

第4章 心理・社会的治療法
A はじめに…水野 健,横井英樹,岩波 明
 心理・社会的治療の必要性
 支援における考え方
B ASD…水野 健,横井英樹,岩波 明
 認知行動療法
 構造化と環境調整
 カウンセリング・個別面談
 デイケアとショートケア
 昭和大学附属烏山病院における調査
 Case 継続的なサポートにより就労に至った事例
C ADHD…水野 健,横井英樹,岩波 明
 Safrenのモデル
 認知行動療法
 環境調整
 デイケアとショートケア
 ADHDの汎用プログラム
 おわりに~同じ悩みをもつ者と出会う意味と効果~
 Case 本人の強みを活かした就労支援を行った事例

第5章 発達障害に関連する様々な病態
A フラッシュバックと記憶の亢進…佐賀信之,岩波 明
 フラッシュバックとは
 フラッシュバックの治療
 映像記憶
B 常同行動と強迫症状…佐賀信之,岩波 明
 常同行動
 強迫症状
C インターネット依存,ギャンブル依存…中村 暖,岩波 明
 インターネット依存
 ギャンブル依存
 センセーション・シーキング
 Note インターネット・ゲーム依存とスマホの関係
D 買い物依存…佐賀信之,岩波 明
 買い物依存とは
 買い物依存と発達障害
E 食行動の障害…中村 暖,岩波 明
 発達障害に併存する食行動の異常
F DBDマーチ 中村 暖,岩波 明
 DBDマーチとは
 Note 親に対するアドバイス
G Sluggish cognitive tempo…岩波 明,中村亮介
 SCTとは
 SCTと発達障害との併存
H マインドワンダリング…岩波 明
 マインドワンダリングとは
 発達障害とマインドワンダリング
I サヴァン症候群…岩波 明,中村亮介
 サヴァン症候群の発見
 イディオ・サヴァン
J 共感覚…岩波 明
 共感覚とは
 共感覚と発達障害

第6章 ライフステージにおける様々な問題
A 学校生活…太田晴久,岩波 明
 1 いじめ,不登校,ひきこもり
 いじめ
 不登校
 ひきこもり
 2 学校における対人関係
 小学校
 中学校,高校
 大学,大学院
B 仕事…岩波 明
 1 ASDと仕事
 ASDの就労状況
 就労への手順
 就労における留意点
 ASDに向いている仕事
 ASDの症例
 2 ADHDと仕事
 ADHD専門プログラムにおける調査
 ADHDに向いている仕事
 3 就労に関する諸問題~休職,復職など~
 休職と復職
 転職を繰り返した例
C 個人生活…太田晴久
 1 妊娠,出産と育児
 女性における発達障害
 妊娠,出産と育児
 2 高齢者
 認知症と発達障害
 統合失調症と発達障害
D 発達障害と犯罪…岩波 明,中村亮介
 発達障害と少年事件
 発達障害と犯罪
E 病院における診療…岩波 明
 外来治療
 入院治療

第7章 大人の発達障害のサポート
A 高等教育における支援…五十嵐美紀
 高等教育と発達障害
 大学と医療機関の連携の取り組み
B 発達障害に対する就労支援…五十嵐美紀
 発達障害と就労
 利用できる社会資源
 就労の準備
 就職活動支援
 就労定着支援
 まとめ
C その他の支援…五十嵐美紀
 生活支援
 家族支援
 当事者団体
 おわりに

