2204看取りの医療 改訂第2版
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4Ⅰ 総 論 欧米では,新生児・小児の生命・障害予後が不良でこれ以上の侵襲的治療介入が児の最善の利益に反すると判断した場合,家族の希望に沿って医療チームで治療の差し控え・中止が日常臨床のなかで「通常の医療行為の範疇」として行われています.同時に終末期ケア(end‒of‒life care)やグリーフケアのためのさまざまな研究が進んでいます.1)英国小児科学会における治療の差し控え・中止のガイドライン 2015年英国小児科学会から新たなガイドライン「Making decisions to limit treatment in life‒limiting and life threatening conditions in children:a framework for practice」が新たに改定されました11).英国小児科学会Cass会長の前文で,「新しい遺伝子治療や小児外科を含む医療の奇跡的な発展で多くの生命が助かる一方,進んだ医療技術が必ずしも子どもの最善の利益にならない状況が多く出現しています.現在は,インターネットや社会メディアの普及により多くの情報が得られるようになっています.そうした中家族(法的代理人)だけでなく,子ども本人も治療選択の決定に参加し,医療チームと協働意思決定を行うことが重要です.さらに医療者は,出生前から続く緩和ケアや終末期のケアについても情報を共有し,死後もグリーフケア支援を提供する義務がある」と述べています.2)トロントこども病院における臨床倫理教育 トロントこども病院ではNICU(新生児集中治療室)の新生児科専攻医に対して臨床倫理学の必須教育が行われており,2013年そのことに関する論文が発表されました12).その項目は,①予後不良児に対する治療中止の検討:児の最善の利益・同意(コンセンサス)意思決定・予後不良・治療選択,②両親に対する非蘇生の説明:緩和ケア選択・慰安のケア,③蘇生非適応指示:蘇生非適応の意義,④協働意思決定の情報と参加:情報共有・家族の選択・意志決定における家族の役割,⑤文化の差異への配慮:文化・信念・精神状態,⑥内部意見の違い調整:宗教・不確実性です.そのことによって患者の最善の利益に基づいたより良い医療選択を医療チームと家族で話し合う基本ができるものと思われます.3)文化の違いと看取りの医療(諫山哲哉,2014) トロントこども病院のNICUで働いている諫山氏は,Neonatal Careに次のような寄稿を行っています13). 「トロントのNICUで働き始めて驚いたことの一つは,重篤な赤ちゃんの看取りの医療に対する日本とカナダの考え方の違いです.日本では,生命予後が極めて不良な赤ちゃんでも,一度,人工呼吸器が装着されると,人工呼吸器を止めることは,倫理的にも司法的にも極めて難しい判断となり,ほとんど行われていないと思います.カナダや米国では,人工呼吸器の継続は,その時その時の治療決定とみなされ,それが患者の最善の利益の観点からみて望ましくないと判断される場合は,患者(赤ちゃんの場合はその保護者)の同意の下で,人工呼吸器の中止が日常的に行われています.6 欧米における動き

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