2204看取りの医療 改訂第2版
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2Ⅰ 総 論日常臨床に根ざした倫理的な問題を検討する必要性があるのではないかという問題提起がなされ,それに呼応した倫理研究者などとの共同作業により,臨床倫理clinical ethicsという考え方が発展してきました3). 一方日本では,医療倫理,特に人を対象とした研究に関する倫理に対しては,倫理委員会が通常機能をしていますが,医療現場の臨床倫理に関しては現場のスタッフが抱え込むことが多く,倫理委員会が十分な機能を果たしていません.そのため医療現場の多くのスタッフが倫理的ジレンマに悩んでいます. 臨床倫理という言葉を最初に用いたSieglerらは臨床倫理の目標を,「日常診療において生じる倫理的課題を認識し,分析し,解決しようと試みることにより,患者を向上させること」4)としています.白浜は,現時点での日本における臨床倫理の定義を「クライエントと医療関係者が,日常的な個々の診療において発生する倫理的な問題点について,お互いの価値観を尊重しながら,最善の対応を模索していくこと」としました.その具体的な対応の一つの方法としてJonsenらの提唱する「医学的適応」「患者の意向」「情報収集」「周囲の状況」からなる臨床倫理の4分割法5)(表1)が,わが国に紹介され大学や教育の場で応用されています. 近畿大学医学部付属病院では,こうした医療における倫理問題を臨床倫理と位置づけ,次のように公にしています2). (1)医療を受ける人々の権利を最大限尊重するとともに,医療を受ける人々の最善の利益4 近畿大学医学部付属病院の臨床倫理(ホームページより)表1●Jonsenの4分割法Medical Indication 医学的適応(恩恵・無害の原則:Beneficience・Non‒malcifience)〈チェックポイント〉1.診断と予後2.治療目標の確認3.医学の効用とリスク4.無益性(futility)Patient Preference 患者の意向(自己決定の原則:Autonomy)〈チェックポイント〉1.患者の判断能力2. インフォームド・コンセント (コミュニケーションと信頼関係)3.治療の拒否4.事前の意思表示(living will)5.代理決定(代行判断・最善利益)QOL いのちの輝き・いのちの質(幸福追求:Well‒being)〈チェックポイント〉1.QOLの定義と評価2.誰がどのように決定するか  偏見の危機,何が患者にとって最善か3.QOLに影響を及ぼす因子Contextual Features 周囲の状況(公平と効用の原則:Justice・Utility)〈チェックポイント〉1.家族や利害関係者2.守秘義務3.経済的側面,公共の利益4.施設の方針,診療形態,研究教育5.法律,慣習,宗教6.その他〔文献5)より〕

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