乳幼児健診にあたっての心構えから診察の手順,見落としがちな症状,発達の診かた,母親の心の問題や事後フォロー,さらには,近年増加している児童虐待をめぐる問題まで,著者の豊富な経験をもとに詳細に解説.小児科医や保健師,栄養士,計画と設計を行う行政担当を含め,健診に携わるすべての人の必携の一冊である.新版では,成育基本法の成立をふまえた視点から大幅に手直しした.
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目次
はじめに
■第1章 成育基本法とその周辺
成育基本法
成育基本法の基本理念とそれぞれの役割
成育基本法の基本的施策
■第2章 乳幼児健診のこれまでとその周辺
乳幼児健診で何をするのか
乳幼児健診の法的根拠
乳幼児健診のトピックス
母子健康手帳
乳幼児健診を実施する側と受ける側のギャップ
様子をみましょう
乳幼児健診の限界
集団健診か個別健診か
乳幼児健診の設計
健診での個人情報の管理
子育て支援としての健診
ピア・サポート
ドアノブコメント
チャイルドシート
ブックスタート
ペット
■第3章 1か月頃の健診
1か月児のイメージ
1か月児の身体測定値
健診で実施すること
問 診
見落としたくない症状
診察手順の1例
1か月児健診でよくある訴えと対応
母乳育児をめぐって
事後指導
■第4章 4か月頃の健診
4か月児のイメージ
4か月児の身体測定値
健診で実施すること
問 診
見落としたくない症状
診察手順の1例
4か月児健診でよくある訴えと対応
カンファレンス
■第5章 10か月~1歳頃の健診
1歳児のイメージ 67
10か月~1歳頃の身体測定値
健診で実施すること
問 診
見落としたくない症状
診察手順の1例
1歳頃の健診でよくある訴えと対応
カンファレンス
■第6章 1歳6か月頃の健診
1歳6か月児のイメージ
1歳6か月児の身体測定値
健診で実施すること
問 診
問診チェックリストの例
見落としたくない症状
診察手順の1例
歯科健診
言語発達をめぐる問題
自閉症スペクトラム障害をめぐって
熱性けいれんをめぐって
アレルギー健診
1歳6か月児健診でよくある訴えと対応
カンファレンス
■第7章 3歳児健診
3歳児のイメージ
3歳児の身体測定値
健診で実施すること
問 診
尿検査
視聴覚健診
歯科健診
診察手順の1例
見落としたくない症状
3歳児健診でよくある訴えと対応
発達検査
自閉症スペクトラム障害への療育
カンファレンス
■第8章 5歳頃の健診
5歳児のイメージ
5歳児の身体測定値
健診で実施すること
問 診
診察手順の1例
発達障害
見落としたくない症状
5歳児健診でよくある訴えと対応
カンファレンスと事後対応
■第9章 乳幼児健診の事後フォローアップと周辺事業,予防接種
母子健康手帳の活用
育児をめぐる情報の周知
発達のフォローアップ
離乳食教室と栄養のフォローアップ
子育て相談,子育て学級(教室)
グループ・ミーティング,子育てグループ支援
医療機関への受診に関する教育
父親の健診参加
社会的養護を必要とする子どもと乳幼児健診
予防接種をめぐって
■第10章 母親の抑うつとその周辺
母親は職業ではない
母子相互作用について
エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)
自己記載式抑うつ評価(SDS)
乳児をもつ母親の抑うつへの対応と治療
自分の子どもに対する「扱いにくさ」の調査
扱いにくさへの対応
子どもの貧困
ハイリスクの母親
スマートフォン時代の母親
■第11章 児童虐待をめぐる問題
児童虐待防止法
児童虐待の現状
そのほかの児童虐待
児童虐待に対応するために
加害者と被害者の危険因子
乳幼児健診の場での虐待の発見
乳幼児健診の未受診による虐待の発見
■第12章 乳幼児健診と障害の発見
障害が発見される時期
障害の可能性を健診でどのように伝えるか
長い目,温かい目
乳幼児健診の限界
障害者手帳の取得など
これまでの経験から
参考文献
・書籍・雑誌(特集号)
・論 文
・役に立つウェブサイト
索 引
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序文
はじめに
2006年に本書の初版を上梓してから12年余りの日々が流れました.これまでに数回の改訂を行ってきましたが,今回は小児科医にとって15年以上の悲願でもあった成育基本法(詳しくは「第1章 成育基本法とその周辺」をご覧ください)が成立したことを受けて,これからの乳幼児健康診査(以下,乳幼児健診)を含む母子保健行政が大きく変わっていくことを踏まえて改訂することにしました.
