2258これならわかる!小児科診療に活かせる遺伝学的検査・診断・遺伝カウンセリングの上手な進めかた
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58症例提示症 例:2歳8か月,男児(III-1).主 訴:発達の遅れと関節拘縮.既往歴:右鼠径ヘルニア手術(1歳6か月).現病歴:正常分娩で出生.1歳までの運動発達はほぼ正常であったが,2歳まで意味のある単語を発しない.頭が大きい,両側上肢が十分に上がらない,腹部の突出,などの異常が次第に明らかになった.また,出生直後から蒙古斑に似た色素沈着が背部や下肢などに多数みられる.家族歴:母の兄(II-1)が18歳で死亡.病名は不明であるが,歩行困難,寝たきりの状態であったとのことである.母親は現在妊娠10週である(図1).診断へのアプローチ 発達障害,多動,頭囲拡大,特有の顔貌,関節可動域制限,肝脾腫,騒音性呼吸などを認め,全身骨X線所見で,オール状肋骨,椎体の卵円化,中手骨近位端の先細りなどのいわゆるdysostosis multiplexに相当する複数の異常所見がみられた.腹部超音波およびMRIで,肝脾腫を認めた.また,心臓超音波では,軽度の大動脈弁閉鎖不全と弁形態の異常が確認された.また,MRIでは,軽度の脊椎狭小化を認めた.耳鼻科的には,両側で滲出性中耳炎を認め,聴性脳幹反応(auditory brainstem response:ABR)では,軽度の感音性難聴を認めた. これらの臨床所見と検査所見から,ムコ多糖症を疑い,尿中のムコ多糖分析を行った.その結果,ウロン酸(ムコ多糖)排泄量の増加を認めた.分画では,デルマタン硫酸(DS)とヘパラン硫酸(HS)の増加を認めた.この所見から疑われるムコ多糖症はI型とII型であるが,性別と頻度を考慮し,ムコ多糖症II型を初めに疑い,白血球中のイズロネート-2-スルファターゼの活性を測定したところ測定感度以下に低下していたことから,ムコ多糖症II型と診断した(表1).疾患概要 ムコ多糖症は,グリコサミノグリカン(ムコ多糖)の分解に必要な酵素のなかの1つが先天的に欠損しているために,全身の細胞にムコ多糖が沈着することにより発症するライソ5ムコ多糖症(ムコ多糖症II型を中心に)各 論❷代 謝

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