2216EBウイルス関連胃癌
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46皮細胞への感染がどのように生じているのかはいまだ不明だが,現在のところ,最初の感染はEBV陽性Bリンパ球から通常の胃粘膜上皮細胞に生じ,その後のEBVによる細胞不死化やウイルスDNAのプロモーターのメチル化と関連して生じると思われる宿主細胞DNAのメチル化に伴い,分化した胃粘膜上皮細胞の形質が徐々に失われるものと思われる.すでに述べたEBV関連胃癌における深部浸潤に伴う分化型から未分化型への分化度の低下を考慮すると,EBV関連胃癌の粘膜病変部と深部浸潤部とでは,このような粘液形質や転写因子の状況もまた若干異なっているのかもしれない.EBV関連胃癌の研究は,細胞株のみではもちろん不十分であるが,臨床病変においても,早期癌と進行癌,あるいは同一病変の粘膜内分化型部と深部の未分化型部とでの比較が必要なのかもしれない. EBウイルス関連胃癌は,その発見の当初,「胃の上部に存在する未分化型腺癌」との特性から,ピロリ菌(Helicobacter pylori;Hp)による慢性胃炎を介した発がんとは別の発がん経路を辿って発生する胃癌ではないかとも考えられた.Wuらは,EBV陽性のLELCでは11例中7例(63.6%)がHp抗体陰性であったと報告している.しかし彼らの報告では,EBV陰性の120例においても38例(31.7%)がHp抗体陰性であり,抗Hp抗体での検索における自然除菌例の存在なども考慮すべき結果かもしれない25).これに対して,筆者らを含むいくつかの検討では,EBV関連胃癌の背景胃にも,多くの場合,Hp感染と関連の深い慢性萎縮性胃炎の変化がみられている26—28). 周知のように,Hp未感染の胃では,胃体部は胃底腺領域,前庭部は幽門腺領域よりなり,小腸におけるパイエル板のような固有のリンパ装置は存在しない.しかし,Hp感染後には好中球浸潤やリンパ球浸潤による慢性活動性胃炎が生じ,長期の経過により腺管の萎縮性変化・化生性変化により胃底腺領域の縮小を招き,慢性萎縮性胃炎の状態となる.この時,炎症性変化のフロントをなすのが胃粘膜萎縮境界である.Hp陽性症例において,胃粘膜萎縮境界は,あたかも草原の野焼きの先進部の炎の帯のように数十年の経過で胃角部小弯から胃体部小弯を噴門に向けて上昇し,最終的には胃底腺領域の大部分を萎縮粘膜へと置換する.胃粘膜萎縮境界進行の後方部が,胃粘膜萎縮中間帯である.この胃粘膜萎縮境界の位置を内視EBV関連胃癌と背景の慢性萎縮性胃炎図6 EBV関連胃癌の発育様式EBV関連胃癌の肉眼型と発育経過は,特徴的な組織型により規定される.粘膜内病変の段階では,分化型(lace pattern)の場合も未分化型の場合もあり,リンパ球浸潤が多い場合はリンパ上皮腫様の癌(LELC)の組織型となる.LELCは一見,炎症類似の組織型であり,EBV関連胃癌の病変の境界が肉眼的には不明瞭な場合があることと関連すると思われる.EBV関連早期胃癌の多くは表面陥凹型(0Ⅱc)の形態をとるが,粘膜層の分化型癌の部分が増殖すると表面隆起型(0Ⅱa)となる場合もある.いずれにせよ,腫瘍が粘膜下層へ浸潤すると,腫瘍の分化度が低下し著明なリンパ球浸潤を伴い,組織型はリンパ球浸潤癌(CLS)の形態をとる.CLSは,粘膜下層において濾胞性リンパ腫のようなEUSで低エコーの比較的境界明瞭な腫瘤を形成する.このため,病変の肉眼像は,粘膜下腫瘍様となる場合もある.EBV関連胃癌は,このような発育経過により,最終的には2型あるいは3型進行癌の形態へ至るものと考えられる.LELC:lymphoepithelioma-like carcinomaCLS:carcinoma with lymphoid stromaEBV-associated gastriccancermucosal layersubmucosal tumor(SMT)-like shapedLELC, lace patternsubmucosal layerproper muscleCLS0Ⅱc0Ⅱatype2~type3advanced cancer

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