2102子どものPTSD
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1.子どものPTSDが近年注目される理由第Ⅰ章子どものPTSDとは5近年,児童相談所での児童虐待相談対応件数は増加の一途をたどり,2012年度は66,000件を突破した.児童虐待は,その多くが子どもを死に至らしめ,たとえ生命の危機に瀕しなかった場合でも,うつ病やPTSDをはじめとする重篤な精神疾患や人格障害を患わせる.その脳病理学的背景として,虐待を受けることで社会性を司る脳領域に形態異常(萎縮や肥大)や機能異常(脳活動性異常)がもたらされていることも明らかになってきた2)3). このほかにも,事故,災害,殺傷,学校での体罰・いじめなど,子どもたちが深い“こころ”の傷を負ってしまったときには症状も深刻で,癒やされにくいといわれている.癒やしのためにはとても長い道のりが必要である.また,子どもをストレスから守ることはとても重要である.現代の少子化社会の中で確実に子どもの数は減ってきているが,増え続ける児童虐待や深刻化する子どもの問題行動など,母子保健,教育,児童福祉など多領域にわたる問題の解決に向けて,私たちは今まで以上に取り組んでいかねばならない.子どものトラウマに向き合う必要性 環境への順応は,子どもが生きるのに不可欠な力である.しかし,その分,子どもが環境から受ける影響は大きいものがある.たとえ子どもたちがPTSDを発症したとしても,脳の構造を詳細に検討できるようになった今日,薬物治療をはじめとした様々な治療を早期に行うことでPTSDが重症になるのを食い止めることが可能となる時代がそこまで来ているのかもしれない.次世代を担う子どもたちの心身の健康を護り,よりよい発達を促し,PTSDに罹患した子どもたちの状態を改善するためにも,私たちは可能な限りの努力をしていかなければならない.文 献 1) 杉山登志郎.子ども虐待への新たなケアとは.講座 子ども虐待への新たなケア(学研のヒューマンケアブックス).学研教育出版,2013.6-19. 2) 友田明美.新版いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳.診断と治療社,2012:1-151. 3) Teicher MH, Samson JA. Childhood maltreatment and psychopathology:a case for ecophenotypic variants as clinically and neurobiologically distinct subtypes. Am J Psychiatry 2013;170:1114-33.●●

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