2231続・イメージからせまる小児神経疾患50
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退行,けいれん,聴覚過敏を認める11カ月男児110基底核,視床にT2強調像で高信号(図4),T1強調像で低信号の信号異常を認める.深部白質もT2強調像で高信号領域(図4)を認める.同部位に左右対称性の病変を認める変性退行性疾患としては,特にGM1ガングリオシドーシスやGM2ガングリオシドーシスなどが挙げられる. 眼底検査,ライソゾーム酵素活性測定〔Hex(total)活性,HexA活性,HexB活性,β⊖galactosidase活性〕. 上記の頭部MRI所見,退行・けいれん重積・聴覚過敏を認めること,AST・LDHの上昇,肝脾腫を認めないことから,特にGM2ガングリオシドーシスを疑い,上記の検査を行う.本症例は眼底検査でcherry⊖red spot(図5)を認めた. 末梢リンパ球のHexA活性の著明な低下を認めた.また,Hex(total)活性の低下を認め,これはHexA活性の低下によるものと考えた.β⊖galactosidase活性は正常であり,GM2ガングリオシドーシスの一つであるTay⊖Sachs病と診断した. ライソゾーム病にはGM1ガングリオシドーシス(β⊖galac-tosidaseの異常)やGM2ガングリオシドーシス(hexosamini-daseの異常)などがある.Tay⊖Sachs病はGM2ガングリオシドーシスの一つで,スフィンゴ糖脂質を分解する酵素(HexA)の欠損あるいは活性低下により,ガングリオシドがライソゾーム内に蓄積することで発症する1). HexAはαとβの二つのサブユニットから構成され(ヘテロ二量体),αサブユニットはHEXA遺伝子,βサブユニットはHEXB遺伝子でコードされる.HEXA遺伝子の変異によりHexA活性の異常が生じ,Tay⊖Sachs病を発症する.一方,HexBはβサブユニット二つから構成される(ホモ二量体)ため,HEXB遺伝子に異常が生じるとHexAおよびHexBの両者の活性が低下し,Sandohoff病を発症する.いずれも常染色体劣性遺伝形式をとり,疫学的にはTay⊖Sachs病は222,000出生に1人(保因者は約230~240人に1人),Sandohoff病は422,000出生に1人とされる(保因者は約320~330人に1人).両者を臨床的に区別することは難しい. GM2ガングリオシドーシスの症状は退行や神経変性症状が主体で,けいれん,聴覚障害,頭囲拡大,眼底にcherry⊖red spotを伴う.発症時期によって乳児型・若年型・成人(遅発)型に分類される.一般血液検査は,乳児型のGM2ガングリオシドーシスにおいてAST,LDHの上昇を認めるが,その他の病型ではほぼ正常である.乳児型で発症年齢が早いほど中枢神経が広範に障害され進行も早い.病初期では筋緊張は低下しているが,病状の進行に伴い痙性が出現する.若年型で発症が遅い場合,失調やアテトーゼなどの錘体外路症状を認める.一方,β⊖galactosidase活性の低下で発症するGM1ガングリオシドーシスは,乳児型では中枢神経症状の他,肝脾腫や軽度の脊椎変形などの骨症状も呈する. GM2ガングリオシドーシスに対する効果的な治療法はまだ開発されておらず,対症療法が中心となる.発症が遅い症例に対するシャペロン療法の治験2),ガングリオシド合成阻害剤による治験などの報告がある. 本症例は,その後も肝脾腫を認めず,退行がさらに進行し,四肢の痙性麻痺が著明となった.後日,HEXA遺伝子の変異が確認された. 〔荒熊智宏,後藤知英〕文 献 1) Bley AE, Giannikopoulos OA, Hayden D, Kubilus K, Tifft CJ, Eichler FS. Natural history of infantile G(M2)gangliosidosis. Pediatrics 2011;128;e1233⊖41. 2) Clarke JTR, Mahuran DJ, Sathe S, et al. An open⊖label phase I⊘II clinical trial of pyrimethamine for the treatment of patients affected with chronic GM2 gangliosidosis(Tay⊖Sachs or Sandhoff variants). Mol Genet Metab 2011;102;6⊖12.問題1の答え問題2の答え問題3の答え 退行聴覚過敏症状を呈する症例で,頭部MRIで基底核の信号異常および白質変性を認めた場合,GM2ガングリオシドーシス等を考え,眼底所見の確認や酵素活性を測定する必要がある.肝脾腫や骨症状も認める場合は,GM1ガングリオシドーシスの鑑別が必要である.Key note図4 T2強調像基底核・視床・深部白質に高信号の病変(矢印)を認める.図5 眼底写真  口絵カラー37 黄斑付近にcherry⊖red spot(矢印)を認める.

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