2102子どものPTSD
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2国内での子どものトラウマへの関心の高さ 昨今,子どもがストレスを受けやすくなったといわれる.人間関係や他人との競争に悩むのは,何も大人だけではない.家庭や学校の現場で子どもたちもストレスに直面する場面が多いからである.環境への順応は,子どもが生きるのに不可欠な力であるが,その分,子どもが環境から受ける影響も大きい.子どもの場合,事故,災害などの非常事態のほか,転居や転校,家族との離別,死別は当然のことながら衝撃的な出来事(ストレス)になりうる.a 子どものトラウマ(心的外傷)とは 阪神・淡路大震災や東日本大震災以降,強いストレスとなるような体験がいかにヒトのこころに影響を与えるかについて,精神医学的,あるいは臨床心理学的関心が,わが国においてもよりいっそうの高まりを見せてきている.こうした関心の高まりは,強いストレスとなるような,様々な経験をした人の精神医学的・臨床心理学的問題を,心的外傷,すなわちトラウマという観点から把握するという試みを生じせしめるに至った. トラウマという概念が,今日のメンタルヘルスの領域において重要視されている理由の一つは,様々な精神医学的問題において,この概念が果たす役割が非常に大きいのではないかと考えられることである.子どもにとっても大人にとっても,突然,自分が死にそうな出来事を体験することはトラウマになりうる.たとえ死に至らなくても自分自身が重傷を負いそうになったり,実際に重傷を負うような出来事を体験したりする場合もあてはまる.また自分は何ら被害がなくとも,他人の死や,人が重傷を負うような場面に遭遇し,その現場を目撃する場合もあてはまる.こういった一連の体験を通して,強い恐怖や無力感を感じるようになることを「トラウマ」と呼んでいる. 子どもたちが受けるトラウマの大きさは,非日常的な自然災害であれ日常的な親からの児童虐待であれ,計り知れないものがある.生命の危機に至らないケースでも,こうしたトラウマは子どもたちに重篤な影響を与え,その発達を障害するように働くことがある.そしてそれにより,従来の「発達障害」の基準に類似した症状を呈する場合がある1).A PTSDとはⅠ章 子どものPTSDとは子どものPTSDが近年注目される理由1福井大学子どものこころの発達研究センター 友田明美

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