2110小児栄養消化器肝臓病学
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185185各 論概 念 胃内容物が食道内に逆流する現象が胃食道逆流現象(gastroesophageal reflux:GER)であり,何らかの症状(表1)や合併症を伴うものを胃食道逆流症(GER disease:GERD)という. GERDは機能性腸疾患(functional gastrointesti-nal disorders:FGIDs)であり,Rome IIIの症状分類のなかで嘔吐や溢乳,反芻の項目に扱われている.また専門家によるコンセンサスガイドラインとしてMontreal Definition of GERDがあり,そのなかでGERDとは「胃内容物の逆流によって不快な症状あるいは合併症を起こした状態」と定義されている. わが国では日本小児消化管機能研究会および日本小児栄養消化器肝臓学会共同で検討され,2006年に小児胃食道逆流症診断治療指針として発表されている1).この指針は症状(反復する嘔吐,吐血・下血,呼吸器症状,その他)により群分けし,検査と試験的治療を組み合わせることにより,侵襲的な検査が過剰に行われることがないように配慮されている.疫学・病因 食道・噴門の通常の運動機能によって嚥下された食物は,嚥下波が順次下方に伝わり,噴門が弛緩し胃に送り込まれる.「げっぷ」は嚥下を伴わない短時間の一過性の下部食道括約部(lower esophageal sphincter:LES)の弛緩(transient LES relaxation:TLESR)により起こり,このとき,嚥下波がないため食道は弛緩している.「げっぷ」は胃内のガスを排出するための生理的機構で,迷走神経を介した自律神経反射であり,咽頭刺激と胃内圧上昇が刺激になる.もしこの排出機構がなければ,嚥下のたびに飲み込まれた空気(1回の嚥下で約15 mL)により,胃腸は拡張しきってしまう. GERの原因はこのTLESRが60%であり,食道裂孔ヘルニアなど逆流防止機構の障害や未熟性によるLES圧の低下は10%に過ぎない2).健康な人(児)でもGERは存在し,どの程度のGERをGERDとして治療の対象とするかについては明確でない.また,pH4以下でペプシノーゲンが活性化されペプシンに変わるため,胃液が食道に逆流した際に自己消化が起こり,食道炎,食道潰瘍や咽頭炎などの原因になる.臨床症候 原因の如何にかかわらずGERが臨床上問題となるのは,逆流による症状や合併症のためである.表1に小児GERDの症状を示した.Montreal Defini-tion of GERDでは,食道症状と食道外症状に分け,後者のなかにGERDと関連性が確認されたものとして咳嗽,喉頭炎,喘息,歯牙酸蝕があげられ,関連が推測されるものとして咽頭炎,副鼻腔炎,反復性中耳炎,肺線維症があげられた3).小児のGERの主症状は嘔吐であることが多いが,通常,胃食道逆流症B 食 道胃食道逆流症,食道裂孔ヘルニア3B 食 道表1 胃食道逆流症(GERD)の症状I.消化器症状嘔吐,吐血,下血,哺乳不良,反芻運動II.呼吸器症状慢性咳嗽,喘鳴,反復性呼吸器感染,ALTE(apparent life‒threatening events),無呼吸III.その他胸痛・腹痛,貧血,体重増加不良,不機嫌,咽頭痛,姿勢異常(首を横に傾げたような姿勢をとる:Sandifer症候群)

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