2236必携 脳卒中ハンドブック 改訂第3版
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くとも考えられている.一般にリン脂質はすべての膜の構成要素となっているが,通常は免疫原性をもたない二重膜の形態を示している.しかし,細胞膜が血管系の危険因子(高血圧,喫煙,糖尿病等)に曝露されることで,免疫学的な異常をもつ構造へと再構築される可能性がある.また,β2GPIが酸化LDLに結合し,それを抗CL抗体が認識することで,動脈硬化の進展や血栓症の発症に関与する可能性も指摘されている. 本症の基礎疾患としてはSLEが最も多い.臨床的特徴としては深部静脈血栓症が最も頻度が高く,次いで血小板減少症,網状皮斑と続き,脳卒中は4番目に多い. 治療に関しては,動脈硬化と凝固系の両面からの検討が必要であり,ワルファリンやアスピリンが用いられる.日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン2015」ではワルファリンが第一選択として推奨され,SLE合併例では副腎皮質ステロイドの投与が推奨されるが,いずれもエビデンスレベルは低い. 先天性の凝固制御因子欠乏症で,血液凝固時間やプ2 PC欠乏症, PS欠乏症グリコプロテインI(抗CL-β2GPI)複合体抗体, ループスアンチコアグラント(LA),ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体,ホスファチジルセリン抗体,ホスファチジルイノシトール抗体などの種類があるが,このうち前二者が臨床的に重要である. 本症では,活性化部分トロンボプラスチン時間(ac-tivated partial thromboplastin time;APTT)の延長や梅毒検査の生物学的偽陽性を認める.抗CL-β2GPI複合体抗体やLAが陽性の脳梗塞の多くは血栓症で,女性に多く,再発しやすい.脳血管撮影では通常の脳梗塞でみられないような血管炎様所見や大血管起始部の狭窄などがみられる.抗リン脂質抗体陽性の脳梗塞症例の血管病理の報告では,脳内に血管炎を認めず,大脳皮質を中心とした小血栓が広範囲に認められた.さらに,本抗体価の高値例は予後不良とする報告もある. 血栓形成のメカニズムに関しては,AT-III活性化障害,組織型プラスミノゲンアクチベータ放出障害,von Willebrand因子の増加などが想定される.最近,抗リン脂質抗体がトロンボモジュリン-PC(TM-PC)凝固制御系に関与し,PCの活性化機構に抑制的に働A 急性期の診断と治療218認知機能低下と多発性脳梗塞を呈したサルコイドーシス症例56歳女性.認知機能低下と多発性脳梗塞を主訴に入院.頭部MRIのFLAIR像(a,b)で基底核部に多発性脳梗塞を認めた.頭部MRアンギオグラフィー(MRA)(c)では脳血管に多発性の狭窄病変を認め,全体に描出が不良である.頭部造影MRI(d,e)では髄膜や血管に沿って多様な造影効果を認めた.髄液所見で細胞数31/mm3,蛋白255mg/dL,アンジオテンシン変換酵素(ACE)1.1U/Lと高値であった.FDG-PET(f)では両側肺門リンパ節や左側頭部皮下などに集積を認め,左側頭部皮下腫瘤の生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を確認し,サルコイドーシスと診断した図3adcbef

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