2220よくわかる 子どもの喘鳴診療ガイド
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8喘鳴の診断にあたって 気道のいずれかの部位が狭窄すると,呼吸に伴って雑音が発生する.これらは一括して喘鳴とよばれるが,喘鳴が引き起こされる病態は様々である. 喘鳴を治療するためには,喘鳴を生じる原因疾患を的確に診断する必要があるが,あわせて個々の症例の喘鳴の発生機序・病態を常に頭の中で考えながら診療にあたることが,合理的で無駄のない治療に直結する.喘鳴の発生機序・病態を考えるうえでの注意点を,代表的な喘鳴性疾患である気管支喘息(以下,喘息)を例として,以下にあげる.①同一の患児であっても,必ずしも毎回同じ原因で喘鳴を起こすわけではない 喘息児では,喘息発作時に喘鳴を生じる.一方,非発作時にも喘鳴を生じることがある.例えば,合併症として多いアレルギー性鼻炎あるいは副鼻腔炎の悪化時や,気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症罹患時にも出現する.② 疾患によっては複数の機序が絡み合って喘鳴が生じる場合があることを,治療にあたって考慮する 喘息発作により生じる喘鳴は,気道平滑筋の収縮,気道粘液過分泌,気道浮腫など複数の要因が関与する.それぞれの要因に基づく喘鳴の発生機序・病態は異なり,薬物による治療効果は同一でなく,時に相反することがある.このため,治療にあたっては,これらの反応のうちどの反応が優位に起こっているのか見極める必要がある.例えば,β2刺激薬は気道平滑筋収縮に対して予防効果があり,かつ発作時における強力な気管支拡張薬である.一方,気道粘液過分泌に対して,β2受容体刺激は分泌抑制ではなく,逆に分泌を亢進する.このためこの作用は,β2刺激薬過剰使用に伴う喘息死(粘稠な分泌物による窒息)の原因であるとの指摘もある1).気道浮腫に対してβ2刺激薬はあらかじめ投与することにより予防効果が認められる2)が,すでに起こっている反応に対する有効性は報告されていない.③ 複数の要因が関与する場合,その主因は時々刻々変化することがあり,治療は臨機応変に行う 特に重症な喘息発作では,初期の気流制限の主たる原因として平滑筋収縮が重要な役割を果たし,気管支拡張薬や全身性ステロイドが有効である.一方,発作回復期の喘鳴は気道粘液や,血管透過性亢進による滲出液などの気道分泌液の貯留によって生じ,喘鳴はrhonchiとなる.この時期には気管支拡張薬や全身性ステロイドなどは不要となり,むしろ積極的に安静を解除するほうが症状は改善する. 喘鳴を生じる疾患の治療に際しては,これらを念頭に置いて診療にあたらないと,画一的で治療効率の悪い,あるいは無意味な治療を漫然と行ってしまう危険性がある.1.3. 喘鳴の病態の多様性A 喘鳴理解の基礎知識

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