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書籍詳細

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産業医科大学公衆衛生学教室 准教授

藤野 善久(ふじの よしひさ) 著

東京大学大学院医学系研究科 准教授

近藤 尚己(こんどう なおき) 著

国立環境研究所 環境健康研究センター 研究員

竹内 文乃(たけうち あやの) 著

初版 B5判 並製 104頁 2013-09-30

ISBN9784787820532


  

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定価:3,888円(本体価格3,600円+税)

幅広い分野で活用され,統計パッケージでも対応が可能になったマルチレベル分析について,保健医療分野での具体的研究において,どのように使われ,解釈され,どうやって使うのか,なるべく数式を使わずに解説.マルチレベル分析を実用するために必要十分の知識を得ることができる.研究者のみならず論文を読み書くすべての保健医療従事者に向けた一冊.
※弊社ホームページから,本書に掲載されているデータとプログラムをダウンロードできます.

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目次

出版によせて 大橋靖雄
推薦のことば 河内一郎
はじめに 藤野善久・近藤尚己・竹内文乃

PartⅠ 準 備
マルチレベル分析の概要について説明しています。
またマルチレベル分析が使われる三つの目的について紹介しています。

第1章 マルチレベル分析とは:イントロダクション 藤野善久
マルチレベル分析とは/階層構造をもつデータとは/
2レベルモデル、3レベルモデル/ネストされた構造をもつデータ/
階層構造をもつデータの特徴:グループ内の相関/
なぜマルチレベル分析が必要なのか
(マルチレベル分析でないと誤った結果が得られる場合/
マルチレベル分析でないと検証できないテーマ)

第2章 マルチレベルの三つの目的 藤野善久
マルチレベル分析の目的/目的1:階層構造を考慮した分析を行う/
目的2:グループの特性(マクロレベル要因)が個人レベルに与える影響を検討する/
目的3:グループ間のバラつき(変動)を調べる:構成効果と文脈効果
(シナリオ1:構成効果/シナリオ2:文脈効果)

PartⅡ 統計モデル
マルチレベル分析に必要な統計モデルについて、なるべく数式を使わずに解説しています。
数式がどうしても苦手という方は、他の章から読み進んでも大丈夫です。

第3章 マルチレベル分析の統計モデル(前編) 竹内文乃
用語の整理(結果に影響する変数/「結果」を表す変数/変数の分類(型))/
結果変数の型と統計手法の選択/統計モデル、モデル化とは/誤差と統計モデル/
線形回帰モデルの仮定/分散分析と共分散分析(分散分析/共分散分析)/
発展学習:一般化線形モデル

第4章 マルチレベル分析の統計モデル(後編) 竹内文乃
マルチレベルモデルの導入(誤差項に相関がある場合)/
複数回測定データ(繰り返し測定データ解析、経時データ解析)/
一般化線形モデルとマルチレベルモデルの関連/
「マルチレベル」を冠した様々な名称のモデルについて/
マルチレベルモデルを実際のデータに当てはめる

PartⅢ 事 例
マルチレベル分析の三つの目的について、実際の研究事例を交えて解説しています。

第5章 目的1:階層構造を考慮した分析 藤野善久
繰り返し測定を行う研究(1回の測定では正しく測定できない場合/
経時的に測定する場合)/多施設研究/ネストしているデータの例/
どのように調整するのか(級内相関が大きい場合/級内相関が小さい場合)/
研究事例(ケース1/ケース2/ケース3/ケース4)

第6章 目的2:マクロレベル変数の影響を調べる 藤野善久
実験研究・介入研究/文脈効果(疫学・公衆衛生学)/
研究事例(ケース5/ケース6/ケース7/ケース8/ケース9/ケース10/ケース11)

