2102子どものPTSD
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A PTSDとは4り,さらには食事などの日常の行動にも支障が出てくる.もちろん勉強への集中力も低下し,記憶力も下がるようになる.また観察していると,好きだったはずの物事へ関心を示さなくなっていることもある.3)過覚醒 「過覚醒」は,気持ちが落ち着かず,いつも興奮しているような状態である.具体的には,眠れなくなったり,些細なことに苛立って怒りっぽくなったりすることが続く.また危険に対する警戒心が過剰で,些細な物音にでも激しく反応してしまう.子どもは,いつも怯えて,そわそわして落ち着かず,少しの刺激にも激しく反応して驚いて泣き出したりする. 特に年少の子どもたちに過覚醒状態が長く続くと,本来一過性であるべき状態が永続し,ひいては「体質」に変わってしまうと警告されている.突然の衝撃や恐怖は,安心や安全への信念を歪め,思考を機能不全状態に陥らせる.ふたたび同じ目に遭うかもしれないという怯えで,どんな状況も安全ではなく,他人すべてが危険に見えてしまう.また,強いトラウマに操作され自己コントロールを見失ってしまうため,自分の価値を疑い,誰にも愛されることなどないと思い込んでしまう.そして,そんな心理状態に自分でも違和感を覚え,自分がおかしくなってしまったと捉えて,さらに悪循環を招いていく. 例えば,身近な人間を亡くすことで,救うことができずに生き残ったことへの罪悪感と,その感情に対する周囲の無理解への怒りという形で,PTSDが出現することもある.抑うつ感からくる過度の罪悪感により,生き残ったこと,災害に立ち向かえなかったことへの後悔にしがみつき,そこから立ち直ってもらおうとする周囲の援助を,無理解と捉えて怒りを抱く. このように,災害による害は直接的なものだけではなく,その後も内的・外的に様々な形で人を孤立させる.内的なものとしては先述した周囲への信頼感の喪失,自らの強烈な体験を意味づけることの難しさなどがある.外的な困難には,事件による特殊な立場や怪我などの実生活上の問題が浮上するだろう. これらは,小さな子どもや低学年の児童では退行反応として表れる.それが「赤ちゃん返り」と呼ばれるものである.それまでと打って変わって聞き分けが悪くなり,親の側を離れられなくなったり,暗くなると不安がって一人で眠れず,指しゃぶりや夜尿などが復活したりすることもある.こういう場合には無理に矯正しようとするのではなく,温かく見守っていってあげることが大切である. 小学校高学年以上の児童では,健康に影響が出たり,問題行動となって表れたりする.具体的には,体の不調やアレルギーなどの持病が悪化,また衝動性のコントロールが低下して周囲に攻撃的な態度を見せたり,自己価値観や自己肯定感が下がってしまったりする.学校での学習に支障が出て成績が下がり,二次的にも症状に増悪がみられることもあるので注意が必要である.d 子どものトラウマの原因 子どものこころは,日常の様々な出来事で傷つくことがある.例えば,児童虐待がある.

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