2182睡眠の生理と臨床 改訂第3版
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泌抑制因子(growth hormone inhibiting factor:GIF),あるいはソマトトロピン放出阻害因子(somatotropin release-inhibiting factor:SRIF)とも称される〕の分泌を高める.ソマトスタチンは成長ホルモンの作用を仲介するインスリン様成長因子I(insulin like growth factor I:IGF-I,またはソマトメジンCとも称される)によって放出が促進され,成長ホルモン分泌を抑制するが,一方でレム睡眠を促す.GMCSFのレム睡眠誘導作用はソマトスタチンを介している可能性が大と考えられている.なお成長ホルモン分泌促進因子(growth hor-mone releasing factor:GHRF)は成長ホルモンの分泌を促す一方で,徐波睡眠を誘発する.このために入眠期の徐波帯域の活動量と相関して成長ホルモンが分泌される.成長ホルモン放出促進ペプチドの受容体群の内因性リガンドであるグレリンには徐波睡眠誘発作用(Weikelら,2003)のほか,食欲を増進し,体重を増やす働きがあり,エネルギーバランスに重要な役割を演じている(Kojimaら,1999).ただしグレリンがノックアウトされたマウスでも,基本的な睡眠覚醒機構は保たれている(Szentirmaiら,2007). 有機臭化化合物であるガンマブロムのレム睡眠増加作用(Toriiら,1973),oleamideという内因性の脂質の睡眠誘導作用も報告されている(Cravattら,1995).さらに覚醒(Xuら,2004)と不安(Okamura & Reinscheid, 2007)をもたらす物質(Neuropeptide S:NPS)も同定されている.e 香料と野菜の成分 ラベンダーやオレンジの香りには睡眠促進効果があり,逆にジャスミンの香りには興奮作用がある.またレタスの成分ではラクチュコピクリンやラクッシン,セロリの成分ではセリネンが睡眠誘発に有効な成分といわれている.さらに漢方薬の他,最近は機能性食品として眠りに好影響をもたらす物質(テアニン,発酵乳,アラキドン酸,グリシン,ミルクペプチド)も種々報告されている〔本多(監),2007〕.a 成長ホルモン1)成長ホルモンと睡眠 成長ホルモンの分泌は生後3~4カ月頃から睡眠中に有意に高くなり(Vigneri & D’Agata,1971),4~6歳過ぎになって入眠期に多量に分泌されるようになる(Underwoodら,1971;Illigら,1971).分泌量は思春期以降加齢とともに減少する(Hoら,1993).当然,断眠すると入眠期が消失し成長ホルモンの分泌ピークは認められなくなるが,断眠翌日の昼寝に際し,成長ホルモンの高い分泌ピークが認められる(図5-3:Van Cauterら,1998;Spiegelら,2000).また通常の夜間睡眠をとった場合と,完全断眠を行った場合とで24時間の成長ホルモンの分泌量を計算すると,断眠の場合,夜間の分泌ピークは消失するものの,これを補う形で日中に分泌ピークが頻回に出現し,両者で24時間の成長ホルモンの分泌量に有意な差異を認めない(図5-4:Brandenbergerら,2000).さらに睡眠時間を1週間毎日4時間に制限した時点での成長ホルモンの24時間の分泌パターンを,睡眠時間を1週間毎日12時間に延長した時点でのそれと比較したところ,睡眠時間が制限されると成長ホルモンの分泌が二相性となり,入眠後のピークに先行して,入眠前のいわば通常の入眠時刻に一致した分泌ピークが観察され,成長ホルモンが分泌している時間は,睡眠時間を制限したほうが延長するという結果も得られている(図5-5:Spiegelら,2000).睡眠時間が制限されると代償機構が働く結果と考えられるが,その詳細は不明である.成長ホルモンの分泌は入眠時刻が早まっても,遅れても,また眠りが妨げられたあとの再入眠に際しても,睡眠開始が引き金となって生じ(Van Cauter,2011),夜間勤務者においても主たる成長ホルモンの分泌は眠りの前半に生じる(Weibelら,1997).以上成人を対象とした実験では,睡眠時間やその時刻は成長ホルモンの分泌に影響しない.無論小児の場合にも同様なのか,また成長ホルモンの分泌量に大きな差異がなくと2.眠りとホルモン第Ⅰ部 基礎編37眠りと物質5

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