文献一覧
索 引

ページの先頭へ戻る

序文

はじめに

◆大人の発達障害とは
 本書は,成人期の発達障害に関して,診療,教育,就労支援などに携わるすべての治療者,支援者を対象とし,実地の現場で役立つ知識や情報を網羅した内容となっています.
 この数年,発達障害,特に成人期の発達障害については,一般の人たちにおいても,医療関係者においても,強い関心がもたれるようになっています.かつて児童や思春期の疾患と考えられていた発達障害は,成人になっても症状が持続することが明らかになり,教育や行政,あるいは職場における対応が求められているからです.
 発達障害とは,生まれながらの脳機能の偏りがみられる疾患の総称です.疾患ごとに様々な特性を示しますが,発達障害の当事者においては,通常の社会生活を送っている人が大部分で,疾患というよりも「特性」と考えるのが適当な例が多くを占めています.
 一方,発達障害は比較的最近になってよく知られるようになったものであるため,誤って理解をされている側面が少なくありません.このような誤解は,医師やその他の医療スタッフにもみられています.
 まず,発達障害は多くの疾患の総称であって,「発達障害」という疾患は存在していないことを認識しておくことが重要です.けれども雑誌やテレビ番組などでは,「発達障害」として多くの疾患をひとくくりにして述べられることが多く,まるで「発達障害」という病名が存在しているように語られるため誤解を助長しがちです.
 実際,発達障害には,多くの疾患,状態を含んでいます.その代表的なものとして,不注意と多動が特徴的な「注意欠如多動性障害(ADHD)」や,対人関係の障害とこだわりの強さがみられる「自閉症スペクトラム障害(ASD)」があげられますが,それ以外にも様々な疾患がみられます.
 たとえば,限局性学習障害(LD)や吃音症や緘黙症,トゥレット症候群なども発達障害に含まれています.広い意味では,知的障害(精神遅滞)も発達障害の一つです.児童精神科や小児科においては,「知的障害」や「知的障害を伴う自閉症」をおもな治療や養育の対象としてきました.
 これに対して,現在精神科や心療内科を受診している成人のケースにおいては,大部分が社会人として自立していて,知的障害を伴うケースはわずかな数にとどまります.つまり小児期の患者さんと,現在受診している成人の患者さんとでは,その背景が大きく異なることを認識しなければなりません.
 前述したように,マスコミなどの記事やテレビ番組においては,多くの疾患をまとめて発達障害と表現することが多いですが,実際は個別の疾患それぞれが特徴をもっています.ただし,成人期の発達障害の実地臨床において頻度の高い疾患はADHDとASDの2つであり,本書においてはこの両者をおもに扱っていることをお断りしておきます.LDについては成人期の診療で扱うことはかなりまれであるため,本書では取り上げておりません.LDとして紹介された場合でも,実際の診断は,ADHDであったり,知的障害であることは珍しくないことを記しておきます.
 またよくみられる誤解として,「大人の発達障害」「成人期の発達障害」といういい方から,発達障害が大人になってから発症すると認識している方もいるようです.実際のところ,発達障害は生まれつきのものであり,思春期や大人になってこの疾患が発症することはありません.また発達障害の症状は進行するものでなく,長年にわたって,同じ症状,特性が続くことが普通です.前述したように,これまで発達障害に対する診療は,小児あるいは思春期が中心でしたが,最近になり成人の発達障害が注目されるようになりました.
 成人の発達障害においては,大人になってはじめて病院を受診したケースがほとんどを占めています.つまりこういった患者さんたちは,症状的には軽症であることに加えて,知的な面は正常かそれ以上のケースが多いため,就職するまで発達障害に気がつかれなかった,あるいは自分なりに対応策を考えて対処できていたと考えられます.しかし詳細に経過を聞いていけば,小児期に特徴的な症状を見出すことができるのです.

◆なぜ大人の発達障害が増えたのか?
 最近の10年あまり,発達障害の診断や治療を希望する,成人の受診者が急増していますが,それはどうしてでしょうか.
 以前から,不登校やいじめ,ひきこもりなど学校に関する問題の背後に,発達障害の存在がみられることが指摘されてきました.特にASDの当事者がいじめの被害者になりやすいことは,私たちの研究でも明らかにされています.こうした学校における問題に加えて,近年は職場における不適応の問題が注目されています.
 これは,学生時代には目立たなかった「症状」が,就職による強いストレスやプレッシャーが原因となって,はじめて顕在化するケースが少なくないことを意味しています.発達障害は大人になったからといって,症状が軽減するわけではありません.改善しているようにみえる例では,本人が自分の特性を理解し,不得意な状況になんとか対応していたり,そういった状況をうまく避けていたりするのです.学生時代までは,このような対応で大きな問題は生じないことが多いようです.
 けれども就職して,仕事の量が多い,上司のプレッシャーが強いなどの悪条件が重なってしまうと,本来の症状が顕在化して,仕事や生活に支障が出てしまうことになりかねません.たとえばADHDの当事者においては,不注意でケアレスミスが多く,上司の指示を聞きもらすことがしばしば起こりやすくなります.学生時代であれば,ゼミの課題を忘れても指導教官に謝ればすんだかもしれませんが,仕事の取引であれば重大なミスとして叱責されかねません.
 このような失敗が続いてしまうと,「仕事を任せられない社員」として周囲の信頼を失い,対人関係も悪化します.本人も気分的に落ち込み,その結果,仕事に行くこともできなくなってしまうことにも至るのです.つまり成人においては,発達障害に伴う不適応によって,うつ状態などの二次的な症状をきたしやすい点にも注意をする必要があるのです.
 これまでの医療では,軽症の発達障害は十分に扱われてこなかった歴史があることは,すでに述べました.児童精神科や小児科における診療の対象は自閉症が中心で,重症のケースが多く,多くは知的障害を伴っていました.繰り返しになりますが,かつて児童精神科などで診療を受けていた患者さんと,現在受診をしている成人の患者さんは,発達障害といっても,かなり異なる人たちであることを改めて指摘しておきたいと思います.
 もう一点,一般の人たちにも医療関係者にも誤解されている点として,「発達障害といえば,ASDあるいはアスペルガー症候群」という「診断のバイアス」の問題があげられます.アスペルガー症候群は現在はASDに含まれる疾患で,対人関係,コミュニケーションの障害と特定の事物に対する過度のこだわりをおもな症状としているものの,知的障害や言葉の遅れはみられないケースを意味しています.
 アスペルガー症候群についての詳細は本文に譲りますが,2000年代になって,この病名は流行語のようになり,広く一般に浸透しました.その結果,「空気の読めない,場の雰囲気のわからない人」「対人関係が苦手な変わった人」は,子どもにおいても成人でも,すべてアスペルガー症候群ではないかとみなされるようになってしまいました.この点は明らかに誤りで,対人関係の障害は他の精神疾患においても,一般の人においても広くみられるものです.
 精神科の実地診療では,「対人関係が不良」というだけで,アスペルガー症候群やASDと診断されている例もしばしば見受けられます.こうした診断におけるバイアスや思い込みは,速やかに修正していくことが重要です.

