初版から6年半ぶりの改訂.今回の改訂では,総論と各論という基本的な構成は踏襲し,AYA世代と移行期医療,がんゲノム,CAR‒T療法などの腫瘍免疫療法,新たな分子標的薬などの最新情報を盛り込み,利益相反や医学研究の倫理に関しても現状に即したものとした.専門医を目指す小児科医のみならず,若手育成を担う中堅の指導医のスキル・メンテナンスにも対応でき,小児領域に特化した血液・腫瘍学ではわが国で唯一の定本.
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目次
第Ⅰ部 総論
第1章 血液・造血器総論
1 造血発生
a. 血球の産生・分化と造血幹細胞 海老原康博
b. 造血因子とサイトカイン 今井耕輔
c. ES細胞,iPS細胞 梅田雄嗣
d. 造血と栄養:鉄・ビタミンなど 石黒 精
2 血球の形態・機能
a. 赤血球 渡邉健一郎
b. 白血球 土居岳彦,岡田 賢
c. 血小板 國島伸治
d. 骨髄とリンパ組織 磯田健志,森尾友宏
3 止血・血栓に関連する血漿とその成分 足利朋子,長江千愛
4 非腫瘍性疾患の疫学 真部 淳
5 血液・造血器疾患のおもな症候と鑑別
a. 貧血 石黒 精
b. 出血傾向,血栓傾向 石黒 精
c. リンパ節腫大,肝腫大,脾腫大 高橋浩之
d. 易感染性 高田英俊
6 血液・造血器疾患におけるおもな検査
a. 血球形態観察 長谷川大輔
b. 凝固・線溶系検査 髙橋大二郎,野上恵嗣
c. 血小板機能検査 國島伸治
d. 免疫学的検査 磯田健志,森尾友宏
e. 骨髄検査(骨髄穿刺,骨髄生検) 長谷川大輔
f. 染色体検査・遺伝子検査の基礎知識 滝 智彦
g. 造血不全に関する特殊検査 村松秀城
7 非腫瘍性血液疾患と移行期医療 大賀正一
第2章 小児がん
A 小児がんにおける基礎と疫学
1 疫学 加藤実穂,瀧本哲也
2 家族性腫瘍,遺伝性腫瘍 滝田順子
3 がんの分子生物学 上條岳彦
4 がんの細胞生物学 赤羽弘資
5 腫瘍免疫 高橋義行
B 小児がんにおける症候と臨床像
1 造血器腫瘍 岡本康裕
2 内臓固形腫瘍 松本公一
3 骨軟部腫瘍 細野亜古
4 脳・脊髄腫瘍 寺島慶太
C 小児がんの検査と診断
1 腫瘍マーカー 木下義晶
2 免疫学的診断 出口隆生
3 染色体・遺伝子診断(造血器腫瘍) 今村俊彦
4 染色体・遺伝子診断(固形腫瘍) 大喜多 肇
5 病理診断(細胞診断,組織診断) 田中祐吉
6 画像検査 桑島成子
7 小児がんゲノム医療 加藤元博
D 小児がんにおける治療法
〔抗がん化学療法〕
1 抗がん化学療法の基礎と抗がん薬の分類 堀 浩樹
2 治療薬各論
a. アルキル化薬 柳澤隆昭
b. 代謝拮抗薬 堀 浩樹
c. 植物アルカロイド薬 澤田明久
d. 抗がん抗菌薬 工藤寿子
e. プラチナ製剤 七野浩之
f. 分子標的薬 服部浩佳
g. 抗体療法 後藤裕明
〔外科治療〕
1 脳腫瘍 隈部俊宏
2 骨・軟部腫瘍 国定俊之,尾﨑敏文
3 内臓固形腫瘍 田尻達郎,文野誠久
〔放射線治療〕
1 総論
a. 脳腫瘍 前林勝也
b. その他の固形腫瘍・血液疾患 副島俊典
2 放射線治療の物理学・生物学・種類と適応 藤 浩
3 放射線治療の合併症 水本斉志
〔細胞・遺伝子治療〕
1 CAR—T細胞療法 今井千速
2 その他の遺伝子細胞治療 竹谷 健
E AYA世代のがん
1 AYA世代がんの疫学・予後・治療課題 堀部敬三
2 AYA世代がんの包括医療 堀部敬三
第3章 造血細胞移植
1 小児造血細胞移植総論 濱 麻人
2 小児における造血細胞移植の適応 橋井佳子
3 ドナー/造血細胞の選択 樋口紘平,井上雅美
4 移植前治療 平山雅浩
5 造血幹細胞採取など 矢部普正
6 移植後合併症
a. 移植片対宿主病 田内久道
b. 生着不全 吉田奈央
c. 移植に関連する感染症とその予防 小林良二
d. 感染症以外の早期合併症 佐藤 篤
e. 移植後晩期合併症 石田也寸志
7 患者と家族への心理的サポート 末延聡一
第4章 がん救急(oncologic emergency)
1 心,胸郭 米田光宏
2 腹部 菱木知郎
3 神経(脳,脊髄) 柳澤隆昭
