わが国初の「成人スチル病」診療ガイドライン.本疾患は鑑別疾患にあがりやすいが,明確な治療法が定まっていない.本書では,臨床症状,治療法,検査所見について27個のCQを設定し解説.本疾患に関わるすべての医療従事者にとって,スタンダード診療となる必携の書である.
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目次
口絵カラー
発刊にあたり
序 文
執筆者一覧
ガイドラインサマリー
診療アルゴリズム
重要用語の定義
略語一覧
推奨と解説の読み方
第1章 作成組織・作成経過
1 診療ガイドライン作成組織
2 作成経過
第2章 スコープ
1 疾患トピックの基本的特徴
1-1 臨床的特徴
1-2 疫学的特徴
1-3 診療の全体的な流れ
2 診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
3 システマティックレビューに関する事項
4 推奨作成から最終化,公開までに関する事項
第3章 推 奨
CQ1 ASD に特徴的な熱型はあるか
CQ2 ASD に特徴的な皮膚所見はあるか
CQ3 ASD の関節症状の臨床的特徴はあるか
CQ4 小児期発症例(全身型若年性特発性関節炎)における臨床的特徴はあるか
CQ5 ASD の診断,鑑別に有用な血液検査所見はあるか
CQ6 ASD の活動性評価に有用な血液検査所見はあるか
CQ7 ASD で認められるリンパ節腫脹に対するリンパ節生検は有用か
CQ8 小児期発症例(全身型若年性特発性関節炎)において特徴的な血液検査所見はあるか
CQ9 ASD に合併する臓器障害にはどのようなものがあるか
CQ10 ASD に合併するマクロファージ活性化症候群の臨床的特徴はなにか
CQ11 ASD に合併する薬剤アレルギーの臨床的特徴はなにか
CQ12 小児期発症例(全身型若年性特発性関節炎)に合併する臓器障害・病態にはどのようなものがあるか
CQ13 小児期発症例(全身型若年性特発性関節炎)のマクロファージ活性化症候群において
早期診断に有用な所見はあるか
CQ14 非ステロイド性抗炎症薬はASDに対して有用か
CQ15 副腎皮質ステロイド全身投与はASD に対して有用か
CQ16 ステロイドパルス療法はASD に対して有用か
CQ17 メトトレキサートはASD に対して有用か
CQ18 シクロスポリンはASD に対して有用か
CQ19 疾患修飾性抗リウマチ薬は,ASDの関節炎に対して有用か
CQ20 TNF 阻害薬は ASD に対して有用か
CQ21 IL-6 阻害薬は ASD に対して有用か
CQ22 IL-1 阻害薬は ASD に対して有用か
CQ23 TNF 阻害薬,IL-6 阻害薬,IL-1阻害薬以外にASD に対して有用な生物学的製剤は存在するか
CQ24 ASD の第一選択薬はなにか
CQ25 ステロイドパルス療法は全身型若年性特発性関節炎に対して有用か
CQ26 全身型若年性特発性関節炎において有用な免疫抑制薬はあるか
CQ27 全身型若年性特発性関節炎において有用な生物学的製剤はあるか
第4章 公開後の取り組み
1 公開後の組織体制
2 導 入
3 有効性評価
4 改 訂
第5章 付 録((株)診断と治療社 HP(http://www.shindan.co.jp)にて閲覧可能)
1 クリニカルクエスチョン設定表
2 エビデンスの収集と選定(CQ1~27)
4-1 データベース検索結果
4-2 文献検索フローチャート
4-3 二次スクリーニング後の一覧表
4-4 引用文献リスト
4-5 評価シート(介入研究)
4-6 評価シート(観察研究)
4-7 評価シート(エビデンス総体)
4-8 定性的システマティックレビュー
4-9 メタアナリシス(行った場合のみ)
4-10 SR レポートのまとめ
4-4 引用文献リスト(採用論文のみ再掲)
3 外部評価のまとめ
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序文
発刊にあたり
「症例数が少なく,原因不明で,治療方法が確立しておらず,生活面への長期にわたる支障がある疾患」に対して,2015年1月1日より「難病の患者に対する医療等に関する法律」が施行され,医療費助成が行われた.
古くは,1972年より「難病対策要綱」を基準に,原因の究明や治療法の確立などを目指し,研究班を設置し,臨床調査研究分野,横断的研究分野,重点研究分野,指定研究を設け,研究事業を実施しており,さらに2009年度より,厚生労働省は難治性疾患政策研究事業対象疾患以外の疾患についても,研究奨励分野を設け,診断法の確立や実態把握のため,調査・研究を行ってきた.このような大きな流れにより,難病に対する診療体制の整備や,2015年には難病指定医の指定がなされ,効果的な原因解明,そしてそれに対する治療方法の開発促進が図られることとなった.
指定難病の対象疾患数は,従来の56疾患から増加し2017年4月には330疾患にまで大幅に拡大され,同時に,診断基準による認定と重症度分類による重症度評価が医療費補助に必須条件となった.成人スチル病(ASD)は,2015年1月から新たに指定難病に認定されている.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究班で新たに重症度スコアを作成し,7項目について点数化された.重症度の合計が3点以上であれば重症と認定された.治療薬は,副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の薬物療法が中心である.しかし,その使い方は標準化されておらず,スタンダード医療の制定が必須となった.同班ASD分科会(三村俊英分科会長)を中心とした診療ガイドライン作成委員により「診療ガイドライン」が新たに作成されるに至った.
