2216EBウイルス関連胃癌
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39 EBウイルス(EBV)と関連を有する疾患の多くには,「炎症類似の低悪性度腫瘍」「原因不明とされてきた炎症性疾患」といった類似の病態・組織型が存在する.Burkeらは,1990年に,すでに知られていたEBV陽性の上咽頭癌などで経験されていた高度のリンパ球浸潤を伴う分化度の低い癌(リンパ上皮腫)と類似の組織型の胃癌病変がEBV陽性であることを見い出し,その組織型をlymphoepithelial carcinomaと称した1).近年では,EBV encoded small RNA1(EBER1)を標的としたin situ hybridization(ISH)法の確立により,ほぼすべての癌細胞の核がEBER1陽性の胃癌病変を,EBV関連胃癌(EBV—associated gastric cancer)とよんでいる2,3)(図1).EBER1はEBV感染細胞核に多数(10の5~7乗個)存在するとされるポリAをもたない小さなRNAであり,核内蛋白と結合しておりRNaseの影響を受けにくい.このため,感染細胞の核でEBER1は安定に存在し,EBER1 ISH法での感染細胞検出感度も高い. 本項では,主として消化器病臨床医に有用と思われるEBV関連胃癌の臨床像と周辺疾患について述べる.EBV関連胃癌の疫学・分子病理学的特長・発癌機序などの詳細については,本書の他項を参照されたい. EBV関連胃癌において,EBVは病変内のほぼすべての胃癌細胞の核に存在しており,一つの胃癌病変内のEBVは単クローン性[terminal repeat(TR)の長さが単一]である.もしもEBVが胃癌細胞に癌病変成立の後から感染し溶解感染で感染細胞を破壊しつつ周囲の癌細胞に再感染し広がった場合には,さまざまなTR長のEBV粒子が放出され,胃癌病変内のEBVは多クローン性となる.このため,単クローンのEBVのみが検出されるEBV関連胃癌におけるEBVは,胃癌病変成立の最初の癌細胞にすでに感染していたと考えられている.したがって,EBVは,EBV関連胃癌病変の発がんの初期に関与していると推定されている4). EBV関連胃癌の組織像としては,当初報告されたlymphoepithelioma—like carcinoma(LELC)のみならず,Watanabeらにより1970年代にすでに報告されており,最近わが国の胃癌取扱い規約において特殊型に位置付けられたリンパ球浸潤癌(carcinoma with lymphoid stroma;CLS)が典型的である2,5,6).胃癌取扱い規約(第14版 2010年3月)では,リンパ球浸潤癌について,「癌細胞が,著明なリンパ球浸潤を背景にして,充実性,腺房状あるいは腺腔形成の明らかでない小胞巣状に増生する低分化腺癌である.胚中心を伴ったリンパ濾胞の増生も特徴的である.粘膜内病変は分化型であることが多い.この癌では,in situ hybridization法でEBVの感染が90%以上に証明され,ほかの低分化腺癌よりも予後が良好であるので,特殊型の一つとして独立させた.ただし,一般型の癌でもEBVが証明されることがある」と記述されている. EBV関連胃癌のEBV潜伏感染様式は,ウイルス蛋白のうちEBV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)に感知されにくいEBV determined nuclear antigen(EBNA)—1のみ発現のⅠ型潜伏感染である.しかし,実際にはEBV関連胃癌細胞周囲には腫瘍浸潤リンパ球が多数集まっていはじめにEBV関連胃癌病変におけるEBV感染とリンパ球浸潤癌国立病院機構関門医療センター臨床研究部柳井秀雄8EBウイルス関連胃癌の臨床像と上部消化管疾患

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