2213結節性硬化症の診断と治療最前線
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90病態・症状1病態 腎病変は結節性硬化症(TSC)症例の60~80%に認められる.TSCに随伴するおもな腎病変として血管筋脂肪腫(AML),多発性囊胞腎(poly-cystic kidney disease;PKD),腎細胞癌(renal cell carcinoma;RCC)がある.TSC患者の死因の約3割は腎病変の悪化である1).そのため,TSC症例における腎病変の治療および管理は大変重要である. Kanedaら2)は日本人のTSC症例166例を疫学的に調査し,その71%が腎病変を有し,61%にAMLを,28%に腎囊胞を,2.6%にRCCを認めたと報告している.また9歳以下の小児では,AMLの合併は12%であったのに対し,10歳代では65%となり,AMLの頻度は10歳代で急激に増加していることがわかる.また,直径4 cm以上のAMLは9歳以下では認められなかったが,10歳代では24%,20歳代では50%と倍増していた2). 本項においては,TSCにおいて最も高頻度にみられるAMLについて解説する.PKDに対しては他項を参照されたい.症状 TSC-AMLはsporadic AMLとは異なり,両側多発性に発生する3).通常は無症状で,腎機能も正常である.そのため,AMLが巨大化してから発見されることもある(図1).Neumannらは,TSC症例の約半数は無症状でAMLが発見されたと報告している4).症状としてAMLの増大に伴い腹痛,背部痛,腹部膨満感,悪心等が出現し,肉眼的血尿や高血圧,腹部腫瘤を呈することもある.しかし,AMLに特有な症状はない. またTSC-AMLには好発年齢がある.すなわち乳幼児期にはほとんどみられず,10歳以降に発生することが多い5).加えて,AMLは10歳代後半から20歳代前半にかけて急激に増大することがある.それに伴い,腫瘍から出血しショック状態を呈することもある(図2).患者は激痛を訴え,急速に貧血が進行し,血圧の低下を認める.また尿路に出血した場合は強血尿となり,膀胱コアグラタンポナーデを呈することもある.これらを認めた場合,造影CTを施行し診断を確定させ,そのうえで緊急手術や緊急経皮的動脈塞栓術(trans arterial embolization;TAE)を行う必要がある. AMLの増大には性ホルモンが関与している.特に女性においては妊娠・出産を契機に急速に増大し破裂することがあり,妊娠可能な女性に対しては十分な注意が必要である.特に腫瘍径が4 cm以上の場合,AML増大スピードが速く自然破裂や出血の頻度も高くなる6).そのためわが国では,腫瘍径4 cm以上のAMLに対してはエベロリムス治療,TAE,腎部分切除術(partial ne-phrectomy;PN)などの治療が施行されている. 一方欧米では,2012年のInternational TSC Consensus Conferenceにおいて,患者の症状がなくてもAMLが3 cm以上に増大した場合,第一にmTOR阻害薬による治療が推奨されている7).TAEやPNはセカンドラインとして推奨されている.ab第3章結節性硬化症の臨床症状腎症状① ―血管筋脂肪腫波多野孝史 (JR東京総合病院泌尿器科)F

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