2224糖尿病治療薬クリニカルクエスチョン120
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210 Chapter  合併症・併発症の管理に必要な薬物療法のコツ糖尿病患者の血圧管理目標値とその根拠を教えてください.104糖尿病患者の血圧管理目標値は,脳卒中抑制効果を重視して診察室血圧130/80 mmHg未満です. 厳格な血圧管理による脳卒中発症抑制効果 複数の心血管リスク因子を有する40歳以上の2型糖尿病患者10,251名を対象に,厳格な血糖管理による心血管病発症抑制効果を検討した米国での大規模ランダム化比較試験であるACCORD研究では,4,733人が厳格な血圧管理の有無(厳格血圧管理群:血圧管理目標収縮期血圧120 mmHg未満,標準血圧管理群:血圧管理目標収縮期血圧140 mmHg未満)により2群に割り付けられ,厳格な血圧管理の有効性についても検討された.これらの結果では,厳格血糖管理,あるいは厳格血圧管理のいずれにおいても,厳格な管理による主要複合心血管エンドポイント(初発の非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中および心血管疾患死)の有意な抑制効果は認められなかった1, 2).一方,ACCORD研究の結果の中で脳卒中抑制効果に着目すると,①厳格な血糖管理による全脳卒中発症のハザード比0.97(95% CI 0.71-1.33,p=0.85),②厳格な血圧管理による全脳卒中発症のハザード比0.59(95% CI 0.39-0.89,p<0.01),③厳格な脂質管理による全脳卒中発症のハザード比1.05(95% CI 0.71-1.56,p=0.80)であった.この解析結果からは,わが国よりも脳卒中の発症が比較的少ないとされる米国においてさえ,厳格な血糖管理や脂質管理ではなく,厳格な血圧管理(血圧管理目標収縮期血圧120 mmHg未満)による脳卒中発症抑制効果が明らかになった2).メタ解析で認められたオッズ比の減少 さらに,このACCORD研究を含めて,糖尿病・耐糖能障害患者における血圧管理目標を調べる目的で行われた海外13介入試験(合計37,736症例)を対象としたメタ解析の結果においても,脳卒中については,収縮期血圧130 mmHg以下までの厳格血圧管理群では収縮期血圧140 mmHg以下までの標準血圧管理群に比較して,オッズ比 0.53(95% CI 0.38-0.75,p=0.005)と47%ものオッズ比の減少が認められた(図1)3).同様の結果は別のメタ解析においても報告されており4),これらの解析結果から,糖尿病合併高血圧,および糖尿病合併CKDにおいては厳格な血圧管理による脳卒中発症リスクの低減効果が期待できる.心血管病の疾患別割合を考慮した血圧管理目標値の決定 また,血圧管理目標値を考えるうえで重要なことは,心血管病の疾患別割合(特に脳卒中,心筋梗塞の死因に占める比率)が米国・西欧とわが国とでは異なることである.米国や西欧では相対的に心筋梗塞が脳卒中よりも多く,米国のACCORD研究では,脳卒中発症率は心筋梗塞発症率の約1/4であったが,わが国では高血圧の影響は心筋梗塞よりも脳卒中により特異的であり,久山町研究,吹田研究やJDCS研究では脳卒中発症率が心筋梗塞発症率の1.5~2倍と高い5).そのため,脳卒中を主体とした心血管病の発症に対する効率的な抑制のためには糖尿病患者においても厳格な血圧管理が求められ,「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)では,血圧管理目標値を診察室血圧では130/80 mmHg未満としている5).最近改訂されたADAガイドライン(ADA 2016)においても糖尿病患者全体の血圧管理目標値は140/90 mmHg未満としつつも,非高齢者,アルブミン尿患者,糖尿病以外の心血管リス

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