2204看取りの医療 改訂第2版
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102Ⅳ 緩和ケアと看取りの医療コミュニケーションを通して初めて気持ちが楽になるからです.ただこの場合には,言葉によるコミュニケーションは当然ですが,それ以外の手段でのコミュニケーションが非常に大切になります.言葉でうまく表現できない子どもは,遊びや音楽やお風呂などの生活の介助などあらゆる場面においてかかわることが,子どもの生きる質を向上させます.家族の生きる質を向上させることになります.またときには悲嘆にくれるご家族の横で何の会話も成り立たないこともあります.でもそんなときにこそ,何気なく家族のそばに寄り添ってあげることが,ご家族の支えになり得ます.こういった無言の肯定的なかかわりもすべてコミュニケーション・スキルの大切な要素のひとつなのです.難病や小児がんをもった家族,特に母親は大変な罪責感に苛まれます.なぜ元気に産んであげられなかったのか,なぜ障害を残してしまったのか,なぜ治してあげられないのか,なぜ死なせてしまったのか.時にその罪悪感は攻撃性となって他者に向けられますが,自分自身に向かう場合には激しい不安や虚無感やうつ症状に襲われます.こういった難病をもつ親の心理特性を理解していることが,心理的サポートを担うスタッフには必要とされているのです.3)デシジョン・メイキング(decision making)の援助 急性期の治癒をめざしている段階から,慢性期あるいは病気が進行して治癒が困難な段階に移っていくにあたり,その状態を受け入れていく心理過程を指します.病気の治癒に重点を置いて毎日を過ごすのではなく,患者のQOLに重点を置いて過ごすことを援助していきます.現場ではギアチェンジするといった表現が使われる場合もあります.ただ,先の心理的支援の項目でも述べましたが,母親は子どもの病気に対して大変な罪悪感をもっています.そして病気の治療をあきらめてしまうことに対しても,激しい罪悪感を示します.そういった心理特性を理解しながら,治療以外の大切なことがらに穏やかに目を向けていくようにします.具体的にはお出かけや,メモリアルパーティーや,一緒の食事などを通して家族が一緒に支え合いながら,生きている瞬間・瞬間の貴重さに焦点をあてていくようにします.4)ビリーブメント・ケア(bereavement care) 親しい人の死別後の心の悲しみに対するケアを指します.人によってその悲嘆の現れ方はさまざまです.場合によって死後十年以上経ってから初めて大きな精神的な悲嘆が表現される場合もあります.私たちの病院は全室が個室で亡くなった後も気持ちの整理がつくまでやさまざまな準備が整うまでは,部屋で家族でゆっくり過ごして貰うようにしています.病院から送り出すときは皆で見送るのはもちろんですが,正面玄関から顔には覆いをかけずに,生前好きだった曲を流しながら旅立ちを見送ります.こういった特別な計らいが可能なのは,単独型のホスピス病院の強みのひとつです.また胸にはスタッフの手作りの金メダルをかけて,その生前の頑張りに敬意を表します.また亡くなった後,2か月ほど経った頃にご自宅に担当スタッフが訪問し,病院での楽しかったことやまた闘病中の苦しかったことなどの気持ちを聞いて,想いと時間を共にします.また年に1回亡くなった家族を対象に遺族会を開いて,遺族の想いを共有します.また病院では,亡くなった子どもの家族がいつ来られ

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