2253医療スタッフのためのLD診療・支援入門
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39C│ 診察の実際 第2章LDの具体的症状と診断・検査の実際〈現症の問診や既往歴の聴取の注意点〉 原則として,学習習得に必要な認知能力は,日常生活に必要な水準よりも高い水準を必要とする.たとえば,日常会話は何となく通じているけれども,問題文の読解ができないなどがしばしば起こる. 一般に,問題点が経過とともに変容すると家族は解決したと考えがちである.また,年齢相応にできていない点に家族や教師が気づいていない,あるいは周囲が無意識のうちに補っていることもしばしばある.家族の口から自発的に語られることが少なく,現症や既往歴で見落とされやすいこれらの微妙なサインを拾い上げることができれば,子どもの困っている点の特徴が明確になる.3検査,評価a)知的水準の評価 知能検査は必須である.軽度のIDや知的境界域は,生活技能習得にはそれほど困っていない,あるいは気づかれていないことも多い.しかし一般的に,生活上の困難さからは想像がつかないほど,学習習得に困ることになる. 下位検査の成績から子どもの認知特徴がうかがえることがある.たとえば,言語能力やワーキングメモリに問題がある,などである.しかし,あまり数値の深読みはしないほうがよい.一義的には知的水準を測ることを目的として検査項目が構成されているので,当該能力を調べるために最適な検査方法とは限らない.能力の低下が推定されたら,その領域に特化した検査を採用すべきである. むしろ,検査中の子どもの反応や行動の変化に関する検査者の報告のなかに,学習の問題点のヒントがあることが多い.b)学習技能の評価 読み書き,計算,数学的推論など,学習の基礎的技能の低下が疑われた場合に施行する.読み書きや計算能力に対して,日本人小児の学年別平均値や標準偏差が提示された検査があるので,利用する. 知的能力の低下を認めた場合は,その水準に照らした判断が求められるが,判断に苦慮することが多くなる.1)デコーディング 文字や文字表記された単語を,スムーズに音韻に置き換える力を検査する.速さと正確さの両方の指標が必要である.2)文の意味理解 デコーディング以降,音韻化された文の意味理解する能力を検査する.デコーディングが障害された状態でも成績低下する.3)エンコーディング 音で示された単音や言葉を書く能力を測定する.4)計算 算数的事実(arithmetic facts)と計算手順(calculation procedure)の双方について,速さと正確さを計測する.

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