2110小児栄養消化器肝臓病学
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25顔色,表情,活発さ,体位,歩行状態,バイタルサインなどから,危急症かどうか判断する.緊急性が高い場合は処置・治療が優先されるが,多くの場合,同時進行で診断的アプローチを進めていく.2.病歴聴取 患児の状態が安定していれば,時間をかけて病歴聴取を行う.確認すべき項目として,患児の年(月)齢,発症時間,経過時間,疼痛の程度,部位,排便状態(便秘の有無など),随伴症状(下痢,嘔吐,血便,吐血,発熱,体重減少,月経異常など),痛みの経過(持続的か間欠的か,改善傾向の有無,増強,急性,慢性),食事との関係(空腹時,食後),治療歴(薬剤服用の有無),既往歴(アレルギー,消化器疾患や腹部手術の既往など),家族歴(家族内同症状の有無など),などがある.慢性腹痛では,ストレス環境の有無や自律神経障害の諸症状も確認項目になる.3.視 診 乳児期では,発作的に火がついたように激しく泣き,泣きやまず,表情も険しく苦悶状,四肢が屈曲位になるときは,腹痛が強いことが推察される.幼児期も表情や態度,顔色,グッタリ感,姿勢,歩行などは参考になるが,保護者の訴えと患児の状態に乖離があるときは,しばらく経過観察する.消化管など管腔臓器のれん縮は,一定のサイクルで繰り返す.そのため,痛み(不機嫌)はしばしば間欠的になる. 著明な腹部膨満は,どの年齢層においても病的所見である.その原因が鼓腸によるものか,腹水によるものか,実質臓器や腫瘤・腫瘍によるものか,後述する触診,波動,打診などで確認する. 年長児であっても全身の視診は重要である.特に皮疹(各種感染症,アレルギー疾患など),黄疸(肝炎),紫斑〔IgA血管炎(Henoch—Schönlein紫斑病)〕,鼠径部(鼠径ヘルニア嵌頓),外陰部(精巣捻転)などに注意する.その他,炎症性腸疾患や膠原病など固有の疾患の腸管外合併症などにも気をつけておくと,診断の手がかりとなる.4.聴診・触診 聴診では,腸蠕動音の聴取が重要である.一般的にイレウスでは蠕動音は亢進するが,特に特有の金属音を聴取するときは機械性イレウスを疑う.麻痺性イレウスでは腸蠕動音が低下する.急性胃腸炎では病期によって亢進~低下と一定でない. 触診では,圧痛点・徴候(McBurney圧痛点,Lanz圧痛点,Blumberg徴候,Rosenstein徴候など),腹膜刺激症状(反跳痛,筋性防御など),腫瘤触知,波動,肝脾腫などの所見を確認する.痛みを言葉で表現できない児や診察室で緊張して表現できない児では,患部を圧したときの不快な表情や防御反応が参考になる.ただ乳幼児では圧痛点や腹膜刺激症状などの所見が明確に出ないこともあり,注意が必要である.前述した疾患特有の関連痛のポイントを知っておけば診断に有用である.鑑別疾患・検査1.鑑別疾患(表1) 腹痛の原因は多岐にわたるが,プライマリ・ケアの現場で遭遇する軽症例については,前述した病歴の聴取,随伴症状や身体所見の観察を丁寧に行うことによって,その鑑別は比較的容易である.その多くは,感染性胃腸炎を主体とする急性胃腸炎や便秘症である.しかし,排便後も軽快しない中等度以上の腹痛,緊急的な処置・治療を必要とする急性腹症,数週間から数か月間も反復したり持続する腹痛,さらに長期的に続く慢性腹痛については,得られた臨床所見から年齢別,病期別,部位別に分類し2),鑑別する疾患を絞りながら同時に下記の検査を進めていかなければならない.2.検 査(表2) 第一ステップのスクリーニング検査と疾患を特定するための次のステップの検査に分かれるが,後者は網羅的に実施すべきものでなく,診断過程のなかで選択されるものである. 実際の日常診療では,腹痛患児の診断に苦慮するケースは少なくない.特に,診断確定に時間的余裕のない急性腹症では,早めに小児外科医と連携すべきである.急性虫垂炎と類似症状を呈する疾患として,Meckel憩室炎,重複腸管,腸重積,大網梗塞,卵巣腫瘍による茎捻転,骨盤内炎症,内科疾患として腸間膜リンパ節炎,回盲部エルシB 症 候

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