2216EBウイルス関連胃癌
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48の41.2%(17例中7例)がEBV関連胃癌であり,いずれも術後20年ほどを経過したBillroth—Ⅱ法吻合部に発生しており,周囲に萎縮性変化を伴うリンパ球浸潤に富む未分化型癌であった11).さらにKaizakiらは,残胃癌122例(初回術後10年以上経過して発生したde novo残胃癌と10年未満で発生したmetachronous残胃癌)の検討を行い,de novo残胃癌の23%がEBV関連胃癌であり,これは残胃ではない胃の上部の胃癌での18%との有意差はなかったとしている.彼らの報告ではEBV関連の残胃癌は,男性であること,gastritis cystica polyposaを有すること,初回術後20年以上の経過していることとの関連が大きく,その6割程度において非癌胃粘膜には過形成や中等度の萎縮および軽度のリンパ球浸潤がみられている.初回手術時が胃癌であった症例で,初回の胃癌と第2病変である残胃の胃癌との双方をペアで検索しえた27例では,初回がEBV関連胃癌であった9例中の6例のみにおいて残胃の癌もEBV関連胃癌であったとのことである32). 残胃におけるEBV関連胃癌の頻度については,すでに紹介したMurphyらの2009年のメタ解析においても,吻合部-残胃の癌では,その35.1%がEBER1陽性である.残胃の癌にEBV関連胃癌が高い割合を占めていることは,そもそも残胃そのものがEBV関連胃癌の好発部位である胃の上部であることを勘案しても,gastritis cystica pol-yposaとEBVの関連など興味深い問題を提起している14).嚥下した唾液に含まれるEBV粒子への暴露は,上部消化管に共通であり残胃に特異的ではない.残胃への逆流腸液には,胆汁酸のみならず膵液も含まれるものと思われる.EBVと関連の深い唾液腺と膵の組織学的類似性と,慢性膵炎が「原因不明の慢性炎症性疾患」であることから,筆者らは当初,慢性膵炎および膵癌手術組織においてもEBVの検索を試みたが,EBER1陽性病変を見出すことはできなかった.Kijimaらの各種の癌における検討でも,膵癌58例の検索においてEBER1陽性の病変はみられていない33). 残胃の癌に対する治療は,患者に大きな身体的負担を強いる場合がある.残胃のEBV関連胃癌の自然史や発癌機序の解明は,今後の重要な研究課題の一つである. EBV関連胃癌の予後は,EBV陰性の通常の胃癌に比してよいとされる.SongらのEBV関連胃癌123例と対照の胃癌405例の比較では,EBV関連胃癌群の5年生存率は,overallで71.4%,dis-ease—freeで67.5%であり,対照群の56.1%,55.2%よりも良好であった.overallおよびdis-ease—freeの平均生存期間は,EBV関連胃癌群で112.3か月および108.6か月,対照群で98.7か月および94.7か月であり,EBV関連胃癌例の生存期間は対照の胃癌例と比較して有意に長かったと報告されている13).彼らの検討では,このようにEBV関連胃癌の予後が対照と比較して良好な要因として,リンパ上皮腫様胃癌(LELC)の組織像のような宿主の炎症性反応をあげている.彼らは,EBV関連胃癌のうち分化型癌の周囲に比較的少ないリンパ球浸潤を伴うクローン病様リンパ球反応(Crohn’s disease—like lymphocytic reaction;CLR)の病変もまたLELCと同じくほかの胃癌よりも予後がよく,CLRもLELCに含めるべきと報告している.また,Camargoらは,1976年から2010年までの13の検討(アジア8,ヨーロッパ3,ラテンアメリカ2)の胃癌4,599例のプール解析を行った.その結果,EBV関連胃癌の占める割合は8.2%であり,腫瘍がEBV陽性であることはステージ等調整後の低い死亡率と関連していたとしている34). Watanabeらは,すでに1970年代に,胃のCLSを進行胃癌であっても比較的予後のよい組織型として報告していたが,現在ではその大部分がEBV関連胃癌であることが知られている.CLSの一部はEBV陰性であるが,この点について,最近の韓国のLimらの報告では,EBV陽性CLSとEBV陰性CLSを比較するとEBV陽性CLSのほうが予後がよく,EBV陰性CLSの予後は,EBV陰性の通常の組織型の胃癌と同程度とのことである16).EBV関連胃癌の予後

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