第7章 目的3:マクロレベル間の変動の有無を調べる、また変動を説明する 藤野善久
マクロレベルのバラつき(変動、分散)/目的3で検証したいストーリー/
マクロレベル分散の確認/研究事例(ケース12)/マクロレベル分散の変化/
ロジスティック回帰モデルにおけるマクロレベル分散

PartⅣ 分 析
統計ソフトを用いて実際の分析方法と出力結果の読み方、解釈について解説しています。
データとプログラムをダウンロードして、実際に試してみることができます。

第8章 統計ソフトの紹介 藤野善久
STATAによるマルチレベル分析/Rによるマルチレベル分析

第9章 階層構造を考慮した分析の事例 藤野善久
分析ケース① 筋力トレーニングプログラム/分析ケース② 多施設介入試験/
分析ケース③ 職域における調査:交代勤務と同僚支援

第10章 マクロレベル変数の影響を調べた事例 藤野善久
分析ケース④ 介入研究(cluster RCT)/分析ケース⑤ 実験データ/
分析ケース⑥ 職域データ/分析ケース⑦ 介入研究(筋力トレーニングプログラム)

第11章 マクロレベル間の変動の有無を調べる 藤野善久
分析ケース⑧職域データ
付 録
STATAプログラム例 藤野善久
索 引

理解を補うための関連するトピックを紹介しています。
特に、マルチレベル分析と関わりが深い文脈効果やメタアナリシスについては、
詳しく説明しています。
生態学的錯誤と個人的錯誤  藤野善久
文脈効果(contextual effect)  藤野善久
統計的仮説検定(有意差検定)って何?  竹内文乃
検定の過誤って何?  竹内文乃
研究をはじめる前に対象者数や検出力を見積もる  竹内文乃
ポピュレーションストラテジーとマルチレベル分析  藤野善久
マルチレベルと文脈効果について  近藤尚己
メタアナリシスとマルチレベル分析  近藤尚己

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序文

出版によせて

 「みんなの健康」をめざす学問が公衆衛生学Public Healthであり、私の所属する東京大学公共健康医学専攻はその公衆衛生の専門家を養成する、日本では数少ない学校の一つである。国民の健康水準を上げるためには、限られた人的・経済的資源の中で、教育啓発を含む有効で効率的な予防法を、倫理を損なうことなく実践しなければならないが、そのためには現状の分析と予防的介入法の有効性・安全性・経済性を客観的に評価しなければならない(評価の結果が「エビデンス」といわれる)。そのために必要な学問が疫学と生物統計学であり、公衆衛生カリキュラムではこれらの分野は必須である……。ところがこれらの分野、特に生物統計学の敷居は医療の専門家である医師にとっても高く、われわれの学校においても生物統計学の教育に難渋している状況である。アメリカのように一流医学研究機関に学識と経験豊富な生物統計学専門家がごろごろ存在しているようなら問題ないが、専門家教育が著しく遅れたわが国では(なにせ日本最初の生物統計学の講座が東大に作られたのが1992年である)これは叶わず、いきおい医師や研究者自身が自らのデータを見よう見まねで解析することになる。幸か不幸か最近は強力な統計パッケージが安価で使えるため解析自体には手間はかからない。その結果、解析の原理がわからないまま、出力のどこを見ればよいのかも定かではなく、不安を抱えたまま学会発表や論文作成に向かうことになる。
 この不幸で危うい状況を救うのは優れた教科書の存在であろう。筆者も1995年に当時は新しい解析手法であった「生存時間解析」の実践的な教科書を出版し、研究者から大いに感謝された経験がある。地域疫学研究で世界的に有名な久山町研究の教室にわれわれの教科書がぼろぼろになっておいてある状況を知ったとき、統計家として感激した次第である。
 実践的でわかりやすく、しかし本質をついた本書は、マルチレベル分析において救世主となるのではなかろうか。私がこの20年余の大学院生指導において、統計手法の誤用が最も多かったのがマルチレベル分析、一般的には「誤差が独立ではない、階層構造をもったデータの解析」であった。マルチレベルデータの解析は、今注目されている社会疫学の分野のみならず、古典的な農事試験・工場実験のsplit-plotデザインのデータ解析と数学的には類似の構造をもっており、古くて新しく、応用場面が広く、頻繁に統計手法が誤用され、研究者泣かせで、レビュアーにとっては(簡単に論文をリジェクトできるので)ありがたい分野である。本書の出現で統計専門家がしたり顔できなくなるのがやや悲しいところである。