4 代謝:腫瘍崩壊症候群など 湯坐有希
5 血液異常 大曽根眞也
6 泌尿器 木下義晶
第5章 支持療法
1 消化器症状への対応 矢野道広
2 栄養療法 曹 英樹
3 歯科・口腔ケア 河上智美
4 静脈アクセス 田附裕子
5 感染予防と治療
a. 標準感染予防 菊田 敦,小林正悟
b. 発熱性好中球減少症 福島啓太郎
c. 深在性真菌症 福島啓太郎
d. ウイルス感染症 田内久道
e. 予防接種 高田英俊
6 小児がん・血液診療の輸血
a. 輸血指針と製剤,輸血関連検査 北澤淳一
b. 輸血療法 梶原道子
c. 輸血副作用 峯岸正好
第6章 晩期合併症
1 長期フォローアップ 石田也寸志
2 各論
a. 神経・認知 大園秀一
b. 内分泌 石黒寛之
c. 心臓 前田美穂
d. 呼吸器 力石 健
e. 腎・泌尿器 早川 晶
f. 消化器 早川 晶
g. 感覚器(味覚・聴覚・視覚) 大園秀一
h. 口腔 河上智美
i. 筋・骨格・皮膚 堀 浩樹
j. 妊孕性 前田尚子
k. 二次がん 石田也寸志
第7章 緩和医療
1 緩和医療
a. 痛みのアセスメントとさまざまな対処方法 多田羅竜平
b. 終末期の症状への対応 多田羅竜平
c. 終末期の小児がん患者・家族の心理的サポート 吉田沙蘭
d. 在宅医療 天野功二
e. 医療者が行う遺族のグリーフケア 瀬藤乃理子
第8章 トータルケア
1 トータルケア
a. チーム医療 岩本彰太郎
b. 説明と同意 末延聡一
c. 心理・社会的支援 栁井優子,大島淑夫
d. 学校・教育支援 副島尭史,上別府圭子
e. 療養環境 三浦絵莉子
f. 家族支援 小澤美和
g. 遺伝カウンセリング 田村智英子
第9章 倫理・研究
1 子どもを対象とする医療および研究の倫理 掛江直子
2 研究
a. 検体の保存,取り扱い方 滝 智彦
b. 生物統計・研究デザイン 樋之津史郎
c. 臨床試験 加藤実穂,瀧本哲也
d. 研究論文の読み方 真部 淳
e. 論文発表・学会発表の仕方 真部 淳
第Ⅱ部 各論(疾患)
第1章 血液・造血器疾患
A 赤血球の異常
1 鉄欠乏性貧血 石村匡崇
2 慢性疾患に伴う貧血 石村匡崇
3 再生不良性貧血 成田 敦
4 遺伝性骨髄不全症候群 矢部みはる
5 先天性溶血性貧血 菅野 仁
6 血色素異常症(異常ヘモグロビン症,サラセミア) 山城安啓
7 新生児の貧血・多血 小阪嘉之
8 自己免疫性溶血性貧血 谷ヶ崎 博
9 その他の溶血性貧血 谷ヶ崎 博
10 巨赤芽球性貧血 植田高弘
11 出血性貧血 植田高弘
12 その他の貧血 植田高弘
13 その他の赤血球疾患(赤血球増加症) 渡邉健一郎
B 白血球の異常
1 好中球減少症 溝口洋子,岡田 賢
2 好中球/好酸球/好塩基球増加症 木下真理子,盛武 浩
3 単球,マクロファージ,樹状細胞 中沢洋三
C 免疫異常
1 原発性免疫不全症
a. T細胞性免疫不全 今井耕輔
b. 免疫不全を伴う特徴的症候群 笹原洋二
c. B細胞不全 金兼弘和
d. 免疫調節障害:血球貪食性リンパ組織球症など 大賀正一
e. 食細胞機能異常:慢性肉芽腫症 西村豊樹,盛武 浩
f. 自然免疫不全症・自己炎症性疾患 高田英俊
g. 先天性補体欠損症 高田英俊
2 続発性免疫不全症 田中瑞恵
D 血小板と止血・血栓の異常
1 血小板の異常
a. 血小板減少症 今泉益栄
b. 血小板増加症 高橋幸博,西久保敏也
c. 血小板機能異常症 國島伸治
2 凝固異常
a. 血友病(第VIII因子欠乏,第IX因子欠乏) 嶋 緑倫
b. von Willebrand病 野上恵嗣
c. その他の先天性凝固異常症 酒井道生
d. 後天性ビタミンK依存性凝固因子欠乏症 白幡 聡
e. 播種性血管内凝固 瀧 正志
f. その他の後天性凝固異常症,血液凝固阻害物質 長江千愛
3 血栓症と血栓性素因
a. 遺伝性血栓症(栓友病) 大賀正一
b. 後天性血栓性疾患 白山理恵,岡 敏明
c. 薬剤/感染症関連の後天性血栓症 杉山正仲,小川千登世
第2章 小児がん
A 造血器腫瘍
1 急性リンパ性白血病 康 勝好
2 急性骨髄性白血病 富澤大輔
3 乳児白血病 江口真理子,石井榮一