Minds 2014年に準じて,27個のクリニカルクエスチョン(CQ)を選定し,キーワードを基に世界中の論文を検索し,エビデンスレベルの分類,推奨グレードを決定するという作業が粛々と進められた.作成されたガイドライン案は,HP上でパブリックコメントを求め,最終版は,日本リウマチ学会,日本小児リウマチ学会の承認を得て,極めて公共性の高いメッセージとなった.
本診療ガイドラインは,3年間におよぶ委員の研究成果の結集であり,今後,世界のASD診療を標準化していくうえでも,必携の診断・治療指針となろう.
2017年11月吉日
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業
自己免疫疾患に関する調査研究班 前 研究代表者
筑波大学医学医療系内科(膠原病・リウマチ・アレルギー) 教授
住田孝之
序文
成人スチル病(ASD)の診療ガイドラインがついに日の目をみることになった.
ASDは,日本に5,000人程度の罹患者がいると推定されている稀少疾患で指定難病である.世界的にみても稀少疾患であり,治療法に関してランダム化比較試験(RCT)のようなエビデンスレベルの高い報告はない.そのため,海外も含めてASDのガイドラインは存在せず,治療に関しては経験的に行われるレベルであった.当時の厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究班(研究代表者:筑波大学住田孝之教授)において,2010~2011年にASDの全国疫学調査を行いModern Rheumatology誌上で公表した(Asanuma YF, et al.).その結果も参考に同班においてASDの活動性スコアを作成した.それとともに,世界的にも例のないASDの診療ガイドラインを住田教授のご指導のもと,同班ASD分科会を中心とした作成組織において新たに作成することになった.
ASDは,不明熱の代表的疾患で,リウマチ性疾患に属する原因不明の非感染性・非悪性疾患である.その名称は,小児のスチル病(現在は,全身型若年性特発性関節炎(JIA)とよばれる)とよく似た成人期の疾患で,成人に発症したスチル病という名称で報告されたことに由来する.この成人発症スチル病(AOSD)と全身型JIA罹患後成人期を迎えた成人期のスチル病患者とを併せて,ASDと総称することから,本診療ガイドラインは,AOSDに加えて全身型JIAに関しても理解が必要と考えてスコープに含むこととした.
ASDは,副腎皮質ステロイドが奏効すると一般的に考えられていることから内科系の非リウマチ専門医が診療する場合が多く(上記疫学調査では,ASD推定患者率は,リウマチ専門医診療:内科系非リウマチ専門医診療=1.3:1であった),さらに非内科系医師(整形外科系医師など)が診療することも皆無ではない.その一部は,診療ガイドラインの非存在下では,鑑別・除外診断が不十分か副腎皮質ステロイド治療抵抗性に対する対応が不完全であったため,さらには重症化したため,途中でリウマチ専門医の常勤する施設に転送されている.また,実際の治療法に関しては,上記疫学調査において導入治療として保険適用を有する副腎皮質ステロイド単独治療が行われたのは50%に過ぎなかった.残りの50%には副腎皮質ステロイド大量間歇治療(ステロイドパルス療法)および免疫抑制薬や生物学的抗リウマチ薬などが使用されていた.免疫抑制薬や生物学的抗リウマチ薬はASDには承認されていない(保険適用がない)薬剤である.なんらかの理由で使用されていた訳であるが,これらの薬剤は国内外でのエビデンスを有する,ASD患者にとっては有用な治療である可能性がある.
本診療ガイドラインは,日本で広く使用されているMindsの診療ガイドライン作成法に準拠して作成しており,クリニカルクエスチョン(CQ)に答える形で記載する推奨文の根拠は,広く海外の論文を含めてシステマティックレビュー(SR)を行った結果のエビデンスを優先していることから,本診療ガイドラインにて推奨している内容は日本の保険適用にそっていない場合もある.保険適用がない場合には本診療ガイドラインの本文中に明確にその事実を記載しており,本診療ガイドラインは保険適用がない薬剤を使用するように積極的に進めているわけではない.ただし,実臨床の現場で使用されているのであればエビデンスとしてその根拠を明確に示す必要があるし,今後近い将来に保険適用を取得する可能性もあるので,このような形で本診療ガイドラインを作成した.公表前にはパブリックコメントおよび関連学会にも広く意見を求め,透明性の高いものとした.
本診療ガイドラインの作成は,SRの支援をしてくれた方々,論文検索をお願いした特定非営利活動法人日本医学図書館協会診療ガイドライン作成支援サービスワーキンググループの方々,執筆者の同僚や家族など,多くのアノニマスの方々の力に支えられました.ここに,作成者を代表して感謝の意を表します.
多くの方々の総力の結集である本診療ガイドラインが,専門医をはじめとして診療に関わる医師,メディカルスタッフ,専攻医,研修医,医学生および医療系の学生,非医療職で患者と触れ合う方,患者およびご家族の方,そして一般の方など,多くの方々にとってASDに関する標準的診療を理解する最良の書となることを祈念しています.
2017年11月吉日
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業
自己免疫疾患に関する調査研究班 成人スチル病分科会 会長
埼玉医科大学リウマチ膠原病科 教授
三村俊英