東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 生物統計学教授
大橋靖雄



推薦のことば

 私は、社会疫学分野の研究に長年関わってきました。この分野では、マルチレベル分析は必須の統計手法です。私が関わった研究を数えてみると、マルチレベル分析を使った論文は50編以上ありました。本書は、社会疫学の検証にマルチレベル分析がどのように使われているのかを、研究者の視点から明快に示しています。また、適宜挿入されているコラムによる解説は特に秀逸で、効果的に読者の理解を助けてくれるでしょう。
 著者の藤野・近藤両氏とは、一緒にいくつかの仕事をしてきました。両氏とも、日本国内で早い時期から社会疫学の研究に取り組み、マルチレベル分析を使った業績をあげています。そして気鋭の統計学者である竹内氏が、丁寧にマルチレベル分析の原理を解説しています。研究仲間でもある著者らが、本書を著したことに心より賞賛を送りたいと思います。
 私には、日本にも、これからキャリアを積んでいこうとしている若い研究仲間がたくさんいます。彼らには、自信をもってこの本をお薦めしたいと思います。

ハーバード大学公衆衛生大学院 健康社会行動学・疫学講座
河内一郎



はじめに

 近年、マルチレベル分析とよばれる手法が、実験研究、臨床研究、疫学研究など、幅広い分野で活用されるようになってきました。また、各種の統計パッケージ(SPSS、SAS、STATA、Rなど)でも、マルチレベル分析を簡単に実施できる環境が整ってきました。実際に、最近の統計パッケージのヴァージョンアップでは、マルチレベル分析への対応がセールスポイントの一つにもなっていました。
 しかしながら、実験研究や臨床研究を行う研究者の中で、マルチレベル分析はまだあまり知られていないようです。そのため、本来、マルチレベル分析を使うべきデータにおいても使われておらず、マルチレベル分析を使えばより研究テーマに沿った解釈ができる研究が多くあります。
本書が想定する読者
・マルチレベル分析をこれから学習しようとする方
・自分で分析はしないが、マルチレベル分析を用いた論文を読みたい方
 本書はこのような読者を対象にしています。特に数学や統計学のフォーマルな教育を受ける機会が少ない保健医療分野の研究者、臨床医、保健師、大学院生、行政職を想定しています。
本書のねらい
 マルチレベル分析に関する統計学の教科書はすでに多く出版されています。しかしながら、その多くは、当然ながら数式や行列式を用いた統計学の解説であり、保健医療従事者の多くにとって敷居が高いものです。本書では、マルチレベル分析の技術的(数学的)な詳細よりも、保健医療分野の研究において、どのように使われているのか、どのように解釈したらよいのか、どうやって使うのかに重点を置いて解説しています。
 車の運転にたとえると、統計学の教科書が、エンジンの構造や燃料などの制御方法についての技術的仕様書だとすれば、本書が目指すものは、車をどうやって運転するかを学ぶための教習所のような役割です。車を運転するために、必ずしもエンジンの構造や技術をすべて理解しておく必要はないでしょう。同様に、マルチレベル分析を実用するために、必要十分の知識を解説することが本書の狙いです。
 本書では、保健医療の研究者である著者らが、試行錯誤してマルチレベル分析を使うようになるまでに得た経験を、これからマルチレベル分析を始めようという読者と共有し、学習の一助になることを願っています。
 2013年9月
 藤野善久・近藤尚己・竹内文乃