2216EBウイルス関連胃癌
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50EBVのみ陽性例では,胃粘膜には軽度の単核球浸潤のみで多核白血球浸潤なし.Hpのみ陽性例では,胃粘膜には中等度の単核球浸潤と軽度の多核白血球浸潤がみられた.これに対して,EBVとHp共陽性例では,有意に高度の胃炎がみられ,特にCagA+のHpとEBV共陽性例では非常に高度な単核球浸潤と多核白血球浸潤がみられている37). このような,胃粘膜を舞台としたEBVとHpの双方を考慮した病態の解明は,次の時代の胃疾患の研究に必須であろうと考えられる. EBV感染と胃十二指腸の潰瘍性病変との関連についてもいくつかの報告がみられる. Chenらは59歳男性の伝染性単核症の部分症としての胃病変を報告している.CTで胃壁の肥厚,上部消化管内視鏡検査(EGD)で多発胃びらん,胃生検でびまん性の異型リンパ球浸潤(T,B混在)とlymphoepithelial lesionがみられた.Hpは陰性,VCA—IgM陽性,IgG陰性.胃壁浸潤リンパ球の多数はEBER—ISH陽性であり,2週ほどで軽快した38).Kitayamaらもまた,胃体部前後壁の多発潰瘍の40歳男性症例を報告している.Hpは陰性.生検でB細胞主体の異型リンパ球のびまん性浸潤を認め,異型リンパ球はEBER—ISH陽性であった.伝染性単核症の部分症と判断し,2週間ほどで軽快した39). 一方,LavinらはEBV再活性化による十二指腸潰瘍発生を疑った49歳男性について報告している.仕事上のストレスを契機に発症し,EBV抗体は既感染パターン.多発十二指腸潰瘍(びらん)を認め,生検では炎症性細胞浸潤があり,近傍上皮細胞がEBER—ISH陽性であったとのことである.Hpは陰性であった40).Cárdenas—Mondragónらはさらに,健常人129例と消化性潰瘍患者78例(十二指腸潰瘍58,胃潰瘍20)を対象としてEBVとHpの抗体系を検討している.その結果,彼らは抗EBV—IgGが高値であることは十二指腸潰瘍に,抗EBV—IgAは胃潰瘍に有意に関連していたとし,胃および十二指腸上皮におけるEBV再活性化が消化性潰瘍発症のリスクであることが示唆されたとしている41). 筆者らの経験したEBV関連胃癌の好発部位は胃粘膜萎縮境界近傍であるが,この部位は従来,大井の二重規制説における消化性潰瘍の好発部位としても知られている.筆者らの少数例での予備的検討では,過去の消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)手術症例の潰瘍部ではEBER1陽性細胞は検出されなかったが,これらの報告は消化性潰瘍初発時におけるEBVの関与の可能性を暗示するものかもしれない. わが国の食道癌の多くはEBVの関与の強い腫瘍として知られている上咽頭癌(NPC)と類似の扁平上皮癌(squamous cell carcinoma;SCC)であり,また,食道はEBV既感染者ではEBV粒子を含む唾液の嚥下流路でもある.このため,筆者らは主としてSCCの食道癌手術例36例でのEBV検索を行った.しかし,予想に反してSCCの腫瘍細胞がEBER1陽性の病変は1例もみられず,一部の症例においてEBER1陽性の腫瘍浸潤リンパ球を認めたのみであった42). また,欧米ではわが国を含む東アジア諸国とは異なり,食道癌の大きな部分をバレット腺癌が占めていることが知られている.EBV関連胃癌が胃の上部に好発することから,このような食道-胃接合部の腺癌におけるEBVの関与にも興味がもたれる.この点について,最近Genitschらは胃-食道の原発性腺癌465例の検索を行い,14例がEBER1陽性であったとしている43).彼らの成績では,食道腺癌118例にはEBER1陽性例は1例もなく(0%),食道胃接合部腺癌の2.7%(2/73)および胃の腺癌の4.4%(12/274)がEBER1陽性であった.この結果から,彼らは,EBVは食道腺癌の発癌に関与していないと思われると報告している. 近年,EBV関連胃癌は,腫瘍細胞DNAのメチル化に富む胃癌の特徴的なグループであることが胃十二指腸の潰瘍性病変とEBV食道癌・食道胃接合部の癌とEBVおわりに

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