さらに,コンピュータやタブレットPC,スマートフォンなどICT(information and communication technology)の発展も乳幼児健診を含む母子保健全体に大きな影響を及ぼしていますし,社会的にも話題になっている発達障害の早期発見・対応や増えている児童虐待の問題も密接に関係していますのでこれらについても頁を割きました.
乳幼児健診は,わが国では母子保健法第12条によって実施が定められていますが,法律で乳幼児健診を定めている国は多くはありません.しかし,すべての子どもたちを対象として実施することが義務づけられているこの乳幼児健診には,たくさんの小児科医や内科医,保健師を始めとする多様な職種がかかわってきたにもかかわらず,不思議なことに乳幼児健診を仕事の中心にしている“専門医”や“保健師”はいません.現実には医師にとっても保健師にとっても,乳幼児健診は日常診療や行政事務の合間に行っていることがほとんどだと思います.また,乳幼児健診についての講義を学生時代にも研修医の時代にも受けてきているわけではないので,私自身にとっても手探りでその方法を習得してきました.それではいけないと考えて日本小児科学会や日本小児保健協会でも,さまざまな講習会を担当して行ってきた経緯があります.
経験則に基づいての健診ではどうしても個人差や地域差がでることが避けられませんので,多くの都道府県では「乳幼児健診マニュアル」などを編集していますし,厚生労働省でも小枝班で2018年に「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」,「乳幼児健康診査事業実践ガイド」をだしています(巻末の「参考文献」を参照).ただし,これらは多数の著者によって執筆されており,乳幼児健診およびその周辺を同じ感覚で描きだしているわけではありませんし,読みやすさをめざしているわけでもないと思います.
初めて私が乳幼児健診に携わったのは今から40年以上も前のことですが,それ以来,手探りを続けながら,多くの先人や同僚たちから知識や技術を学んできました.実際に,乳幼児健診のやり方を拝見しにでかけたことも何回もありました.また,ヘラブナを釣る名人とよばれていた方とお話をさせていただく機会があったときに,「釣りの初心者が最初にするのがヘラブナ釣り,60年釣りをしてきて最後にたどり着くのもヘラブナ釣り」という話を伺ったことがあります.要するに,ヘラブナは初心者でも釣ることはできますが,熟練の技があればまた違った奥行きがあるということなのでしょう.ちなみに私は釣りを2度ばかり経験して1匹も釣れませんでしたが,乳幼児健診はまさにヘラブナ釣りのようなものだと感じています.
こうしたなかで,おそらく何万人もの子どもたちと乳幼児健診の場で触れ合ってきました.あとで思いだすと冷や汗のでるような失敗の数々もあります.毎週のように集団での公的機関の乳幼児健診にかかわってきた行政職の時代もありました.今も,頼まれて集団健診をお手伝いしたり,若い先生と一緒に勉強したり,下の子が生まれたので心配だからみてほしいというリクエストに応じるなど,さまざまな形で乳幼児健診にかかわっています.こうして過ぎてきた日々ですが,自分では乳幼児健診はまだまだ上手になれるのではないかと思っていますし,そうなるための努力もしていきたいと考えています.
乳幼児健診は基本的にスクリーニングですから,理論的にも一定の確率で見落としが発生します.もちろん,それを少なくするための努力をする必要がありますが,限られた時間と資源のなかでのチェックでは十分とは限りません.しかし,どのようにして見落としを避けるための努力をするのか,どのようにすれば不要な負担や心配をさせないですむのかについてはまだまだ考えていく必要があると感じています.
本書の初版の上梓にあたっては,診断と治療社の土井陽子さんに遅筆への励ましも含めて大変お世話になり,今回の版では土橋幸代さん,田沢静子さんにお世話になりました.心よりお礼を申し述べたいと思います.最後に,本書の初版からいろいろなご指導やご助言を賜りました福岡の松本壽通先生が2018年秋に逝去されました.この版を先生にみていただけなかったことが悔やまれます.ご冥福を心からお祈りいたしております.
2019年4月
平岩幹男