4 慢性骨髄性白血病 嶋田博之
5 骨髄異形成症候群,骨髄増殖性疾患 真部 淳
6 Down症候群に伴う血液腫瘍性疾患 伊藤悦朗,照井君典
7 非Hodgkinリンパ腫など 森 鉄也
8 Hodgkinリンパ腫 古賀友紀
9 リンパ増殖性疾患 髙木正稔,金兼弘和
a. 小児EBV陽性T細胞およびNK細胞リンパ増殖症
b. 原発性免疫不全症に関連したリンパ増殖症
10 組織球症
a. Langerhans細胞組織球症 森本 哲
b. Langerhans細胞組織球症以外の組織球症 塩田曜子,石井榮一
B 固形腫瘍
1 髄芽腫,中枢神経胚細胞腫,髄芽腫以外の中枢神経系胚芽腫および松果体芽腫 岡田恵子,原 純一
2 神経膠腫,上衣腫,非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍,その他の腫瘍 柳澤隆昭
3 網膜芽細胞腫 鈴木茂伸
4 神経芽腫 家原知子
5 肝腫瘍 檜山英三
6 腎腫瘍 越永従道
7 胚細胞腫瘍 黒田達夫
8 骨肉腫 尾崎修平,川井 章
9 Ewing肉腫ファミリー腫瘍 佐野秀樹
10 横紋筋肉腫などの軟部組織肉腫 宮地 充,細井 創
11 その他の悪性固形腫瘍 大植孝治
12 血管性腫瘍,脈管奇形,その他の良性腫瘍 上原秀一郎
巻末資料
日本小児血液・がん学会認定:専門医制度について 米田光宏
日本小児がん研究グループ(JCCG)の成り立ち 足立壯一
小児血液・腫瘍に関する診療ガイドラインについて 多賀 崇
索 引
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序文
改訂第2版
序 文
小児の血液と腫瘍関連疾患を診療する医師の成書として,同時に小児血液・がん専門医を目指す医師のテキストとして上梓された「小児血液・腫瘍学」の初版は2015年に刊行され,今回改訂第2版の出版に至った.初版から7年を経過する間の小児領域における血液学と腫瘍学の進歩は著しく,新たな疾患の発見と病因・病態の解明,疾患分類の改訂,治療薬や治療法の開発などの情報が蓄積されている.日本専門医機構による新専門医制度も2018年から基本領域の専門医プログラムが開始された.小児血液・がん専門医を育成するサブスペシャルティ研修も新制度が構築され進んでいる.2018年に始まった臨床研究法も2020年と2021年に改訂された.COVID—19のパンデミックが社会生活の在り方を根本から揺るがす事態のなか,専門医制度や臨床研究,研究倫理などの変化に対応している.
このような状況にあっても,小児血液・がん疾患を迅速に正確に診断し,標準治療を実施しながら医学の最新情報に基づいた治療管理を実践していくことが重要である.そのために,私たちには“小児領域に特化した血液・腫瘍学”を基盤として新しい知識と技術を積み上げる努力が常に求められている.今回の改訂では,初版の総論と各論の構成を踏襲し,基本情報を引き継ぎながら簡潔に新知見を追加した.AYA世代と移行期医療,がんゲノムとクリニカルシークエンスの実装,CAR—Tなど腫瘍免疫療法と新たな分子標的薬などの項目も加えて最新情報を取り込み,利益相反や医学研究の倫理に関しても現状に即したものとした.
さらに,日本小児血液・がん学会(JSPHO)の認定専門医制度,治療研究の中核である日本小児がん研究グループ(JCCG)および小児血液・腫瘍に関するガイドラインについて,巻末資料に追加した.脳腫瘍をはじめ変化の著しい領域の充実に配慮しながらも,小児血液・がん専門医の基本となる最低限の情報がコンパクトに網羅されるように作成した.
本テキストの改訂と編集にあたっては,編集主幹と委員を中心にJSPHO専門医制度委員会と診療ガイドライン委員会の皆様のご協力を得て,内容に関する方向性を詳細に検討した.多忙ななかで編集,執筆,校閲などを快諾下さった関係者の皆様に深謝申し上げる.本書が新しい小児血液・腫瘍学を修得して,これを実践していく専門医育成のために役立ち,それが血液疾患とがんに挑戦する子どもたちとそのご家族の幸せにつながることを祈念してやまない.
2022年4月10日
日本小児血液・がん学会 理事長 大賀正一
同 前理事長 細井 創