2154EBウイルス 改訂第3版
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1461はじめに 現時点で判明しているEBウイルス(EBV)の消化管疾患への関与として最大のものは胃がんである.1990年のBurkeらの報告以来,胃がんにおけるEBVの関与について,多くの知見が得られてきた.しかしその一方で,胃がんの発生においては,らせん状桿菌であるHelicobacter pylori(ピロリ菌)の胃における慢性感染が主要な役割を果たしていると考えられている.ヒト胃粘膜を舞台としたこれらEBVとピロリ菌のクロストークは,極めて興味深い研究分野であるが,残念なことに,この分野は未だほぼ手付かずの状況にある.胃がんにおけるEBVの関与の解明には,胃がん病変そのものや胃がん細胞株を対象とした研究のみならず,その背景であるピロリ菌陽性慢性胃炎を対象としたEBV感染の面からの検討が必須と考えられる. 初感染以降の生体内でのEBVの消化管上皮組織・消化器系臓器における感染細胞の局在や動態の全貌は,未だ未解明である.また,全身の原因不明の慢性炎症や低悪性度腫瘍においてEBVの関連が取り沙汰されることが多いが,このような観点から,消化管においては炎症性腸疾患におけるEBVの検索が興味深い.消化管の慢性炎症におけるEBVの関与の検索は,様々な消化管疾患の病態の解明に寄与するものと期待される.2急性胃炎・胃十二指腸潰瘍とEBV 消化器内科の臨床においては,ピロリ菌の発見以前より,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion;AGML)とよばれる病態が知られていた.これは,急性に発症し明確な誘因と臨床的な消化管出血を伴うことが多く,内視鏡的には出血性胃びらん・急性出血性胃潰瘍や時に十二指腸潰瘍も伴う病態である.ピロリ菌の発見後は,AGMLの一部はピロリ菌初感染によると考えられてきたが,EBV関連胃がんの発見の後は,AGML類似の病態におけるEBV検出の報告が散見されている. Kitayama Yらは,ピロリ菌陰性の40歳男性,胃体部前後壁の多発潰瘍において,生検でB細胞主体の異型リンパ球のびまん性浸潤を認め,異型リンパ球がEBER—in situ hybridization(ISH)陽性であった症例を報告している.この症例は,伝染性単核症の部分症と判断され,2週ほどで軽快した1).また,Chen ZMらも,CTで胃壁の肥厚を指摘された59歳男性において,胃内視鏡検査で多発胃びらんを認め,胃生検でびまん性の異型リンパ球浸潤(T,B混在)とlymphoepithelial lesionを指摘された症例を報告している.ピロリ菌は陰性.抗EBV VCA IgM陽性かつIgG陰性.これらの結果より,胃病変は伝染性単核症の部分症と判断された.胃壁浸潤リンパ球の多数はEBER—ISH陽性.2週ほどで軽快した2).これに対してLavin ACらは,仕事上のストレスを契機に発症した49歳男性の多発十二指腸潰瘍(びらん)において,EBV抗体は既感染パターン,生検で炎症細胞浸潤を認め近傍上皮細胞がEBER—ISH陽性であった症例を報告している.この症例はピロリ菌は陰性であり,EBV再活性化による十二指腸潰瘍であったのではないかと考察されている3). これらの報告からは,EBVの初感染や再活性化に伴う上部消化管粘膜の炎症性変化が,急性胃炎や消化性潰瘍の一部において発症の引き金を引いている可能性が示唆される.これらの報告例はピロリ菌陰性であり一過性に治癒しているが,ピロリ菌陽性の場合はその後の経過はどのようになるのであろうか.ピロリ菌除菌により消化性潰瘍の再発がほぼゼロとなることはよく知られているが,これら消化性潰瘍初発の状況には依然不明な臨床12消化管の慢性炎症

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