2236必携 脳卒中ハンドブック 改訂第3版
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 前述のPCNSVのほかにも,結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa;PN),抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody;ANCA)関連血管炎,高安動脈炎(大動脈炎症候群),巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis;GCA)といった全身性の原発性血管炎や,全身性エリテマトーデス(systemic lu-pus erythematosus;SLE),関節リウマチ,Sjögren症候群,サルコイドーシスといった全身疾患の部分症状として血管炎を認める場合がある.これら様々な血管炎に起因して脳梗塞を発症するが,概してステロイド治療が有効である.1結節性多発動脈炎(PN) PNは全身臓器の中・小動脈の壊死性血管炎である.糸球体腎炎や細小動脈・毛細血管・細小静脈の血管炎を伴わず,ANCAと関連しない.発熱,体重減少,倦怠感,関節痛,筋痛などの全身症状と,全身の諸臓器の炎症や虚血・梗塞による多彩な臓器症状がみられる.神経を栄養する血管に血管炎が起こると末梢神経障害を生じ,多発単神経炎を呈する.中枢神経の血管炎は頻度が低いが,脳梗塞や脳出血を発現し,経過は重篤である5).2抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎 ANCAが陽性であるANCA関連血管炎には,顕微b全身性の原発性血管炎および全身疾患に伴う血管炎 高血圧,高コレステロール血症,糖尿病に加えて,高ホモシステイン血症註1や高リポ蛋白血症註2もアテローム硬化性病変の進展に関与する.動脈硬化の要因として留意しておく必要がある. 本書「VII-E 脳アミロイドアンギオパチー(CAA)」を参照. 原発性中枢神経系血管炎(primary central nervous system vasculitis;PCNSV)は髄膜および脳実質の小動脈・細小動脈に限局した血管病変で,「中枢神経限局性血管炎(primary angiitis of the central nervous system;PACNS)」や「中枢神経系肉芽腫性血管炎(granulomatous angiitis of the central nervous sys-tem;GACNS)」あるいは「限局性血管炎(isolated angiitis of the CNS)」とも呼ばれる. ①数週から数か月持続する頭痛と多巣性の神経症状を認める,②脳血管撮影で分節性の血管狭窄を認める(所見が認められない場合も多い),③全身性の炎症や感染症が除外される,このような場合には本症を疑い,病変部の脳と髄膜の生検が必要である.原因は不明であるが,免疫学的機序による炎症と考えられ,治療にはステロイドとシクロホスファミドが用いられる.i脳アミロイドアンギオパチー(CAA)2炎症性血管病変a原発性中枢神経系血管炎(PCNSV)A 急性期の診断と治療216メチオニンの代謝とホモシスチン尿症の障害部位シスタチオニンβ合成酵素の欠損により,ホモシステインおよびその前駆体のメチオニンが増加する.その結果,ホモシスチンが尿中へ大量に排泄され,シスチンは低下する.ホモシステインとシステインはそれぞれ体内で酸化され,ホモシスチン,シスチンに容易に変換する.ビタミンB6はシスタチオニンβ合成酵素の補酵素として働く.図2シスタチオニンβ合成酵素メチオニンホモシステインシスタチオニンシステインシスチンホモシスチン尿中へ排泄低下増加欠損ビタミンB6註1: 高ホモシステイン血症;ホモシスチン尿症のような酵素欠損症でなくても,中高年者で高ホモシステイン血症を示す患者では,高率に動脈硬化性病変を合併し,さらに血液凝固亢進状態を伴い,脳梗塞や心筋梗塞を生じることが示されている.ホモシステインは,必須アミノ酸であるメチオニンが代謝を受けて生成される-SH基を有するアミノ 酸である.高ホモシステイン血症は動脈硬化を進展し,脳梗塞,心筋梗塞,深部静脈血栓症などのリスクとなる.また,血中ホモシステイン濃度上昇の原因となるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の遺伝子多型が脳血管障害リスクと関係する.関連補酵素である葉酸やビタミンB12,ビタミンB6とホモシステイン値との間には負の相関が存在するため,これら補酵素の摂取は高ホモシステイン血症の是正につながる.しかし,ホモシステインを低減することが,血管病変の進行阻止や脳梗塞の再発予防に有効であるという確立されたエビデンスはない.註2: 高リポ蛋白(a)血症;リポ蛋白(a)(Lp(a))はLDL類似の脂肪粒子で,プラスミノゲンと構造上明らかな相同性を有するので,プラスミノゲンと拮抗することで線溶系を抑制して血栓形成を促進し,また平滑筋細胞を増殖させることで動脈硬化を促進すると考えられている.血中Lp(a)濃度の個人差の大半は遺伝的に規定されている.日本人の平均値は10〜15 mg/dLであり,一般的には25〜30 mg/dL以上が「高リポ蛋白(a)血症(高Lp(a)血症)」と呼ばれる.特に若年者の脳梗塞において独立した動脈硬化のリスクと考えられている.脳血管障害のなかでアテローム血栓性脳梗塞や塞栓症ではLp(a)濃度が高い傾向があり,ラクナ梗塞では健常者と変わらないという報告がある4).つまり,Lp(a)は細小血管より大きな血管において動脈硬化を促進し,血栓形成をもたらすと考えられている.遺伝性であることから,若年時からのLp(a)の低下療法および抗凝固療法を行うことが脳梗塞の発症予防につながると考えられる.Lp(a)を低下させる治療法として,ニコチン酸製剤の投与やLDLアフェレーシスがあげられるが,最近ではスタチン製剤が有効であるという報告も散見される.

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