2216EBウイルス関連胃癌
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418 EBウイルス関連胃癌の臨床像と上部消化管疾患 これらの報告は,EBV関連胃癌の診断や経過観察において抗EBV抗体測定が果たす役割を示唆している.しかし,抗体価はEBV関連の他の病態にも左右されると考えられ,胃癌診断における抗EBV抗体測定の実際の有用性は,いまだ定かとはいえない. EBV関連胃癌は,研究の初期の多くの報告と同様に筆者らの自験例においても,胃の上部に多く存在し,リンパ球浸潤に富む未分化型主体の病変であった10).残胃の胃癌では,その約4割がEBV陽性であった11)(表1). 日本での検討としては,Tokunagaらの多数例を対象とした一連の報告が重要である.彼らの胃癌1,848病変(1,795例)のEBER1 ISHによる検討において,6.6%の病変(6.7%の症例)がEBV関連胃癌であった.EBV関連胃癌は有意に男性に多く,主として胃の上部から中部に位置していた12).SongらのD2手術が行われたEBV関連胃癌123例とEBV陰性の胃癌405例の検討では,EBV関連胃癌の83.8%が胃の上部―中部に存在しており(上部23.6%,中部60.2%,下部16.2%),胃の下部に多いEBV陰性胃癌の分布(上部6.12%,中部43.9%,下部49.9%)と有意に異なっている13).また,筆者らの報告を含むEBV関連胃癌に関する論文70編を対象としたMurphyらによる2009年のメタ解析では,EBER1 ISHによる検索が行われた胃癌15,952例において,EBV陽性率は胃癌全体では8.7%,噴門部で13.6%,胃体部で13.1%,前庭部で5.2%であり,やはりEBV関連胃癌は胃の上部に有意に多かったとされている.術後吻合部・残胃の胃癌では,EBV関連胃癌が35.1%を占めている14). 胃癌取扱い規約では,CLSの組織型の胃癌では90%以上がEBV陽性とされている.しかし,EBV関連胃癌においても早期の病変においては粘膜内では分化型管状腺癌の形をとり,深部浸潤に伴い未分化型へと移行して行く場合もある.このような粘膜病変の多くは,表面陥凹型(0Ⅱc)の形態を取るが,体部大弯などで分化型成分が0Ⅱa型の腫瘤を形成する場合もある(図2~5). CLSの組織型は,腫瘍の粘膜下層浸潤にともない多数のリンパ球浸潤が生じることにより典型的となり,粘膜下層の断面では比較的境界明瞭な腫瘤を形成する.このようなCLSの腫瘤は,サイズが増大すると,肉眼的・内視鏡的には粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)様の形態を呈する.内視鏡的には,腫瘍細胞周囲のリンパ球浸潤によるCLSの腫瘍が厚みを増すにしたがい,表面ではやや境界不明瞭な0Ⅱc型から若干の厚みを伴う0Ⅱa+Ⅱc型を経て,潰瘍を伴うSMT様の2型から深部浸潤により3型を呈する(図2,3,6).超音波内視鏡検査(EUS)では,この多数のリンEBV関連胃癌の存在部位と肉眼像表1 EBV関連胃癌の特徴(EBV関連胃癌:EBER1‌ISHにてほぼ全ての癌細胞の核が陽性の病変)<頻度・発生部位> わが国の胃癌病変全体の6.6%,世界のメタ解析では8.7%と報告 男性に多い 胃の上部に多い・残胃癌で高頻度<組織型> リンパ球浸潤に富んだ低分化腺癌が主体  リンパ球浸潤癌(carcinoma with lymphoid stroma;CLS)  リンパ上皮腫様の癌(lymphoepithelioma—like carcinoma;LELC)  分化型の部分ではlace pattern<肉眼的特徴> 陥凹性成分を有し境界不明瞭なものが多い(炎症類似のLELCの存在) 粘膜下腫瘍様の形態とも関連(CLSによる腫瘤の形成)<予後> 進行がんでは同病期のEBV陰性のものよりも予後がよい 早期癌ではリンパ節転移が少ない

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