2216EBウイルス関連胃癌
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478 EBウイルス関連胃癌の臨床像と上部消化管疾患鏡的に観察し,慢性萎縮性胃炎の進展の程度を分類したものが,慢性萎縮性胃炎の「木村-竹本分類」である29).この過程で,萎縮性変化の進んだ前庭部や胃体部小弯が通常の分化型胃癌の発生母地となることはよく知られている. 筆者らの自験例では,EBV関連胃癌の多くは,胃の上部ながら胃底腺領域が萎縮していく胃粘膜萎縮境界近傍の萎縮中間帯側に存在していた(図1~4,表2).また,EBV関連胃癌手術例では,胃癌病変の周囲にEBV陰性の通常の組織型の胃癌の周囲と同様に,胃粘膜の萎縮性変化がみられた26)(図3).すなわち,通常の分化型胃癌病変が,萎縮性変化の強い前庭部や胃角部から胃体部の小彎に好発するのに対し,EBV関連胃癌病変は,Hpによる慢性胃炎を有する胃の胃体部の胃粘膜萎縮境界近傍という特徴ある部位への関連の強い胃癌病変ともいえる.ただし例外はあり,残胃の胃体部大彎において経験されたCLS病変や,前庭部のリンパ球浸潤の乏しい印環細胞癌を呈したEBV関連胃癌病変も経験されている.また,すでに述べたごとく,EBV関連胃癌の一部はHp陰性であるとの報告もあるが,Hp陰性の胃癌全体におけるEBV関連胃癌の占める位置付けはいまだ不明瞭である25). EBV関連胃癌病変の多くが位置する「胃粘膜萎縮境界近傍」は,胃粘膜の萎縮性変化のフロントであるが,組織学的には慢性活動性の炎症性変化(リンパ球浸潤,好中球浸潤)が大変に強く,かつ腺管の萎縮や胃底腺から偽幽門腺・腸上皮化生などへの腺管改築の場でもある.通常のEBV既感染健常成人では,約100万個に1個のBリンパ球がEBV陽性であると考えられていることから,EBVはこのHp胃炎による慢性炎症に乗じて胃粘膜へ出現するのではないかと考えられる.実験的にも,EBV感染レセプターであるCD21を有さない胃上皮細胞へのEBV感染の効率は低く,培養胃上皮細胞へのEBVの感染にはEBV陽性リンパ腫細胞株との共培養が有用である(本書の他項参照).このため筆者らは,臨床例の胃においては,Hp感染などによる粘膜層での持続的かつ高度の炎症性変化の存在が,胃粘膜におけるEBV潜伏感染Bリンパ球から胃上皮細胞へのEBV感染が成立するうえで重要なのではないかと考えている. 一方,切除胃標本でのEBER1 ISHによるEBV感染細胞の検索では,時に,胃癌病変部以外の胃粘膜に散在性に一部EBER1陽性の上皮細胞を有する非腫瘍腺管がみられることが経験される.このような非癌胃粘膜におけるEBER1陽性上皮細胞は,通常の増殖帯から粘膜最表層へ至る胃粘膜細胞動態により数日で胃内腔へ失われていくものと考えられ,EBV関連胃癌発生の初期像とは考えにくい.このため,筆者らは,従来病理学(藤田ら)により提示されてきたように30),EBV関連胃癌の発生には,胃上皮細胞のEBVの感染による不死化のみならず,胃粘膜萎縮境界での腺管改築による胃粘膜細胞動態の乱れによる不死化細胞の定着環境が必要なのではないかとも推測している. 胃部分切除後の残胃が胃癌発生のリスクを有することは従来よりよく知られてきた.その発癌要因としては,吻合部そのものが発がんリスクであるとか逆流腸液に含まれる胆汁酸の作用が重要であるなどと考えられてきたが,詳細はいまだ不明である.YamamotoらによるEBV関連胃癌の初期の検討において,意外なことに残胃癌の27.1%(48例中13例)がEBV関連胃癌であることが見い出された31).Nishikawaらの検討でも,残胃癌残胃におけるEBV関連胃癌表2 EBV関連胃癌の存在部位と胃粘膜萎縮境界萎縮境界近傍(萎縮境界より2 cm以内の萎縮側)萎縮境界より離れているEBV関連胃癌 (8) 71EBV陰性の胃癌 (16)106〔文献26より改変〕

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