2204看取りの医療 改訂第2版
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1 医療現場の臨床倫理学と看取りの医療5Ⅰ総 論 例えば,Aちゃんは在胎23週で生まれ,両側に重篤な脳室内出血を起こし,生後数日の間,高い設定で人工呼吸管理が行われていました.生後1週ごろ,NICUチームとご家族との話し合いで,今後も続く治療による苦痛と,将来の重篤な合併症の予測に基づき,治療の中止が決定されました.予定された日時に,家族専用の個室が用意され,モルヒネの点滴でしっかり鎮痛されながら,人工呼吸器が中止(抜管)され,Aちゃんは,お母さんの胸に抱かれ,お父さん,兄弟,親戚,友人たちと,多くの人々に見守られながら看取られていきました.その際,皆さんが涙を流しながら,Aちゃんの周りで歌を歌い,何か宗教的な儀式を行っているようでした.どういう儀式か私にはわからなかったのですが,とても尊厳の感じられる雰囲気でした.ご両親は穏やかな表情で,Aちゃんの誕生とその意義を,皆で忘れずに生きたいとおっしゃっていました」 今後日本においてもすべての医師,とくにNICUやICU(集中治療室)など救急医療に携わる医師は必須教育として医療現場での臨床倫理や安らかな看取りに関する教育がなされるべきだと思われます.4)ICU以外の最適な看取りの場所についての議論 Laddieらは,2014年にICU以外の最適な看取りの場所について発表し,PICU 11例,NICU 4例がそれぞれの集中治療室から出て,家庭で5例,ホスピスで8例,その他2例が,家族が望む最適な看取りの場所で人工呼吸器を中止し看取られたことを報告しました14).英国ではこうした臨床倫理学の普及により最適な看取りの場所についても「通常の医療の範疇」で検討できる形になっています. 日本においても,こうした終末期の臨床倫理をタブー化せず率直に話し合いができるようになると,本人や家族が希望しない傷害行為に当たる侵襲的治療介入を漫然と継続するだけでなく,欧米におけるように終末期ケアの充実,緩和ケアやグリーフケアに対する研究が進むものと考えられます.すなわち「いのちを慈(いつく)しむ」医療へのパラダイムシフトと研究が今後重要となります. 現在筆者は,関西医科大学と神戸大学において医療現場における臨床倫理の問題を特別講義しています.ここでTake Home Messagesとして下記の3つを強調しています. (1) 死は辛い悲しい出来事であることは間違いないが,「死をタブー化」して悪い出来事にしてはならない. (2)「安らかな看取り」を提供することも,医療者の大切な役割(責務)である. (3) 今後,医療現場の臨床倫理を考える場合,「協働意思決定」(shared decision‒making)や「事前ケアプラン」(advance care planning)など,大切な倫理のキーワードを覚えておく. 医学生の反応は非常によく,こうした具体的な倫理的課題を現実的に考えるきっかけとなるようです2)(表3).7 臨床倫理に関する医学生の教育

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