◆ADHDおよびASDの問題点
 ここでは,本書で取り上げるADHDとASDについて,現時点で問題となっている点についてその概略を述べておきます.
 ADHDは,不注意と多動・衝動性をおもな症状とする疾患ですが,いまだにADHDの存在は十分に浸透していません.ADHDの当事者の学校や職場におけるパフォーマンスの悪さやケアレスミスの多さは,周囲からは否定的に評価され,「真面目に取り組んでいない」「仕事にやる気がない」,あるいは「能力不足」とみなされることがしばしばです.さらに,ADHDの当事者は,自らのミスや周囲からのストレスが続くことによって,うつ病や不安障害の症状を招きやすく,様々な精神疾患を高い頻度で併存しています.
 また,ADHDの有病率は高率であることが知られています.小児においては,人口の4~8%,成人においては3~4%かそれ以上というデータも報告されています.このように頻度の高い疾患であるにもかかわらず,現状では,ADHDは,臨床面でも社会的にその重要性が十分に認識されているとはいえません.
 ADHDに対する考え方も,大きく変化してきました.かつてADHDは何らかの脳の微細な損傷が原因で発症すると考えらえてきました(この微細な損傷をMBDとよんでいます).しかし画像診断の技術が進歩しても明らかな脳の異常は発見されなかったため,現在このMBD説は否定されており,他の精神疾患と同様に神経伝達物質の機能障害が想定されています.ただし,その詳細な病態は明らかにはなっていません.
 一方,今日のASDは,以前は広汎性発達障害(PDD)と診断されていたものとほぼ同一のものです.ASDのなかで最もよく耳にする病名が,前述した「アスペルガー症候群」です.アスペルガーというのは人名で,この疾患を最初に見出した,オーストリアの小児科医であるハンス・アスペルガーに由来しています(ただし,アスペルガー症候群と命名したのは,後の研究者です).
 PDDは,「対人関係,コミュニケーションの障害」と「特定の事物への過度のこだわり」の2つをおもな症状とするものです.このPDDの下位診断に,自閉症やアスペルガー症候群が含まれていました.ところが2013年に改訂されたアメリカの診断基準DSM-5において,PDDという用語は用いられなくなりました.これに代わって,「自閉症スペクトラム障害(ASD)」という病名が使用されるようになりましたが,ASDは,PDDとほぼ同じ意味に用いられています.
 アスペルガー症候群は,古くから報告されている古典的な自閉症(「カナー型の自閉症」)と似た特性をもっていますが,ASDのなかにおいて最も軽症のタイプです.このため,アスペルガー症候群の人たちには,一見したところ特別な問題は見受けられないこともあります.基本的な日常生活はほぼ不自由なく送れている人が大部分です.
 ところがそれにもかかわらず,彼らは,「空気が読めない」「他人の気持ちがわからない」「言葉のニュアンスや暗黙の了解が理解できない」などといった対人関係,コミュニケーションの性質によって,社会生活に支障をきたしやすいことが知られています.ある外来に通院中のASDの男性は,小学生の頃,担任の教師に次のように指摘されました.「仲間と一緒に活動することができません.みんなとの話し合いの場所にいても,一人でいるだけで,共感するとか理解を深めるといったことができないのです」.
 ADHDの場合と同様に,正常以上の知能を持ち,問題行動のみられないアスペルガー症候群などのASDの当事者たちは,学校時代までは不適応が生じないことも珍しくありません.友達は少ないけれども,穏やかでおとなしい人物と思われている例もみられます.
 ただし,就職し実社会で生活するようになると,状況は大きく変化します.特殊な業務を除けば,どのような仕事においても,同僚,上司,会社の取引先の人たちを相手として,様々な報告や相談が必要となります.そこでは「阿吽の呼吸」を求められることもあれば,「いわずもがな」のことを察してほしいといわれることも珍しくありません.
 こうした対人場面はアスペルガー症候群の人にとってはむずかしい局面で,状況の意味がわからず大きな失敗をしてしまいやすく,繰り返して叱責されてしまった結果,不適応を生じることがみられるのです.
*  *  *
 本書は,このようなADHDとASDを中心とした成人期の発達障害について,その概念,症状,診断から治療に至るまで,実地臨床に必要な知識を第一線の臨床家によって詳細に説明したものとなっています.本書が発達障害の当事者とその家族に加えて,臨床や支援を担当する医療関係者,人事担当者,コメディカルスタッフなどの一助となれば幸いです.

2023年1月
岩波 明
(昭和大学医学部精神医学講座主任教授)