2216EBウイルス関連胃癌
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498 EBウイルス関連胃癌の臨床像と上部消化管疾患 EBV関連胃癌は,原発性の胃の腺癌病変であり,非腫瘍胃粘膜を発生母地として発生する.では,EBVは,どこから,いつ,どのように,胃上皮細胞へと感染するのであろうか.EBV関連疾患の検索の過程において,消化管の非腫瘍粘膜において,少数の症例で炎症部位に散在性のEBV陽性Bリンパ球がみられることが経験されてきた.EBVの胃粘膜上皮細胞への感染経路としては,当初は嚥下された唾液内のEBV粒子よりの感染の可能性も考慮されたが,近年では実験的なEBV陽性リンパ球と上皮細胞の共培養による感染成立などから,この胃粘膜内のEBV陽性Bリンパ球からの胃上皮細胞への感染が有力と考えられている(Nishikawaら.本書の他項参照). 胃には,小腸のパイエル板のような固有のリンパ装置が存在しないことから,通常のEBV既感染者において,Bリンパ球の100万個に1個とされるEBV陽性Bリンパ球が胃に出現する機会をつくる慢性炎症の要因は,Hp感染による慢性胃炎ではないかと考えられる.このため,筆者らは,慢性萎縮性胃炎におけるEBVとHpの検討を行った.筆者らは,リアルタイム定量PCR法を用い,感染細胞種の同定はできない方法ながらも客観的評価が可能な特性に着目し,慢性胃炎への応用を試みた35).共同研究者のHiranoらは,胃生検切片でのEBV DNAの検索を行った.まず,EBV感染Bリンパ球細胞株とEBV関連胃癌病変のDNAを用いて,胃粘膜生検切片由来のDNAにおけるEBウイルス感染の判定基準を作成した.そして,さらに,この基準を用いて,シドニーシステムによる慢性胃炎の評価を行った35症例の各5か所の生検の切片においてEBV DNAの有無を検討した.その結果,全体の65.7%(23症例)において,5か所の生検のうち少なくとも1か所がEBV DNA陽性であった(表3).Hp検出率が高く以前の検討でEBV関連胃癌の背景にも多くみられた中等度に萎縮性胃炎の進展した例(木村-竹本分類でC3—O1)に限ってみると,92.3%(13例中12例)が生検1か所以上でEBV DNA陽性であった.さらに,そのような中等度萎縮症例のすべての生検切片での検討では,EBV DNA陽性切片ではEBV DNA陰性の切片に比較して,好中球浸潤・単核球浸潤・萎縮が有意に多くみられた.この結果は,Hpによる慢性活動性胃炎の経過のなかで,中等度の萎縮進展の時期に炎症に乗じてEBV陽性Bリンパ球が胃粘膜に出現していることを示唆している. 非癌胃におけるEBVとHpとの関わりについては,ほかにもいくつかの報告がみられる.Shuklaらは,non—ulcer dyspepsia 100例,消化性潰瘍50例,胃癌50例よりの胃生検切片で検索した.Hpの検索は尿素呼気試験・培養・組織学的に行い,EBVの検出にはEBNA1のDNA定量PCR法を用いた.その結果,Hp陽性症例においてEBV DNA量が多かったとしている36).また,Cárde-nas—Mondragónらは,慢性腹痛の小児333例の胃生検標本をシドニーシステムで評価した,EBVおよびHpの感染は血清抗体で検索した.その結果,非癌胃粘膜におけるEBVとピロリ菌表3 ‌‌内視鏡的な慢性萎縮性胃炎の程度と,改訂シドニーシステム5点生検切片でのEBVとピロリ菌の検出慢性萎縮性胃炎EBVピロリ菌陰性(-,±)陽性(+,++)陰性陽性軽度(C1,C2)(n=3) 1 2(66.6%) 2 1(33.3%)中等度(C3,O1)(n=13) 112*(92.3%) 310(76.9%)高度(O2,O3)(n=19)10 9(47.4%) 910(52.6%)計(n=35)1223(65.7%)1421(60.0%)*EBVは慢性萎縮性胃炎が中等度に進展した症例(木村―竹本分類でC3,O1)において高度萎縮進展例よりも有意に多く検出された(p<0.01).〔文献35より改変〕

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