2236必携 脳卒中ハンドブック 改訂第3版
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心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis;NBTE)(本書「III-A-3 心原性脳塞栓症①―病態と診断」参照)に伴う全身性の血栓塞栓症などが発症する. 脳の細小動静脈や毛細血管の血管内に限局した悪性リンパ腫の増殖により血管内腔を閉塞し,脳梗塞や静脈のうっ滞による出血性梗塞を発症する.これを「 血管内悪性リンパ腫症(intravascular malignant lym-phomatosis;IML)」と呼ぶ(図4,図5).IMLの大部分はB細胞性であるが,稀にT細胞性の場合もある.脳血管障害ばかりでなく,脊髄障害や神経障害を呈することもある.発熱,全身倦怠感などの全身症状を伴うことが多いが,伴わないこともある. 生前診断は困難なことが多いが,最近の化学療法の進歩により治療によって良好な経過を示し,軽快あるいは寛解する症例も報告されている.したがって,治療可能な潜因性脳卒中の一因としてIMLの可能性を念頭に置いておく必要がある.血清LDHやsIL-2Rの高値や髄液の蛋白細胞解離の所見があり,IMLを疑う場合は脳あるいは皮膚,筋,肺などの生検を考慮する.  血管攣縮は通常可逆性である.脳血管撮影で分節性2血管内悪性リンパ腫症(IML)血管攣縮ロトロンビン時間(prothrombin time;PT),APTTは異常を示さないことが多い.抗凝固作用が低下するため,容易に血栓症を発症する.通常は静脈系に血栓症を起こすが,時に動脈系にも起こし,脳梗塞をきたす.脳梗塞を生じた症例でも深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往を有することが多い.50歳未満の若年者の原因不明の血栓症では,原因の1つとして検査する必要がある.抗凝固薬の内服や肝硬変などの原因がなく,PC/PS活性が50〜60 %以下に低下している場合は,先天性のPC/PS欠乏症である可能性がある.いずれも常染色体優性遺伝であり,静脈血栓症が多い.脳梗塞の発症頻度は先天性PS欠乏症のほうが高いとされ,また欧米に比べてわが国で高頻度であるとの報告もある.治療は抗凝固療法を行う. 悪性腫瘍,特にムチン産生腫瘍では血液凝固亢進状態となり,全身性の血栓塞栓症を併発することがある.これを「 Trousseau症候群」と呼ぶ.悪性腫瘍は様々なサイトカインを分泌し,発熱,血液凝固亢進状態,血小板増多などを発現する.悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進状態に起因して,下肢の静脈血栓症,脳静脈・静脈洞血栓症,肺動脈血栓塞栓症および 非細菌性血栓性悪性腫瘍に関連する脳梗塞1Trousseau症候群 7その他の脳梗塞219脳梗塞,TIAⅢIML症例の頭部MRI所見60歳女性.運動性失語と右顔面の麻痺を主訴に入院.頭部MRIのFLAIR像(a~c)では両側多発性に結節性病変を認め,ガドリニウム(Gd)造影MRI(d~f)で造影効果(矢頭)を認め,多発性脳塞栓,転移性脳腫瘍などが疑われた.図4acbdef

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