2102子どものPTSD
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1.子どものPTSDが近年注目される理由第Ⅰ章子どものPTSDとは3b 子どものPTSD(心的外傷後ストレス障害) 子どもが“こころ”の傷を負ったあとに,様々な精神的,あるいは身体的症状を起こすことがある.その状態をPTSDと私たちは呼んでいる.PTSDは“post traumatic stress disor-der”の略であるが,日本語では“心的外傷後ストレス障害”と呼ばれている.私たちのこころは,知覚・感情・記憶など様々な機能を統合している.近年,ヒトのこころの機能に関する研究は,生きたまま脳活動を可視化できる非侵襲的脳機能計測の発展と普及に伴い,急速に学際的な研究へと様変わりしてきた.しかし,子どものこころを理解するためにはまだ未知の部分が多分にある.c PTSDとは PTSD(心的外傷後ストレス障害)は,突然の衝撃的な出来事を経験することによって生じる特徴的な精神障害のことである.危機的な外傷経験を契機に,持続する不安や恐怖を伴った過覚醒がみられる病態である. ほかの精神障害にはない特徴として,明らかな原因の存在が規定される点があり,その診断のためには,災害・戦闘体験・犯罪被害など,強い恐怖感を伴う体験をもつことが必須になる.それに家庭環境など各個人の要因が加わって,発症するかどうかが違ってくる.治療においては原因そのものよりも,まずは症状に注目することが重要で,主要な症状としては,「再体験」,「回避」,「過覚醒」がある.1)再体験 「再体験」とは,過去の体験を意図せずに繰り返し思い出してしまい,苦痛を感じることである.夢にみてうなされたり,ふとした拍子に蘇り,体験した時点に引き戻されたかのような感覚,さらには動悸・発汗・震えなどの身体的な反応を伴う.また,出来事を連想させるような物事に触れると,苦痛を感じてしまう.子どもの場合,大人に比べて抑制が効かないことが多いので,突然興奮して過度の不安状態や緊張状態に陥ったり,パニックやけいれんを起こしたりする.また,その体験を思わせる遊びや話を繰り返すことが特徴的で,早急にこの再体験を伴う反復行動をやめさせていくことが重要である.突然人が変わったようになったり,現実にはありえないことを言い出したりする行動も,再体験の表れである.2)回避 「回避」は,原因となった出来事に関する事柄を避けようとする肉体的・精神的な行動のことである.一般的には,その出来事のことを考えたり話したりすることを避けるようになる.思い出すこともいやがり,逆に意識的に思い出そうとしても,肝心な内容が思い出せなくなったりもする.離人感と呼ばれる,「自分が自分でなくなるような」症状が出てくることもある.こうなると,好きだったはずの物事に以前のような関心がもてず,周囲との間に壁ができたように感じて疎遠になる.また感情が自分のものとして感じられず,愛情や幸福感などの自然な気持ちが薄まってしまったような感覚を受ける.将来のことなども,自分のこととして考えられない. 子どもの「回避」症状は,普段より活動性が低下するところからはじまることが多いという特徴がある.表情や会話が乏しくなり,ぼーっとしていたり,引っ込み思案になった

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