新しい疾患概念である「自己炎症性疾患」は,不明熱として診療されることも少なくなかったが,近年の遺伝子検査等で病態の解明が急速に進んでおり,生物学的製剤などによる疾患特異的な治療が可能となってきている.本ガイドラインでは,最新の知見を盛り込んだ自己炎症性疾患の概要と,推奨される治療を丁寧に解説している.自己炎症性疾患に携わる医師だけでなく,一般小児科でも活用されたい診療ガイドラインである.
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目次
自己炎症性疾患診療ガイドライン2017 発刊に寄せて
序文
CQ・根拠の確かさ一覧
略語一覧
作成組織・委員一覧
第1章 ガイドラインについて
Ⅰ背景・目的と使用上の注意
本診療ガイドライン作成の経緯と目的
本診療ガイドラインの対象疾患
本診療ガイドラインの利用者
利用上の注意
Ⅱ本診療ガイドライン作成組織
診療ガイドライン作成
診療ガイドライン作成資金
利益相反
Ⅲ重要臨床課題・アウトカムとクリニカルクエスチョン
重要臨床課題の選択
アウトカムの抽出
クリニカルクエスチョン(CQ)
Ⅳシステマティックレビュー,エビデンスの質の評価と推奨の作成
システマティックレビューでの論文採用基準
システマティックレビュー
推奨の作成
第2章 疾患の解説と推奨
A 家族性地中海熱
Ⅰ疾患の解説
Ⅱ推奨
B クリオピリン関連周期熱症候群
Ⅰ疾患の解説
Ⅱ推奨
C TNF受容体関連周期性症候群
Ⅰ疾患の解説
Ⅱ推奨
D メバロン酸キナーゼ欠損症(高IgD症候群・メバロン酸尿症)
Ⅰ疾患の解説
Ⅱ推奨
E ブラウ(Blau)症候群
Ⅰ疾患の解説
Ⅱ推奨
F 周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頚部リンパ節炎症候群
Ⅰ疾患の解説
Ⅱ推奨
文献検索式
資料 スコープ
スコープ
索引
構造化抄録は下記ホームページの本書紹介ページにて掲載
[http://www.shindan.co.jp]
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序文
自己炎症性疾患診療ガイドライン2017
発刊に寄せて
本書は,わが国はじめての自己炎症性疾患のための診療ガイドラインである.その歴史的意義は大変大きい.
自己炎症性疾患という疾患概念はほぼ今世紀になってから確立したものであるが,医学全体に与えたインパクトは非常に大きい.自然免疫とその異常,炎症性サイトカインによる病態形成メカニズムが明らかにされ,炎症にかかわるさまざまな分子の構造と機能も次々と解明されてきた.これまで自己免疫疾患と考えられてきた数々の疾患も,実は自己免疫という機序を介さずに全身炎症をきたす自己炎症性疾患であると考えられるようになった.それどころか,明らかに自己免疫機序による膠原病や血管炎においても,その病態形成は自己抗体よりも炎症性サイトカインが大きく関与していることが明らかとなっており,そのように考えられるようになったのも自己炎症研究の成果によるところが大きい.それはサイトカインをブロックする生物学的製剤の驚くほどの効果によっても強く支持されていると言える.そのような意味で,膠原病や免疫疾患の診療において自己炎症性疾患への理解が非常に重要となっている.今や自己炎症性疾患の知識なくして膠原病・免疫疾患の診療はできないと言っても過言ではない.ただし膠原病・免疫疾患への理解は自己炎症性疾患の診療に必須であり,逆もまた真ということである.
日本小児リウマチ学会では早い時期から自己炎症性疾患に関するワーキング・グループを立ち上げ,これまで小児慢性特定疾病の対象に自己炎症性疾患を加えると同時に診断の手引きを提供している.さらに今回の診療ガイドラインの発刊によって,全国に自己炎症性疾患の病態理解,診断,治療の普及と標準化に大きく貢献することが期待されている.本ガイドラインは平成26〜28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「自己炎症性疾患とその類縁疾患の診断基準,重症度分類,診療ガイドライン確立に関する研究」班(研究代表者/平家俊男)の皆様を中心に多くの方々のご努力によって制作されたものであり,そのご努力に対して深い尊敬と感謝の念を捧げるものである.若年性特発性関節炎をはじめ小児の膠原病諸疾患の診療ガイドラインも間もなく発刊される予定であり,これらが一通り出揃うことで,わが国の膠原病・免疫・炎症性疾患の診療が大きく進歩し,これらのいわゆる難治性疾患から子ども達を解放してあげられるようになることを祈るものである.
2017年10月
一般社団法人日本小児リウマチ学会
理事長
伊藤保彦
序文
自己炎症性疾患という命名は,1999年TRAPSの原因遺伝子としてTNFRSF1Aを報告したCellの論文においてKastnerらが使用した“autoinflammatory syndrome”という造語に端を発する.自己免疫疾患の中心が自己抗体や自己反応性T細胞の出現に象徴される獲得免疫系の異常であるのに対して,自己炎症性疾患は主として自然免疫系の異常により発症し,自己抗体や自己反応性T細胞は通常同定されない.臨床的には周期性発熱/不明熱を主症状とし,関節炎/関節痛や発疹,腹痛等の消化器症状を伴うことが多く,リウマチ・膠原病領域の重要な鑑別疾患である.自己炎症性疾患は単一遺伝子異常による疾患から多因子遺伝性,非遺伝性の疾患まで多彩である.
私達の日常の診療において,今まで不明熱として診療されてきた疾患の中に,この自己炎症性疾患に分類される病態が埋没していることが,近年の遺伝子検査等の結果明らかとなりつつある.自己炎症性疾患は,遺伝子検査等で確定診断を行うことで疾患特異的な治療が可能であり,患者さんにその成果が有意義に還元できるケースが多い.一方,自己炎症性疾患は新しい疾患概念であるため,病態解明が不十分であり,標準的治療が定まっていないケースもあり,教科書通りの理解に留まっているとその診療に大きな問題を残すことになる.
このような状況下,平成26年度からの厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「自己炎症性疾患とその類縁疾患の診断基準,重症度分類,診療ガイドライン確立に関する研究」班,日本小児リウマチ学会のご協力を頂き,このたびこの「自己炎症性疾患診療ガイドライン2017」の発刊にたどり着くことができた.希少疾患である自己炎症疾患の診療ガイドラインを,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に則って編み上げるにおいては,多くの方々から多大なる叡智を頂いた.最新の知見に基づいた内容となっており,自己炎症性疾患診療に携わる医師に,是非診療にご活用頂きたい一冊となっている.
最後に,本ガイドラインにより,多くの方々に自己炎症性疾患に興味を持って頂くことができ,自己炎症性疾患診療の質の向上と新たなエビデンスの創出に資するところになることを期待している.
2017年10月
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業
「自己炎症性疾患とその類縁疾患の診断基準,重症度分類,診療ガイドライン確立に関する研究」班
研究代表者
平家俊男