2236必携 脳卒中ハンドブック 改訂第3版
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変も呈するが,髄膜への親和性が高く,無菌性髄膜炎を併発するとともにサルコイド血管炎(sarcoid vas-culitis)を呈し,脳梗塞を生じることがある(図3).診断は病理学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を確認し,かつ既知の原因の肉芽腫および局所サルコイド反応を除外できれば確定診断となる.両側肺門リンパ節腫脹,血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値,血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)高値,フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)を用いた陽電子放出断層法(PET)(FDG PET)における著明な集積所見,気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage;BAL)法でCD4/CD8比が3.5を超える上昇などがサルコイドーシスに特異的な検査所見である.1結核性髄膜炎,細菌性髄膜炎 結核性髄膜炎や細菌性髄膜炎では,くも膜下腔を走行する脳血管に炎症が波及して血管炎を併発し,脳梗塞を発症することがある.特に結核性髄膜炎では,Willis動脈輪が存在する脳底部に炎症が著しく,脳梗塞を合併する頻度が高い.髄膜炎の治療開始直後に,死滅した菌体から一斉にエンドトキシンが放出され,血管炎が増悪する場合がある.2帯状疱疹ウイルス感染後 三叉神経第1枝領域の帯状疱疹の感染後,通常6〜8週間後に反対側に片麻痺を発症することがある.三叉神経を介して帯状疱疹ウイルスが血管に直接浸潤し,免疫反応を刺激して血管炎を併発し,内頚動脈サイフォン部,中大脳動脈あるいは前大脳動脈近位部に狭窄や閉塞を生じることがある. 脳梗塞の原因となる血液凝固異常の基礎疾患としては 抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syn-drome;APS)の頻度が高いが,プロテインC(PC)欠乏症,プロテインS(PS)欠乏症,アンチトロンビンIII(AT-III)欠乏症,鎌状赤血球症,サラセミア(thal-assemia)など血液凝固亢進や多血症を呈する様々な疾患が脳梗塞の発症リスクとなる. APSは,1986年にHughesによって独立した疾患概念として提唱された後天性の血液凝固異常症である.若年層(50歳以下)の脳梗塞の原因として重要である.抗リン脂質抗体には, 抗カルジオリピン-β2c感染性の血管炎血液凝固異常1抗リン脂質抗体症候群(APS)6)鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis;MPA),多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyan-gitis;GPA)(旧称 Wegener肉芽腫症),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangitis;EGPA)(旧称 アレルギー性肉芽腫性血管炎またはChurg-Strauss症候群)がある.細小動静脈や毛細血管などの小血管に壊死性血管炎を生じ,腎臓や肺の病変を伴う例が典型像とされる.脳病変の合併は少なく,さらにその大半で他臓器の血管炎症状が先行しているため,脳血管障害を契機に本症の診断に至る例は稀である.3高安動脈炎(大動脈炎症候群) 1908年に高安によって提唱された疾患で,大動脈弓および中〜大血管に狭窄・閉塞を生ずる原因不明の非特異的血管炎である.自己抗体が関与する免疫学的機序が成因に重要と考えられている.「大動脈炎症候群」とも呼ばれ,女性に好発する.虚血症候によるめまいや失神を発現することが多く,上肢の血圧左右差や頚部血管雑音が重要な所見である.大動脈,鎖骨下動脈,総頚動脈,腕頭動脈の順で障害されやすい.脳血管障害としては虚血性脳卒中が中心である.頚部超音波検査では「マカロニ徴候」と呼ばれる内膜肥厚と血管腔狭小化が特徴的である.治療としてステロイドを使用するが,本症から発症した脳梗塞に対しては,血圧コントロールと抗血小板薬の投与を行うことが望ましい.4巨細胞性動脈炎(GCA) GCAが浅側頭動脈や眼動脈に局所的に発現した場合は「側頭動脈炎」とも呼ばれる.50歳以上の女性に多くみられ,巨細胞の好発部位は浅側頭動脈や眼動脈であるが,次いで椎骨動脈,頚動脈,中心網膜動脈にもみられる.発症機序はCD4陽性T細胞による細胞性免疫反応が主体と考えられている.症状は側頭部を中心とした片頭痛様の拍動性頭痛,失明,視野障害,複視,末梢神経障害などである.また脳卒中をきたすこともあるが,椎骨動脈系の梗塞が多い.検査所見としては,C反応性蛋白(CRP)高値などの炎症所見が指標となる.診断は臨床症候の判断によるが,確定診断としては側頭動脈の生検が重要である.本症を疑った場合は直ちにステロイド治療を開始する.重症例ではステロイドパルス療法を行う.予後良好であるが,後遺症として失明などの眼症状を残すことがある.5サルコイドーシス サルコイドーシスは,肺,リンパ節,心臓,眼,皮膚などの全身臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が生じて症状を呈する疾患である.中枢神経系では脳実質病 7その他の脳梗塞217脳梗塞,TIAⅢ

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